夫、魚を捌くのに目覚める
null結婚して最初の誕生日に名入りの刺身包丁をあげたのがきっかけで、すっかり魚を捌くのに目覚めてしまった夫。以来、時間ができると家族で近くの佐島漁港に魚を買いに行くのが習慣になりました。
佐島は相模湾に面した豊かな漁場で、伊勢エビやサザエ、イカなどたくさんの魚介類が獲れます。また「西の明石、東の佐島」と称されるほど地タコが有名で、丸々太ったイキの良いタコが手軽な値段で買えます。
船がたくさん係留する漁港の脇を通り過ぎていくと海に面して2軒の魚屋が並んでいて、水槽には水揚げされたばかりのたくさんの魚が泳いでいます。「今日はどんな魚がいるのかな」と水槽を覗き込んで娘とはしゃぐ私たちを尻目に、夫はいそいそと夕飯用に食べたい魚を選んで買い出しをしています。
そして家に着くなり、まずは捌いてお刺身に。夕飯前のまだ陽があるうちにテレビで相撲観戦などしながら食べるお刺身は格別です。その刺身をつまみながら、夕飯の支度をするのがすっかり夫の週末の楽しみになっているようです。
そんな魚好きな夫が、「僕が仕事している間に、君は釣りに出かけて魚を釣ってきてくれたらいいな」と言うようになりました。それがまんざら冗談でなく本気だったようで、私もおだてられてその気になって、去年あたりからちょいちょい週末に練習がてら家族で近くの海に釣りに出かけるようになりました。
日常を忘れて釣り糸を垂らす
null三浦半島には良い釣りポイントがいくつもありますが、娘もいるので比較的足場がよく、磯遊びもできる場所を選んでいきます。
水がきれいな場所にいくと上から覗いていてもイワシの群れが横切ったり、カラフルな魚たちが優雅に泳ぐ姿が見られて、それだけで楽しめます。娘も「あっ、ニモだ! シマシマの魚が泳いでいる〜」と大興奮。最初のうちは一緒に釣り糸を垂らして楽しんでいますが、そのうちに飽きて、夫と磯遊びに出かけていくのが常です。
残された私は陽の光を受けてキラキラと揺れる水面をひたすら見つめながら、魚がかかるのを気長に待ちます。日常にはない穏やかな時間が心地よく、釣れなくてもいつまでも飽きずにいられてしまいます。
とはいえ、やっぱり釣りの醍醐味は釣れた瞬間!
突然、グググっと糸を伝って竿を握る手にくる魚の振動に心臓バクバク、一気に心拍数が上がります。家族が誰も近くにいないときに釣り上げてしまったときなんかは、この喜びを誰と分かち合えばいいのかわからず、一人で喜びを噛み締めながら静かにバケツに魚を放ちます。大抵は全長10センチにも満たない小魚ですが、どんなに小さくても小躍りしたくなるくらい嬉しくって、この瞬間がやみつきになります。
釣り方はもっぱらエサに似た擬似バリのついた釣り糸を垂らして餌を撒き、食いつくのを待つサビキ釣り。これまで釣れたのはカサゴ、イワシ、サバ、フグ、アジなど……。ほぼ初心者ですが、周りのおじさんたちがイカや黒鯛、大きなカサゴを釣っているのを見ると釣り欲が刺激されます。
初めての船釣りで爆釣!?
null釣りを始めてからこれまでもっぱら堤防釣りでしたが、先日、娘にお留守番してもらって初の船釣りを体験してきました。行くからには手ぶらで帰るわけにはいかない。「たくさん釣ってくるから夕飯を楽しみにしていてね」と言って出発したものの、本当に釣れるのか出港前にプレッシャーがじわじわとのしかかってきました。
水しぶきをあげながら進む釣り船に乗り込み、いざ釣りポイントへ。 初めての船釣りは見事な当たり日だったようで、船長のアドバイス通りに糸を垂らし、餌を撒き、少しリールを巻き上げると数秒もしないうちに、あれよあれよと魚が掛かり、入れ食い状態。2尾いっぺんに釣れるというミラクルも何度かありました。「今日は天国だねぇ」と船長がニヤリ。
ただ船は止まっていると相当な揺れが続き、船酔いにも悩まされました。それなのに、「あー、酔いそう」なんて思った瞬間、釣り糸がビクビクっと揺れ、糸を食いちぎらんばかりにイキのいいアジやサバがかかってくるのです。釣れてアドレナリンが出まくった興奮状態と酔いが交互に押し寄せ、なんともめまぐるしい船釣りデビューとなりました。
結局、沖に出て1時間足らずでアジとサバが20匹以上釣れ、持っていったクーラーボックスにも入りきれなくなってしまったので、後半戦は贅沢にも釣りを放棄して、ゆらゆら揺れる船上から海を眺めていました。
同じ釣りでも海釣りと船釣りは静と動と言えるほど対照的で、その違いに驚くばかり。どちらも極めれば奥が深そうで、一度乗っただけではわかりませんが、のんびりしている私には、堤防でいつ釣れるとも知れない釣り糸を大海に垂らしている方が性に合っている気がしたのでした。
魚を余すことなく頂く
null釣りの楽しみは釣るだけでなく、食べられることで、この日釣れたアジとサバはまず刺身にしてもらい、サバは塩と酢で〆て、〆サバにしました。30分程度浸けただけなのに、とろける様な柔らかさでほっぺが落ちる美味しさでした。他にもサバの竜田揚げ、塩焼き、アジはなめろう、そしてアジフライと贅沢ざんまい。どれをとっても釣りたて、捌きたては美味しくて感動しました!
食べきれなかった分は開いてアジの干物に。もともと夏場の干物は腐りやすいのであまり作るのに適していないようですが、10パーセント程度の塩水に1時間ほどつけて、日陰に干して扇風機に当てて数時間。扇風機を回すことでハエなどが寄り付かず、これまでになくふんわりと身が詰まった美味しい干物ができました。アジの冷やし茶漬けにしたら、この暑い夏にもうぴったりの一品でした。
釣れる魚の種類が増えれば増えるほど、夫の料理のアイデアは次々湧き出るようで、自ずと料理のレパートリーが増えていくという楽しみも知りました。何より釣る喜びと食べる喜びが直結しているところが釣りのいいところでもあります。
当分、釣り初心者の域は越えられそうにありませんが、少しずつ成長して、釣りバカ人生に突入したいと思っています。
次回は庭に作っているアースオーブンの話をお届けします。
【著者】
清土奈々子
都内から階段100段を登った高台の一軒家「野ざらし荘」に移り住み、夫と3歳の子と暮らす。編集・ライター、ギャラリー「野ざらし荘」運営、子ども向けワークショップのコーディネーター、絵描きのtoiとともにユニット「村のバザール」を組みライブイベントの企画やウェディング装飾、デザインワークなど行う。ミュージックビデオなど映像制作も。
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