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子どもの目の位置で世界を見る【ママはキミと一緒にオトナになる vol.28】

コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、10歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第28回。今回は、ブレイディみかこさんの新著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』を読んで改めて思う、子育ての面白さのおはなし。

子育ての面白さ

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昨夜22時に、もうすぐ子どもが生まれる友人からメッセージが届いた。
「ブレイディみかこさんの新作、読みました?」

彼女がいうのは、この2年間で80万部突破したエッセイ集、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の続編のことだ。
黄色い表紙にこちらをじっと見つめるような少年のイラストが印象的な一冊目は、ご存知の方も多いと思う。実はこの連載のイラストも描いてくださっている中田いくみさんの手による装画です。

「その続編って、たしか今日発売したばかりでは?」と思ったら、やはりその通りで、彼女は発売初日に購入し一気読みしたらしい。「感想が聞きたいから、読み終わったら教えてほしい」という。

もうベッドに入っていたけれど、その場でポチっと電子書籍を買いケータイで読み始めたら、1冊目を読んだときの興奮が鮮やかによみがえってきて、私も一気読みしてしまった。

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はじめてこの本の前作を読んだのは、2019年の年末のことだった。クリスマスプレゼントをもらったような気持ちになったのを覚えている。
どうしてそんな気持ちになったかというと、この本が、「子育ての面白さ」の根っこみたいなものを見せてくれたからだと思う。

子育ての面白さ。
それは、子どもの目の位置で世界を見ると、今までとは全然違った景色が見えてくること。自分一人では出会わなかった世界に、出会えるようになること。

それは、当時小学2年生の子育てをしていた私が、うすうす予感していたことでもあった。だから、子どもと一緒に世界をもう一度発見し直している母親(ブレイディみかこさん)の静かな興奮は、私の胸にもひたひたとせまってきた。

私と息子氏の間にも、今後、こんなエキサイティングな時間が待っているんだと思うと、先々が楽しみで楽しみで仕方なくなった。

人さまの力で、強制的に人生が豊かに

私は普段、ライターとして、いろんな分野の人の話を聞く。
自分にはまったく知識のない分野の専門家にインタビューすることもあり、聞けば聞くほど、その人が見ている世界は、私が見ている世界とは全然違うと感じる。

原稿を書くときは、できるだけその人に見えている景色を、読者の人たちの目の前に再現したいと思って書いている。イメージとしては、その人の目の玉の位置に自分の目の玉を置き、そこから見える映像を書き取るような感じ。 すると、毎回ではないけれど、その人とちゃんと体が重なって、話を聞いていただけではわからなかった、その人の「思考の根っこ」みたいなところに触れることができるときがある。するとまた、ぶわーっと見える世界が広がる。

こういうとき、その人と出会う前の自分とは、違う自分になっていると感じることがある。 この「人さまの力で、強制的に人生が豊かになっちゃう」感じが好きで、私はこの仕事を愛しているのだが、「あれ? 子育てもこれに似たところがある?」と気づいたのは、子どもが小学校に入った頃のことだった。きっと、自分の言いたいことを、自分の言葉で表現できる年齢になったからだろう。

子どもが発する言葉や、子どもを取り巻く先生や友人たちの言葉は、社会がぎゅっと凝縮されている。息子の言葉に真剣に向き合うと、いやでも社会の課題について考えることになる。
子どもの目に見えている世界は、すごくピュアなときもあるし、すごく残酷なこともある。でも、それを真剣に想像しようと思えば思うほど、自分の世界も広がる。そう思うようになってから、子育てが倍々ゲームで面白くなってきた。

そこにきて、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』との出会いである。

私も、こんなふうに、息子との会話から世界を見つめ直してみたいなと思ったし、そのためにも、もっと濃密に子どもを取り巻く世界と関わってみたいなと思った。昨年PTAの役員を引き受けたのも、実はこの本を読んだのがきっかけだ。
関わって感じたことを、文章に残してみようと思ったのも、この本を読んだことが大きい。

子育ての話は、いつだって、とても個人的な話だ。
でも、私たちの子どもが幸せでありますようにと願うことは、彼/彼女が生きるこの社会が幸せであるようにと思うことにつながる。すると、一周回って自分はこの半径5メートルの社会で何ができるだろうと考えるようになる。

子育ては、面白いと思う。
そして、子どもと一緒に、自分も育ててもらっていると、感じる。

話せることも、話せないこともある

肝心の「イエローでブルー」の続編の話だけれど、今の私にはちょっと切なかった。

母と息子の対話が軸になっているのは前作と変わらないのだけれど、息子の登場回数がぐっと減り、母親の体験に基づくエピソードが増えた。
これは、本にも書かれていたとおり、息子が思春期にさしかかり「話せることも、話せないこともある」ステージになったからだろう。
この本は、親離れの本でもある。

一方で、前作では、子どもを媒介に世界と深くコミットしたブレイディさんが、続編においては、それ以外の方法で思考を深めていくのは、心強かった。子どもがいるからこそ書けた「世界との対話」は、子どもが不在になっても、消えるものではないのだ。
この本は、希望のある子離れの本でもある。

我が家の息子氏も、いろいろ話してくれるのは、あと何年だろう。
そう思うと、ますます「今のうちに、いろんな話を聞きたい」という気持ちが強まる。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第29回は10月3日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)

ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学4年生の息子と暮らすシングルマザー。

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