子育て世代の「暮らしのくふう」を支えるWEBメディア

秋のアウトドアレジャーを楽しむために知っておきたい「クマとの遭遇」を避ける方法とは

近年クマの出没が相次いでおり、連日のように被害が報道されています。これから行楽のシーズンを迎えるものの、9~11月は冬眠に備えてクマの活動が活発になる時期。キャンプやハイキング、登山といったアウトドアレジャーを楽しみにしている人にとっては不安も大きいのでは? そこで、クマに遭遇しないための行動などについて、日本クマネットワーク代表の小池伸介さんに聞きました。Q&A形式で解説します!

Q. 相次ぐクマの出没……一体何が起きているの?

null
クマは非常に警戒心が強いので人里に現れるのは稀なケース。

A.約40年で野生動物の分布地域が広がった

近年、「クマが出没した」といったニュースを頻繁に見かけるようになりました。それだけ急に、人目につく場所にクマが現れるようになったという印象を受けますが、実は今に始まったことではないと小池さんは言います。

「クマに限らず、シカ、サル、イノシシといった野生動物の分布域が、約40年で2倍ほど広がっています。これは少子高齢化の影響で、中山間地域(山間地とその周辺の、農業の生産条件が不利な地域。日本の国土の約70%を占める)に人の手が入らなくなって放置され、動物が棲みやすくなったため。野生動物の生息場所と人間の暮らす場所の物理的距離が近づいたせいで、出没情報が増えたと考えられます」(以下「」内、小池伸介さん)

ちなみに、ニュースなどでよく聞く「目撃情報」と「出没情報」は意味が違います。前者は、「人が動物を見た」という観察の報告であり、本来生息している場所で目撃された場合も含まれます。一方後者は、動物が人里に現れ、人へ危害を加える可能性があることを示唆します。本来いない場所に出てきたという意味なので、出没情報が出た場所に行くのは危険。きちんと意味を知ったうえで情報を判断しましょう。

Q. クマは本来どこに生息しているの?

null
昼間は木々の中を隠れながら移動する。

A.北海道と本州の山には必ずいると思った方がいい

「北海道と本州の山には必ずいると思った方がいいでしょう。逆に生息していないのは、本州では千葉県のみ。このほか、九州や沖縄、島々には生息していません。四国のクマは絶滅寸前で、愛媛県と香川県にはおらず、高知県と徳島県にわずかに生息しています」

クマは本来、山中の森に暮らしており、そこから出て生息することはほとんどありません。千葉県は利根川や関東平野によって周辺地域の森林と分断されているため、生息していないようです。

「クマは、森、藪、平地の木立に潜んでいることが多く、河原が藪になった場所に姿を隠しながら移動します。ですから、木々があって視野が悪いような場所、かつ出没情報があった場所ではクマに遭遇する可能性が高いので注意が必要です」

Q. なぜクマは人里に出てきてしまうの?

null
人の食べ物の味を覚え、人里に出ることに慣れると行動が大胆になり、危険。

A.おいしいものがあると知ったから

本来、山や森に暮らしているのに、なぜ人の生活圏に出てきてしまうのでしょうか。

「人里に出てくることは、クマにとってもリスクが高いのですが、人の生活圏には、かきや栗といった“おいしいもの”が多いので、それに惹かれてしまうわけです。最初は警戒しながら来ていたクマも、慣れてしまうとどんどん大胆になっていきます。ですから、人里への出没を防ぐには、クマに人の食べ物の味を覚えさせないことが大切です」

クマは比較的植物性の食べ物を多く摂取しますが、基本的には雑食性。木の実などの他に、人が捨てた残飯なども食べます。ですから、キャンプで出た残飯を放置しておいたり、外に埋めておいたりすると、クマに狙われやすく危険です。扉に鍵のついた建物内に捨てるなど、正しい処理をすることが、クマの出没を防ぐことになります。

Q. 外出先でのクマ出没&目撃情報はどうやって知る?

null
東京都の場合、東京都環境局「東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ」などで「目撃情報」が確認できる。画像:「東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ」より(2025年10月2日現在)

A.各都道府県が情報を発信

東京や神奈川といった都心部でも山間部に行けばクマはいます。出かけた先にクマがいるかどうか、事前に知る方法はないのでしょうか。

「各都道府県が独自で情報を発信しているので、出かける先の行政のホームページなどを確認するのがおすすめです。目撃情報に関しては、もともとの生息場所での目撃情報も含まれるので、過度に警戒する必要はありません。

クマは秋には主にどんぐりなどの木の実を食べるのですが、生息地にあまりなっていないと、広い場所を移動することになりますから、おのずと目撃情報が増えます。とはいえ、警戒心がとても強いので、よっぽどのことがない限り、生息地の森から出ることはありません」

注意すべきは、『普段いないところに出てきた=出没』情報。出没情報が出ている場所には近づかないようにしましょう。

◆東京都観光局「東京都ツキノワグマ目撃など情報マップ

Q. クマに遭遇しないために持っていくべきものは?

null

A.熊鈴やラジオなど、音の出るものを

アウトドアレジャーの際は、熊鈴やラジオで音を鳴らしたり、ひとりで行動せず、仲間と話しながら行動したりするのがおすすめ。

山や川に出かける際は、人の存在をクマに知らせるものを持っていくといいようです。

「熊鈴やラジオなど、音が出るグッズは効果があると思います。そうしたものがなくても、おしゃべりをしながら歩くなど、こちらの存在をクマにアピールするのがおすすめです。聴覚と嗅覚が鋭く、警戒心の強いクマは、耳慣れない音や人のにおいを察知すると近づいてはきません」

クマ撃退用スプレーなどが市販されていますが、使い慣れていない人にとっては、とっさの時に使いこなせないと言います。

「クマ撃退用スプレーは便利な道具ではありますが、何秒効果があるのか、どの程度の距離に届くのかなど、使ってみないとわかりません。たいていの場合、数メートル接近したときにしか使えないので、クマに遭遇してパニックに陥っている最中、冷静に使いこなすには、練習が必要になります」

さまざまな種類のスプレーが市販されていますが、どれがどう効果があるか、わかりにくいもの。使用を予定している場合、以下のサイトなどで勉強し、準備をしておきましょう。

◆小池さんがおすすめする「スプレーの使い方」動画

Q. 秋のアウトドアレジャーは控えた方がいい?

null
クマに関する正しい知識を持っていれば、アウトドアも気兼ねなく楽しめるはず。

A.過度に恐れる必要はない

「整備された登山道を歩く、ごみの処理を徹底したキャンプ場で遊ぶといった場合、クマに遭遇する確率は低いと言えます。

ただし、沢登りやクロスカントリー、登山道以外を登るといった、特殊なアウトドアに挑戦する場合は注意が必要です。クマは人の気配を感じると基本的に逃げますが、人間がクマのいる場所に近づく速度が、クマが逃げる速度より速い場合や、普段は人が通らない場所では遭遇する確率が上がります。

報道されるクマの一面だけを見ると、積極的に人を襲うように勘違いしがちですが、基本的にクマは人を食べません。攻撃してくる理由は身を守るためか子グマを守るため、あるいはパニックに陥っているからです。目の前の人をはたいてでも逃げたいのです。

クマの生態など、本当の姿を知ればおのずと正しい対策ができますから、過度に恐れる必要はありません」

「知ること」こそ命を守ることにつながります。小池さんがおすすめする「クマのことがよくわかる動画」を家族で見て学び、この秋もアウトドアレジャーを楽しんでください。

◆小池さんがおすすめする「クマのことがよくわかる動画」


【教えてくれた人】

日本クマネットワーク代表・小池伸介さん

博士(農学)。東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・教授。主な研究対象は、森林生態系における植物-動物間の生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。著書は『ツキノワグマのすべて: 森と生きる。』(文一総合出版)など多数。

日本クマネットワーク

ツキノワグマのすべて: 森と生きる。

著/小池伸介 1,980円(税込) 文一総合出版

嶋田久美子
嶋田久美子

エディター/ライター。大学卒業後、出版社に勤務し、その後、フリーの記者として主に週刊誌の編集・執筆に携わる。歴史や美術をはじめ、マネー・車・健康・ペット・スピリチュアル・夫婦関係・シニアライフスタイルといった多岐にわたる女性向け実用情報を手掛ける。1児を持つシングルマザーで、趣味は漫画・アニメ鑑賞、神社巡り。

pin はてなブックマーク facebook Twitter LINE
大特集・連載
大特集・連載