『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)で「子ども本当に産んで大丈夫!?」「仕事と両立、本当にできるの?」など、出産についてとことん考えた犬山紙子さん。育児まっただなかの今、どんなことを考えているのでしょうか? 先輩ママ、独身女子などいろいろな立場から「妊娠・出産・育児」にまつわる話をしていきます。
【今回の会議参加者】エッセイストの紫原明子(16歳&12歳の二児の母)、編集K(7歳女&4歳男の二児の母)、編集S(独身)、ライター北川和子(8歳&7歳&0歳の三男の母)
働く後ろめたさや罪悪感は子どもが十代になってもある
null犬山紙子(以下、犬山):私の子どもは1歳になったばかりなんですけど、まだ色々大変で……。子どもが10代になったり大きくなると働きやすくなりますか?
紫原明子(以下、紫原):もしかしたら私は一昔前の子育て観を持っているのかもしれないけど、お母さんが家庭の外に楽しみを持つことについて、なんとなく罪悪感もあるんですよね。例えば、仕事がらみの外食で夜に外出したりするときとか、晩ごはんがコンビニ弁当になってしまうときとか。
犬山:後ろめたさは、子どもが小さいうちのものだと思っていたら、そうでもないんですね。“罪悪感”ってキーワードですね。
紫原:本人たちは、私がいなくて喜んでいると思うんですけどね。マンガも読み放題だし(笑)。
編集S:確かに! わたしも子どものころ、たまにあるコンビニ弁当の日ちょっと楽しかったですもん(笑)。
紫原:でもなんとなく私が勝手に後ろめたくなって、外出先からラインで「受験が終わったら旅行行こうね」って送ったりしちゃうんですよね。考えてみたら、元夫も普段、全然家庭にコミットしていなかったけれど、たまに外から「今度、ここに行こう」というメールが送られてきたなぁと。今、その気持ちがわかりました。
情報収集と事務処理で忙しく…子どもが成長すると大変になること
null犬山:お子さんが成長すると、逆に大変になることってありますか?
紫原:最近一番大変だったのが、息子の進学する高校選びです。私が子供の頃住んでいた福岡の田舎と違って、東京には公立、私立あわせて、高校がそれはもうごまんとあるわけです。特に我が家は交通の便が比較的良いところに住んでいたこともあって、通いやすさを考えてもまだ選択肢が絞りきれないという状況で。息子は何か一つが秀でているというよりはバランス型だったので、とにかく学校選びが最後の最後まで本当に大変でした。
犬山:うわー! 私そういうのすっごく苦手なので、不安です……。
編集K:選択肢がたくさんあるからこそ、大変ですね。特に私も含め、地方出身のお母さんには、カルチャーショックですよ。
紫原:子どもが自分で志望校を決めてくれるのを待っていたのに、多すぎて決まらないんです! 受験の仕組みも公立と私立、それぞれ複雑なので、親のコミュニケーション能力や情報収集力にかかっている感じがしました。
体力的にラクになっても考えることは増えるばかり!?
null北川和子(以下、北川):さらに、有名私立中学校への入学を希望する場合、小学校3年からの塾通いがもはや常識で、受験のための塾選びから始まるんですよね……。
紫原:前倒しして受験勉強をしないと、受からないと言われていますよね。
北川:中学校になると学校の勉強だけじゃ受からないから、ほとんどの生徒が塾に入るんだけど、その塾代が高くて、私の周囲の高校受験組のお母さん達はヒーヒー言っています。例えば夏季講習だけで、20万~30万円はザラだとか。
紫原:塾代が家賃とほぼ同じ額だったときは驚きました…。でもこの金額は、ある面では複雑な受験事情の情報代も兼ねているんです。進学先を決めるとき、公立の先生方からも、「塾ではなんと言われましたか?」と聞かれたりします。とはいえ、塾に通ったとしても成績が上がるとは限らないんですよ……
犬山:ヒャー、育児って、子どもが大きくなるにつれて、体力的にはラクになるけど、考えることが増えるんですね。必要な情報量もどんどん増えるのか。
紫原:選択肢がたくさんあるんだけど、その選択が家庭に委ねられていると、お母さんとかお父さんがすごく優秀じゃないと、対応できない部分があるような気がします。高度な情報収集力と事務処理能力が求められます。
犬山:学校からの手紙とか、いろんな手続きとか、自治体からの情報を取捨選択する方法なんて、教育の現場で教えてもらえなかったですからね。家に届くプリントや書類を処理してくれる人が欲しい!
全員:わかる、わかる!
紫原:私立の学校の中には、プリントじゃなくてメールでお知らせの学校もありますよ。でも、やはり公立の方がアナログです。受験説明会に出席するために、往復ハガキかファックスで申し込まなければならない都立中もありました。「往復ハガキって!」と思って、ここには通えないかもしれない……と判断しました。
自立に近づくときの子育てってどんな感じ?ママがラクになることは…
null犬山:子どもが小学生や中学生になったら、楽しいことってありますか?
紫原:小学校の低学年までは、習い事の送迎で少し手がかかりましたけど、小学校4年くらいになるとお迎えだけになって、塾が夜の8時とか9時に終わるようになると、それまでにどこかで1杯飲めたりします!
犬山:うわー! いい話だ!
紫原:学童とか、習い事とか、子どもをよそに預けることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、子どもに合った習い事を見つけてあげると、そこが家庭、学校に次ぐ“第3の居場所”になったりしますから、子どもにもいいと思います。
犬山:私も、勉強は嫌いだったけど、塾で会う友だちは好きだったなぁ。
紫原:とくに学校が合わない子にとっては、塾が居場所になったりもしますよね。
犬山:「子どもが自分とは違う子どもの世界にいる」っていうのは、働くお母さんの罪悪感を薄めることにもつながりますよね。だから、子どもの塾のお迎え時間まで1杯飲むことは、お母さんと家族のためになると思います!(笑)
次回は、紫原さんが携わる「『WE LOVE 赤ちゃん』プロジェクト」についてお話をうかがっていきます。
【取材協力】
紫原 明子(しはら・あきこ)さん
エッセイスト。1982年福岡県生まれ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)などがある。
構成/北川和子 撮影/田中麻以(小学館)