現代美術家「塩田千春」の軌跡をふり返る大規模個展
null1972年生まれの塩田千春は、記憶や不安、夢や沈黙など、形のないものをテーマにしたインスタレーション(室内・野外のある特定の空間を活かした芸術作品)を制作するベルリン在住の作家です。
赤や黒の糸などを用いて空間全体を埋め尽くす作品で注目を浴び、2015年には現代美術の祭典「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の日本代表にもなりました。現在、六本木の『森美術館』で開催中の「塩田千春展:魂がふるえる」(2019年10月27日まで)は、彼女の約25年にわたる活動をふり返る過去最大規模の個展です。
思わず立ちすくんでしまう、インパクト大の作品群
null塩田千春作品の特徴のひとつは、そのなかを歩き回れるほど大きいこと。それゆえか、最初に目にしたときのインパクトは非常に大きく、思わず立ち止まり息をのんでしまうほど。今回の「塩田千春展:魂がふるえる」にも、そんな彼女らしい壮大な作品がたっぷりと展示されています。
『森美術館』のある六本木ヒルズ 森タワー53Fに上がると、いきなりエントランスに作品が! 塩田千春の代表作のひとつ≪どこへ向かって≫(2019)です(上記写真)。
高さ11メートルの天井からなんと65艘の舟が吊るされています。この作品をくぐり抜け、大きな展示会場に入っていきます。すると……。
足を踏み入れた最初の広い展示室は、真っ赤な世界! 上記写真の作品≪不確かな旅≫(2016)は、かろうじて「舟」であることがわかる骨組みと、真っ赤な糸で覆われた空間からなるインスタレーションです。
この≪不確かな旅≫は、もともと2015年の「ヴェネチア・ビエンナーレ」で発表されたもの。眼の前に迫る真っ赤な世界は、人によっては圧迫感を感じたり、不安な気持ちを駆り立てられるかもしれません。モチーフとなっている“舟”は、塩田にとっては“旅の象徴”なのだそう。
幼少期、夜中に隣の家が家事で燃えてしまった記憶が元となった作品≪静けさの中で≫(2008)は、一面が黒い糸で覆われた作品。インパクトが強く、決して楽しい気持ちにはならないけれど、でもずっと観ていたくなる、その場にとどまっていたくなる作品です。
密度高く胸に迫る作品を作り続ける「塩田千春の軌跡と今」
nullもちろん、塩田千春の作品は巨大なものばかりではありません。今回の展覧会でも、初期のドローイングから、パフォーマンス映像、舞台美術なども展示。さまざまなジャンルで活躍し、積み上げてきた彼女のキャリアを俯瞰できる内容になっています。
そして初期の作品から、ベルリンに渡って独自の表現方法にたどり着くまでの課程を追っていくと、塩田の作品がなぜここまで胸に迫るものなのかもわかってきます。
ものすごく端的に説明すると、彼女の師匠であり激しいパフォーマンスで知られる現代美術家 マリーナ・アブラモヴィッチの影響が大きいと推測されます。アブラモヴィッチは自身の作風だけでなく、教え方もとにかく過激で、それにより塩田千春の表現力が開花したと言えるでしょう。
実は、今回の展覧会のオファーがあった約2年前、12年前に治療をしていた塩田の癌が再発していることがわかりました。塩田は闘病を続けながら、生と死を間近に感じ、展覧会のための準備や新作を制作していたのです。
新作の≪外在化された身体≫(2019)は、塩田の身体パーツをモチーフとしたもの。自身が癌治療を受けるさなか、身体がベルトコンベアーに乗せられて一部が切り取られ、魂が置き去りにされたような感覚を持った経験をもとに作られています。
「塩田千春展:魂がふるえる」は、決して作品の展示数が多いわけではなく、むしろ少ないくらい。けれども、ひとつひとつの作品の“密度”はとても濃く、じっくりと味わえる内容です。
とくに大きなインスタレーション作品では、なるべく時間をかけてその場に“滞在”してみることをおすすめします。様々なことを感じて考えられる、とても充実した時間になるはずですよ。
「塩田千春展:魂がふるえる」は、火曜日をのぞき毎日22時まで、最終入館は21時半です。仕事終わり、時間がとれる日にぜひ訪れてみてください!
【展覧会情報】
会場:『森美術館』
東京都港区六本木6−10−1 六本木ヒルズ森タワー53階
会期:2019年6月20日(土)~10月27日(日)
開館時間:10:00〜22:00/10月22日を除く火曜は17:00まで(最終入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中無休
最寄り駅:東京メトロ日比谷線「六本木駅」1C出口 徒歩3分(コンコースにて直結)、都営大江戸線「六本木駅」3番出口より徒歩6分
問い合わせ:03−5777−8600(ハローダイヤル)