耳そうじをやりすぎてはいけない理由3つ
null前回、伊東先生にお話しをうかがった「風呂上がりも気を付けて!耳鼻科医に聞いた“耳そうじ”の注意点あれこれ」でもお伝えしたように、耳垢は本来、外耳道を守ったり、細菌が増えないようにしたりするという役割を担うもので、耳にとって必要なものです。また、耳には自浄作用があり、わざわざ耳そうじをしなくても、耳垢の多くは自然と外に押し出されます。
それにもかかわらず、耳そうじを頻繁に行うと、以下のような症状を引き起こすおそれがあるとのことです。
(1)外耳道を傷つけてしまう
(2)炎症を起こしてかゆみや耳垢が増える
(3)耳垢を押し込んで耳の奥をふさいでしまう耳垢栓塞(じこうせんそく)になる
「実際に、耳そうじのやりすぎでトラブルを起こして耳鼻科を受診する患者さんはたくさんいらっしゃいます。患者さんには耳そうじをなるべく控えるようにアドバイスしているのですが、トラブルを起こしてもなお耳そうじがやめられず、何度も同じトラブルに見舞われたり、症状がどんどん悪化して治療が長引いたりするケースも少なくありません」(以下、「」内は伊東先生)
伊東先生によれば、耳そうじは極力やらないほうがいいそうです。ただ、どうしても気になる場合は、前出の記事でもお伝えしたように、耳の入口付近まで出てきたものを、耳かきでそっとすくうだけにしましょう。耳かきや綿棒で耳の奥をガリガリこするのはNGです!
なぜ日本人は耳そうじがやめられない?
null耳そうじのやりすぎはよくないという情報は、インターネット上でもよく見かけるようになりました。それにもかかわらず、耳そうじをやめられないのは一体なぜなのでしょうか?
この点について、伊東先生は以下のように分析しています。
「日本人の耳そうじ好きは、歴史や文化によるものかもしれません。
実は、古墳からも耳かき状のかんざしが出土したことがあるそうです。それくらい日本人は昔から耳そうじが大好きで、親から子へと受け継がれてきたのでしょうね。
また、耳“垢”は悪いもの、耳“そうじ”はよいものという言葉のイメージも、ついつい耳そうじをやってしまう一因かもしれません」
たしかに、耳そうじをしないとお風呂に入らなかったり、部屋をそうじしなかったりするのと同じような気持ち悪さを感じてしまう人は多そうですね。
「ちなみに、英語で耳垢は“earwax”といいます。ワックス……つまり耳にとって必要、有益なものだと認識されているのです。
また、“Never put anything larger than your elbow into your ear.(肘より大きなものを耳のなかに入れるな)”ということわざもあります。直訳では“肘より大きな”ですが、これも要するに耳のなかをむやみにいじらないほうがいい、という戒めの一種だと思います」
日本と英語圏では、捉え方が全然違う! 耳かきや綿棒でガリガリと耳をひっかくのは、耳をきれいにするのではなく、皮膚を保護するワックスを無理やり引きはがすようなものなのですね。
耳そうじをしないと落ち着かない人は、まずは耳から出てくるものを“垢”ではなく、“ワックス”なのだと認識するようにしましょう。
最後に、伊東先生から一言アドバイスを。
「耳そうじをしないと耳垢がたまるんじゃないか、と不安で仕方がないかたも多いようですが、耳そうじを頻繁に“する”のと“しない”のとでは、“する”ことのマイナス面のほうが断然大きいです。耳はできるだけそっとしておきましょう。
また、耳がかゆいのは耳垢のせいではなく、アトピーなど他の原因が関係していることもあるので、どうしても気になる場合は、医療機関を受診するのもよいかと思います」
もしかして私、耳そうじ依存かも……と心当たりのある人は、ぜひ今日から耳かきや綿棒から距離をおくようにしましょう!
【取材協力】
伊東祐永(いとうすけなが)・・・宮前平トレイン耳鼻咽喉科院長。金沢大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院などの勤務を経て、2014年に川崎市宮前区に宮前平トレイン耳鼻咽喉科(東急田園都市線 宮前平駅前)を開院。アレルギー性鼻炎、花粉症に対して舌下免疫療法やレーザー治療も行っている。他に風邪、中耳炎、補聴器、睡眠時無呼吸・いびき、小児耳鼻咽喉科などが得意。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医。