マウスウォッシュでは歯垢は取り除けない
昭和大学歯学部教授で歯周病学の専門家である山本松男先生は断言する。
「マウスウォッシュで口をブクブクすればいいと思っている人がいますが、歯磨きしない限り歯垢(デンタルプラーク)は取り除けません。歯垢は物理的にブラシでこすって取り除くしかないんです」(山本先生)
最近はマウスウォッシュにもさまざまなタイプが出ており、実際口に含んでブクブクすればすっきりするし、口臭も軽減する……気がする。しかしそれでは絶対に、虫歯や歯周病の原因となる歯垢は取り除けないという。
「歯垢は歯の表面や、歯と歯の間、歯と歯茎の間にべったりと張りついています。マウスウォッシュは香料が入っていて、たしかにすっきりしますが、歯面にべったりと張りついた歯垢を取り去ることはできません。歯垢を取り除くには、歯ブラシ(電動でも普通の歯ブラシでも)で物理的に掻き出すしかないのです」(山本先生)
歯周病で骨が破壊される……
歯を失う主な原因は、虫歯と歯周病だ。そして虫歯と歯周病は、磨き残しから引き起こされる。歯の表面や歯と歯の間、歯と歯茎の間に食べかすや糖分がたまると、そこで分解されて酸がつくられる。その酸が歯を溶かし、虫歯となる。
では歯周病はどのようにしてなるのか。歯をしっかり磨かないでいると、歯の周辺に歯垢がたまって歯石となり、歯周ポケットができる。そうするとそこに細菌がたまる。恐ろしいのはそれらの細菌には嫌気性のものもいて、酸素がないところを好んで棲息する。だから歯周ポケットの奥深いところに巣くうのだ。
私たちの骨は毎日作り変えられている。骨芽(こつが)細胞が骨を作り、破骨細胞が骨を壊す。通常は骨芽細胞と破骨細胞の働きが1:1で、骨が生まれ変わっていく。
しかし、歯周ポケットに巣くった細菌がLPS(リポ多糖体)という毒素を出すと、炎症が起きる。炎症が起きると、破骨細胞の働きが促進されて、骨芽細胞が骨を作るのを上回ってしまう。その結果、歯を支える骨(歯槽骨)が破壊され、支える骨を失った歯はグラグラして抜けてしまう。
歯垢は毎日落とす、なおかつ1年に最低1回は歯石除去を
山本先生は、毎日の歯磨きでしっかり歯垢を落とすこと、そして最低でも1年に1回は歯科で診察してもらって歯石を除去してほしいという。歯周ポケットの奥深い場所についた歯石は自分では取り除けないからだ。歯石を作らないためにも日常の歯磨きで歯垢を掻き落とすことが大切だという。
歯周病が進行すると、歯がグラグラしてきたり歯肉が腫れたりしてくるので、食べ物を噛んですりつぶす咀嚼(そしゃく)能力が落ちる。そうすると、野菜のようなものより、炭水化物のように柔らかくて糖分の多いものを食べるようになる。これがさらに虫歯や歯周病を悪化させるのだ。
就寝前にはしっかり徹底的に歯磨きを
歯が悪くなるのを防ぐには“歯磨き”しかない、というのはよく理解できた。しかし時間のない現代人のこと、さっそく講座後に次の質問が飛んだ。
「歯磨きが大事なことはわかりましたが、どうしても時間がない場合、いいかげんな歯磨きを1日3回するのと、1日に1回しっかり歯磨きをするのとではどちらがよいのですか?」
「1日3回歯磨きをしてほしいんです。忙しい朝や出先の昼食後に時間をかけられないならば、せめて寝る前にしっかり歯磨きをして、1日の間にたまった歯垢を徹底的に除去してください」(山本先生)
とにかく、1日に最低1回は、歯垢を徹底に取り除くことが大切だという。
歯間ブラシとフロスはどちらがベター?
ここで気になることを聞いてみた。
「歯ブラシで磨いたあと、フロスをかけるのと、歯間ブラシを使うのとではどちらがよいのですか?」
山本先生によれば、フロスは歯と歯茎の間、歯と歯の間にたまった歯垢を“面”として取り除くことができるので、大変によいという。しかし、慣れないと使いにくい。使いにくいから使わない、となるのなら意味がない。フロスが面倒ならせめて歯間ブラシで歯垢を取り除きましょう、というのが山本先生の意見だ。
日本人はまだまだ歯に対する意識が低い。歯の健康のためには、まず1日3回歯磨き、就寝前にはしっかり歯磨き、フロスか歯間ブラシでブラシの毛先が届かないところの歯垢を一網打尽。後悔しないために始めよう。
◆取材講座:「暮らしと健康~お口の健康~」(昭和大学歯科病院)
取材・文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム
(初出 まななび 2018/07/04)