「デトロイト暴動事件」で浮き彫りになったもの
null1967年7月23日から27日の5日間にかけて起こった“デトロイト暴動”は、白人がほとんどを占めるデトロイト市警が黒人が営業するバーを不当に捜査したことがきっかけに発生しました。
それまでの黒人差別や白人警官による虐待に耐えかねていた黒人住民たちはついに抗議し、大規模な略奪、放火、銃撃がデトロイト市内のあちこちで勃発。ミシガン州は軍や戦車を出動させ鎮圧しましたが、43人の死者と1,100人以上もの負傷者を出した、アメリカ史上最大級の暴動だと言われています。
実はデトロイトでは1943年にも暴動がありました。自動車産業で栄え、1920年までには全米第4位の人口を誇る大都市にまで成長していたデトロイト。ヨーロッパやアメリカ南部から職を求めて多くの人々が移住していました。
しかし、住居や職の不足、そして人種差別などが原因で1943年6月20日から3日間にかけて暴動が起きたのです。第二次世界大戦下だった当時は自動車工場が軍需工場として運営されており、デトロイトはアメリカの戦力にとっては心臓のようなもの。連邦軍が送り込まれ、死者34人と負傷者600人以上の大惨事を引き起こしました。
そのわずか24年後に起こったのが本作の題材となった、デトロイト暴動。1964年までアメリカ南部では人種差別や人種分離政策が合法で、アメリカ中西部の大都市デトロイトでも人種差別は当たり前でした。そして、このような社会的要素と人間の闇が複雑に絡みあって生じる事件は、黒人への暴力や人種暴動という形を取りながら、今日までも続いてます。
労働力不足により外国人労働者への依存度が高まる日本人にとっても“デトロイト暴動”は外国の“過去の出来事”だと聞き流せない事件なのではないでしょうか。
人間性をあぶりだす、40分にわたる壮絶な暴行シーン
nullSTORY
1967年7月、デトロイト暴動発生から3日目。黒人ボーカル・グループ「ザ・ドラマティックス」は演奏直前に警察からの通達でコンサートが中止されてしまいます。リード・シンガーのラリー(アルジー・スミス)と友人のフレッド(ジェイコブ・ラティモア)は、暴動を避けてアルジェ・モーテルにチェックインしますが、ある事が原因でデトロイト市警と軍がモーテルを包囲することに。デトロイト市警の白人警官クラウス(ウィル・ポールター)は、同僚とともにモーテルのなかにいた黒人と白人ら8人に対して尋問を開始。警官たちの尋問は暴行へとエスカレートしていき、やがて殺人にまで……。
40分にもわたる暴行シーンはドキュメンタリーのようにリアルな緊迫感。特に警官のリーダーであるクラウスの狂気は壮絶で、この役を演じたポールターは、「あと何回このシーンを撮らなければいけないのですか? もう耐えられません」とセットのなかで泣き崩れてしまったのだとか!
また、本作には様々な面をもつ人間性が垣間見られます。人種差別をする白人と差別される黒人だけではなく、同僚の圧力で暴力をふるってしまう警官のデモンズ(ジャック・レイナー)、暴行を見て見ぬフリをする州軍のロバーツ准尉(オースティン・エベール)、白人警官に従い穏便に済ませようとする黒人警備員のディスミュークス(ジョン・ボイエガ)、暴力に真っ向から反抗する女の子のジュリー(ハンナ・マリー)……。残忍な人種差別者のクラウスが日ごろ抱いているであろう劣等感さえ想像できるほどに、登場人物たちが映し出す、普遍的な人間性――。単純な善と悪で人間ははかれない。それが、この作品の見所なのかもしれません。
事件の生存者である警備員のディスミュークスは撮影にも立会い、こう語りました。「歴史の闇に葬られてほしくない。私たちが経験したことは、二度と起きてはならないのです」。
人種問題を超えて人間の闇について真摯に問いかける『デトロイト』は、ぜひ多くの人に観てほしい1本です。
【作品情報】
デトロイト
2018年1月26日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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