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「うちの弁護士は手がかかる」はテレビっ子によるリーガルドラマだ!すべての人に「ムロツヨシ」を

これはもう平手友梨奈さんの代表作になるのでは?との声が高い、ドラマ『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)。

独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに、その見どころポイントをうかがいました。

ムロツヨシこと蔵前勉が側にいたらいいのに

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いろいろと「とっちらかっている」人って、周囲にいないだろうか。事務処理能力や他人への配慮が著しく欠損した人。天才肌であっても、近くにいる人はちょっぴり、いや、かなり迷惑。右腕なり秘書なり補佐なりを見つけてほしいのだが、たいていは気性や人使いが荒く、いつのまにか人が離れていく。

脳内に思い浮かぶ人が数人いるのだが、「あの人のそばにムロツヨシがいたらいいのに」と思ってしまう。ムロツヨシというか、ムロツヨシが演じるパラリーガル・蔵前勉ね。『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)の話である。

捨てる神あれば拾う神あり

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蔵前は人気女優・笠原梨乃(吉瀬美智子)のマネージャーとして、30年間すべてを捧げてきた男だ。ワガママ女優の機嫌を損ねないよう直球の物言いを避け、さりげない気遣いと水面下のサポートでトラブルや危機を回避、心身ともに支えてきた自負がある。

ところがある日突然、解雇される。しかも梨乃の海外進出が決まった日、レッドカーペットを歩く公衆の面前で。蔵前の自負は梨乃にとって「驕り」にすぎず、けんもほろろに捨てられたのだった。

絶望の淵に立たされた蔵前は、電話で理路整然と悪態をつきながら速足で通り過ぎた女性が書類を落とすのを目撃。鋭い勘とリサーチ力で彼女の法律事務所をつきとめ、書類を届けに行く蔵前。偶然にも、そこは以前梨乃の出演作で法律監修をした弁護士・香澄今日子(戸田恵子)の事務所だった。重要書類を落としたのは若き天才弁護士・天野杏(平手友梨奈)。香澄は蔵前の機転と洞察力を買って、杏のパラリーガルになることを打診。30年尽くした女神に捨てられたその日に、拾う女神に遭遇。ただし、杏は問題の多い弁護士だった……。

杏は史上最年少で司法試験に合格、20歳の新人弁護士という設定。法律の知識は豊富だが、他人への配慮や協調性はゼロ。主成分はグミとジュース(子どもか!)。遅刻するわ、口さがなく無礼な態度だわ、事務所の仲間の名前を憶えていないわ、真っ向から否定して論破しちゃうわ、無理スジな依頼を引き受けちゃうわで、さあ大変。文字通り、手のかかる弁護士である。

蔵前は魑魅魍魎が跋扈する芸能界で30年も荒波を乗り越えてきただけに、「観察眼・先回り・気遣い・裏工作」が得意。暴走する杏に並走して、若き天才を陰で支える右腕となっていく。そんなわけで、とっちらかっている人にムロツヨシがいたらいいのに、と思ったわけよ。

テレビ&ドラマ大好き人間が作るリーガルコメディ

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芸能マネージャーだっただけに、蔵前のセリフは完全にテレビっ子。『踊る大捜査線』『HERO』(ともにフジ)など、フジのドラマだけにあらず、他局の番組オマージュもちらほら。これがわかるのは40代以上で、ターゲットをそこにしたのは成功とは言い難いが、個人的には感慨深い。実際、杏には1ミクロンも通じない。

ちょっと余談だが、橋本環奈主演の『トクメイ!警視庁特別会計係』(カンテレ)も、オープニングはあらゆる年代のドラマや映画の要素を取り入れている。『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS)、『太陽にほえろ!』(日テレ)に『あぶない刑事』(日テレ)、映画『ショーシャンクの空に』など。昔を懐かしく振り返り始めた世代が権力を握ったのかなと邪推もしたくなる。

話を戻そう。香澄法律事務所の面々はコミカルにバランスを整えている。やや俗物っぽさも残しながら裏で手を回すだけの力をもつ所長の香澄(美声の戸田が適役)、大学5浪&司法試験5回でけっしてあきらめない、汗と根性と努力の弁護士・山崎(松尾諭)、民事で勝ち取りまくって事務所に貢献するやり手の弁護士・辻井(村川絵梨)。剛柔というか、硬軟というか、この3人の弁護士がいれば、ひとりくらい問題の多い弁護士がいてもなんとかなるだろうと思わせる。

さらに、30年のキャリアをもつスーパーパラリーガルの丸屋(ここ数年ひっぱりだこな酒向芳)と、加齢臭が漂いがちな事務所に若い感性をもたらすアルバイト・岩渕(日向亘)を配備。事務所の手練れな面々が、座長ムロツヨシを盤石に支えている(法律クイズのシーンが馬鹿馬鹿しくて結構好き)。

もちろん、ふざけているだけではなく、ちゃんと解決する。テレビ局でのパワハラ、いじめ・誹謗中傷訴訟に父親の親権奪取、強盗致死事件の真相究明、大学の部活中の事故にからむ忖度と労働問題、動画配信サイトでの殺害予告など、毎回難題に直面するも、希望のある解決へと導く杏と蔵前。1話完結の妙味は、今から観ても遅くない。

ラスボスの貫禄、ソウルメイトの存在感

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さて、杏には宿敵の存在がいることにも触れておかねば。父の法律事務所を継いで、剛腕をふるっているのが、杏の異母姉の天野さくら。演じるのは江口のりこだ。無表情かつ言葉少なめの強烈なヒールとして君臨。部下の弁護士たち(大倉孝二、菅野莉央)がことごとく杏に負け続けていることもあって、苛立ちはマックス。傍若無人な杏が異母姉の前では怯えているのか押し黙ってしまう。この姉妹関係にも今後は着目したいところ。

また、蔵前にはマネージャー時代の同僚・安藤がいる。悩みも愚痴も相談も、何でも話せるソウルメイトを安達祐実が好演。歯に衣着せず辛辣、叱咤激励のちょうどよい湿度、男女間の友情ここにあり、といった感じだ。サシで会って飲み屋でくだをまくだけで、ヒントも癒しもくれる存在。こういう女友達がいる男性はたぶん仕事もできるし、頭が柔らかくなるだろうなと。ということで、「あの人のそばに安達祐実がいたらいいのに」とも思わせる。身近にいる厄介な人に紹介したい人材が多い、そんなドラマなのだ。

『うちの弁護士は手がかかる』
フジテレビ系 毎週金曜夜21時00分~
脚本:服部隆、おかざきさとこ、西垣匡基、中園勇也、神田優 音楽:川井憲次、fox capture plan プロデュース:金城綾香 演出:瑠東東一郎、相沢秀幸、下畠優太、中田博之、片山雄一 台本イラスト:藍にいな
出演:ムロツヨシ、平手友梨奈、吉瀬美智子、菅野莉央、日向亘、安達祐実、村川絵梨、松尾諭、時任三郎(ナレーション)、野間口徹、大倉孝二、酒向芳、戸田恵子、江口のりこ ほか

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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