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いつでもできる、となると、そこまで執着しなくなる【ママはキミと一緒にオトナになる#34】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、10歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第34回。

久しぶりの蜜月

私と息子氏(10歳)の関係が、最近ちょっと、調子が良い。 「僕は勉強が辛いし向いていない」と言ったり(連載第30回「ボクは、勉強の才能がないと思う」)、家出したり(連載31回「しまった。そういうことを言いたかったんじゃない…」)と、いろいろあったのだけれど、最近はお互いに穏やかに話ができている。

「ちょっとお手伝いしてくれる?」
と言ったら
「うん、わかった。1分待って」
と、ゲームをやめるようになったし、

「遊ぶよりも先に、お部屋片付けようか」
と言ったら
「オッケー、そうする」
と言うようになった。

なんというか、心が落ち着いているようだ。私が何か言うたびに、かっかしていた夏の頃に比べたら、雲泥の差だ。
まあ、そのうちまた、何かの拍子に大喧嘩したりするのかもしれないけれど、先方が落ち着いていると私もとても優しい気持ちになる。

久しぶりの蜜月を楽しんでいる母であります。

「好きなだけ、やらせてみればいいんですよ」

彼がこんなに落ち着いてきたのには、ひとつ、心当たりがある。

ちょうど、「勉強ってさせなくてもいいんだっけ? ゲームばかりさせていていいんだっけ?」と考えていたある日、私は、彼の家庭教師の先生と飲むことになった(家庭教師の先生とは、もともと仕事仲間なのです)。

この家庭教師の先生には、息子が中学受験の入塾試験に受からなかったとき、「四則演算を教えてあげてほしい」とお願いしたことがある。ところが、当の息子本人が「先生に受験勉強を教えてもらうのは、せっかく面白い話をしてくれる先生の無駄づかいな気がする」と言ってきた、くだんの先生である(連載19回「入塾試験が教えてくれたこと」)
先生にも、「息子氏の性格からいって、いわゆる受験的な勉強はまだ手を付けない方がいいと思いますよ」と言われた。

そんなこんなで、今でも、週に1回お世話になっているのだけれど、相変わらず「ドラえもんの道具について」とか「あまり知られていない職業について」など、毎回彼が興味を持ったテーマについて話をしてくれている。

その先生に、ちらっと息子のことを相談した。すると、
「さとゆみさんて、普段はぶっ飛んだことばっかり言うのに、子育てのことになると意外と保守的ですよね」
と笑われた。
「と、いうと?」
と聞くと
「ゲームなんて、一度、好きなだけやらせてみればいいんですよ」
と言う。
「ほう」
「『1日何時間やってもいいよ』と伝えて、気が済むまでやらせたら、だいたいどこかですっと飽きますよ。逆に『ゲームを作る側に回りたい』とか言い出すかもしれないけれど、それならそれでいいし」
と。

なるほど。たしかにそうかもしれない。
今は、ゲームをやってもいい時間に制限があるから、妙に執着する。「あと30分しかないんだから、途中でとめられない」となるし、「ご飯はもう少しあとにして」と、なる。

「いつでもできる、となると、そこまで執着しなくなると思いますよ」
と、彼は言う。
「そっか。落ちそうで落ちない女の子に執着しちゃうのと、同じだね。手に入れば、そこまで執着しなくなるのかも」
と私が言うと、
「ははは、そのたとえ!」
と、笑う。

北風と太陽

というわけで、その次の日、私は息子氏に話をした。
大事な話をするときは、我が家は、フローリングに正座である。

「あのね、ゲームをする時間に関して、制限をかけるのをやめようかと思ってさ」
と私が伝えると、彼はあからさまに顔を輝かせた。
「え、ほんとに?」
「うん、一度、好きなだけやってみるといいかなって思って」
「やった!」
「たださ、ゲームは好きなだけやっていいけど、学校のこととか、やらなきゃいけないことは、ちゃんとやってほしいんだ」
と、伝える。
「それ、できる? 自分で考えて、時間配分してほしいんだけど。それができるんだったら、キミの好きなように遊んでいいよ」

ここは重要ポイントだから、ちゃんと伝えたくて、ゆっくり話す。だけど、息子氏はもう、浮かれポンチだから、
「うんうん、わかったわかった」
と、語尾にハートがつきそうな勢いで、首を何度も縦に振った。

ほんとに、わかっているかなあ。どうなることやら……と思って様子を見ていたのだけれど。このやり方、思った以上に、彼に合っていたようだった。

時間制限を取っ払ったその週は、平日は1日5時間、土日は10時間近くゲームにのめりこんでいたのだけれど、宿題や部屋の掃除は、自分から進んでやるようになった。
あれから2カ月くらいたつけれど、最近では、それほどゲームを触っている時間も多くなくなった。あまり遅くまでゲームをしすぎると学校で眠くてしんどいということに気づいたようだ。落ち着くところに、落ち着きはじめているのかもしれない。

とはいえ、「自分が自由にゲームをできる権利」はキープしておきたいらしく、「彼にとっての義務(学校の宿題やら、家の手伝いやら)」は、はたそうとしている。
なんだか、いい感じなのである。

ふと、北風と太陽みたいな話だな、と思う。
何か新たな課題が出てくるまで、しばらくこの方向で運用してみようかと思っている母であります。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第35回は12月26日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)

ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学4年生の息子と暮らすシングルマザー。

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