和装喪服の基本…装いの種類と身につける小物
null黒無地染め抜き五つ紋は遺族が着用する「正喪服」
喪服には洋装と和装がありますが、最近では女性でも9割以上が洋装で、男性の和装はほとんど見られません。
黒無地の染め抜き五つ紋つきの着物は、格の高い正式な礼装なので、遺族が着用します。なお、“五つ紋”とは、左右の胸と両袖の背面、背筋の上の5ヵ所に家紋を表したもの。
参列者が略喪服として着物を着用する場合は、格を下げて三つ紋もしくは一つ紋の着物に黒の喪帯を合わせます。“三つ紋”は背筋と両袖の背面に、“一つ紋”は背筋に家紋を表したものです。
ただ近年は、参列者で和装をするのは、故人と着物を縁としてつながりがあるなど、普段から着慣れている人がほとんど。着物になじみのない場合は、無理をせずに洋装で参列したほうが無難です。
葬儀で女性が着る和装の装い…各アイテムと着方について
(1)着物、帯
遺族の場合は、黒無地の染め抜き五つ紋つきに黒無地の丸帯を締めます。帯は不幸が重ならないようにとの意味から、一重太鼓に小さめに結びます。喪服の着物生地は光沢のない羽二重、もしくは一越ちりめんで、夏は絽(ろ)を使います。
慶事とは異なり、留袖は着用しません。参列者は黒か地味な色無地の一つ紋か三つ紋の着物に、帯は黒喪帯を締めます。
(2)半衿、襦袢は白色に
白にします。肌の露出を控えることから、衿合わせは深めに。
(3)帯締め、帯揚げは黒色に
いずれも黒にします。帯留めはつけません。帯枕など見えない小物は黒を使わなくても問題ありません。
(4)草履、足袋、襦袢(じゅばん)、バッグ
草履とバッグは布製が正式ですが、ない場合は革製でもいいでしょう。足袋と襦袢は白を着用します。
(5)髪型はシンプルに
あまり高い位置ではないひっつめスタイルなど、シンプルにします。慶事とは異なるため、美容院には行かずに自分でまとめる人が多いです。
(6)羽織は着ない
羽織は着用しません。喪服用の着物コートはありますが、室内では必ず脱ぎます。
男性が着る喪服の和装について
喪主、遺族の場合は、黒の五つ紋付の羽織袴を着用します。羽織紐や鼻緒は白か黒。
参列者が和装をする場合は、白無地に三つ紋か一つ紋付きの羽織と対の長着を着用します。ただし袴は履かず、地味な角帯を締めて畳表の草履を履きます。
法事やお別れの会で着用するときは「色喪服」を
法事やお別れの会、偲ぶ会などで着物を着用する場合には、略礼装となる“色喪服”があります。茶、灰、藍、紫、緑などの色無地や江戸小紋を使うことができますが、不祝儀の席なので生地は喪服と同様に光沢がないちりめん、地紋(じもん)が入る場合は慶事の文様は避けて、“雲取り”や“波紋”などを選びます。
一つ紋が一般的で、帯は“黒喪帯(くろもおび)”もしくは地味な色合いの色喪帯“(いろもおび)”を締めますが、喪主や遺族は格の高い黒喪帯を選びます。
なお、色喪服は略礼装ですが、参列者でも通夜や告別式では着用しないことが多いようです。ただ決まったマナーはないので、故人とのかかわりなどケースバイケースで告別式に着用することも。
喪主や遺族は三回忌から着用するのが一般的で、親族の場合は一周忌の法要から着用できる場合もあります。地域やご家族の考え方にもよるので、迷った場合は尋ねてみるといいでしょう。
着物の喪服を用意するには
null遺族のレンタルは、小物一式付きで着付け可の葬儀屋さんが便利
着物を着用する場合、購入とレンタルの方法があります。遺族がレンタルをする場合は、葬儀屋さんに相談するのがもっともスムーズ。小物を含む一式を用意してもらえ、着付けも頼むことができます。
レンタル料は2万円前後が主流ですが、着物の素材によってはさらに安価に借りられることも。ただし肌着や足袋はレンタルできないので、用意しましょう。
参列者で喪服の着物をレンタルしたい場合は、貸衣装店のほか、葬儀社や呉服店のレンタルサービスを利用する方法があります。
購入する場合は、ネット通販を利用しても
あらかじめ購入する場合は、百貨店や呉服屋を訪れるほかネット通販を利用してもいいでしょう。価格はかなり幅があり、おおよそ10万円前後から見つかります。
なお、地域によっては五つ紋の喪服を嫁入り道具として持たせることがあります。もしくは19歳の厄除けに黒紋付きを作る習わしのある地域も。
喪服の家紋はどうすればいい?
家紋とは家々の紋所で、明治以降に庶民に広がりました。代々継がれている家紋がない場合、自由に決められたこともあり、数千種類の家紋があります。
このうちよく使用されている家紋は100種類程度。自分の家の家紋は、家族や親戚に尋ねるとわかるでしょう。また多くの場合、先祖の墓石に家紋が彫られています。
家紋を調べる時間がなかったり、どうしてもわからない場合は誰でも使える“通紋”を使用します。レンタルの場合は通紋を使用するか、着物の上に一時的に貼りつけるシールタイプの家紋を使います。
女性の喪服の家紋は、嫁入り道具と持たされた場合は実家の家紋、結婚後に仕立てた場合は嫁ぎ先の家紋を使用することが多いようです。
【監修】
葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタント
吉川 美津子(きっかわ みつこ)
大手葬儀社、大手仏壇・墓石販売店勤務を経て、専門学校にて葬祭マネジメントコース運営に参画。現在は葬儀・お墓・終活ビジネスコンサルタントとしての活動に加え、医療・介護と葬送・供養の連携を視野に葬送・終活ソーシャルワーカー(社会福祉士)としても活動している。
共同監修『葬儀・相続 手続きとお金』(扶桑社)、共著『死後離婚』(洋泉社)、著書『お墓の大問題』(小学館)など。