子育て世代の「暮らしのくふう」を支えるWEBメディア

「紫原明子×犬山紙子」“育児”が辛いんじゃない。それよりも本当に辛かったものとは?

“孤育て”“カプセル育児”いう言葉もあるほど、閉じた家庭の中で孤立しやすいママと子ども。ティーンエイジャーを育てているエッセイストの紫原明子さんもまた、“孤育て”の経験を持ち、初めての子育てが始まった頃を「100%は楽しめなかった」と振り返っています。

【犬山紙子の答えはなくとも育児会議】第15回は、そんな紫原さんが、子育てにおいて「ラクになった」と感じた瞬間を、犬山さんと語ります。

紫原さんは、自身の経験をつづった『家族無計画』(朝日出版社)、離婚した親を持つ子どもたちを取材した『りこんの子ども』(マガジンハウス)などを通じ、多様な家族の在り方を優しい視点で提言しています。

今回から数回に渡り、エッセイストの紫原明子さんにも参加いただきます。高校1年生と小学校6年生の子どもを育てている先輩ママの紫原さんに同世代の犬山さんが育児について聞いたことは……。

【今回の会議参加者】エッセイストの紫原明子(16歳&12歳の二児の母)、編集K(7歳女&4歳男の二児の母)、編集S(独身)、ライター北川和子(8歳&7歳&0歳の三男の母)

1対1で向き合う2人が空中にポツンと残された感じだった

null

犬山紙子(以下、犬山):紫原さんは、現在高校1年生と小学校6年生のお子さんがいらっしゃいますよね。私の子どもは今1歳で、自分の時間が全くないわけじゃないけど、毎日バタバタしています。いつになると育児に余裕が出てくるのか知りたいんですけど、紫原さんの「子ども年表」をざっくりと教えて頂けませんか?

紫原明子(以下、紫原):私は、19歳で1人目の息子を産んだのですが、当時は自分があまりにも子供だったので、「子育てが100%は楽しめなかったな」という後悔が残っています。うちの場合は、元夫があまり家にいなかったし、周りの子はみんな大学生になっていて友達もいなかったから、孤立している感じでした。

当時、タワーマンションの23階に住んでいて、地上からも離れて、空中にぽつんと2人残されているような感じで。当時は孤独で、「早く明日になれ、ラクになれ」と思っていました。

でも、「ちょっとラクになった」と感じたのが、2人目が生まれたときです。

犬山:そうなんですか! 今ちょうど、“2人目どうしよう問題”を抱えているので、その話メッチャ聞きたい。

紫原:娘が生まれたら、私と息子の1対1の関係から、私・息子・娘の三角形ができたような気がしたんです。息子に「赤ちゃん、かわいいね」と言えば、息子も娘を見るようになって。それまで、“点”と“点”の関係でお互いしか見てない状況から、三角形になって向く方向が増えて、気持ちがラクになったような感じでした。

犬山:それって、夫婦にも当てはまりそう。ずっと夫婦2人で向き合っているよりは、ペットがいたりすると、関係が変わりますよね。

紫原:家の中の風通しがちょっと良くなるというか、社会が広がるというか。例えば、長男が幼稚園から妹のために草花とかおみやげを持って帰ってくるようになると、自分がもらうより嬉しい気持ちになるんですよ。子ども同士で思いあっているのを見ていると、かわいくて。

編集K:1対1の頃は、関係性が“直線”でしかなかったのが、三角形になったら“面”が生まれるという感じですね。

「家庭」という密閉空間から一歩抜け出すと、一気に楽しくなった

null

紫原:そして、息子が幼稚園に入ったら、ママ友もできて、さらに心の余裕ができました。当時、幼稚園のお母さん達の多くは働いていなかったから、お茶に行ったりして、楽しい毎日になりました。

犬山:接する人が増えると、社会との接点も増えて、どんどんラクになってくるのかもしれませんね。

紫原:本当にそうなんですよ!そして、「密閉空間にいたな」ということに気づいたんです。ママ友から「うちは、こんな風にしているよ」という話を聞いて、こんなに手抜きしているの、自分だけじゃなかったんだ!」と気づかされることもあります。それまで、自分がダメな育児をしているように思えていたから救われました。

編集K:分かります親としてリアルタイムで同じような歩みをしてる存在だから、ママ友はありがたいです。

紫原:育児中で一番弱いところを支え合えますからね。

犬山:私、世間の“ママ友”へのバッシングが強すぎると思うんですよ。私も、産む前は「ママ友なんて絶対作らない!」と思っていたんですけど、実際「“ママ友”って全然普通じゃん」って。

紫原:確かに。“ママ友”という言葉を変えた方がいいですね。ただの“友達”でいいのに。

犬山:どこに行ったって、気の合うヤツもいれば、合わないヤツもいる。それだけの話ですよね。

自分のためだけじゃない!家庭の外に「居場所」を持つことの意義とは

null

紫原:1人目を産んだとき、子どもと私が“点と点”で辛いと感じていたのは、元夫が家にいなくて、いつも2人きりだったから。点と点をつなぐ“線”が濃密になりすぎるのを防ぐには、お母さんもボランティアをするとか、仕事をするとか、趣味を持つとか、家庭の外にも居場所を持つのは本当に必要だと思う。家庭外にも“点”を増やすというか。

犬山:うちは今、うまい具合に私・夫・娘の三角形ができているんですけど、じつはこれ、先人の知恵がありきなんですよ! 紫原さん始め、私より先に子育てしていた先輩たちの「子育ては、人に頼ることが大切」という声を出産前に聞いていたから。

紫原:SNSを見ていると、ネットリテラシーの高い方々の今の子育て世代って、上手だなぁと思います。自分が煮詰まらないように、「これは子どものため」と息抜きに出かけたり。ちゃんと情報を得て活かしているなぁと。

犬山:これは本当に、先輩たちがやってきた苦労を経て、私たちの世代に“生きた情報”として下りてきているからですよ。子育ての先輩の皆さんには、本当に感謝しています。

 

これまでの子育て年表を振り返り、家庭以外の居場所ができるにつれ、少しずつ育児が楽しくなっていったという紫原さん。次回は、お子さんが成長したからこそ出てくる悩みや楽しみについてうかがいます。

 

構成/北川和子 撮影/田中麻以(小学館)


【取材協力】

紫原 明子(しはら・あきこ)さん
エッセイスト。1982年福岡県生まれ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)などがある。

pin はてなブックマーク facebook Twitter LINE
大特集・連載
大特集・連載