初公開!未完の大作から生命の神秘を感じよう
null今回の大回顧展での注目は、最晩年に描き残された未完の大作「宇宙進化地球生命変遷放散総合図譜」(複製)。
ビッグバンが起こってから現代までを、約5mもの大きな紙に細密に描いた渾身の作品です。私たちがどこから来て、どこに向かうのか……生命の進化の歴史を「全部一望したかった」というかこさんの言葉通り、壮大に描かれています。
本展では原寸大の複製が展示されているのですが、目の前に立つと、最後まで生命について探求し続けたかこさんの愛情が伝わってくるようです。
創作の原点となる「若き日の作品」も必見
nullかこさとしさんは、少年時代に第二次世界大戦を経験。自らを「ヒコー少年」と呼び、当時は航空士官を目指していたといいます。ところが近視のため、体格検査すら受けることができず、その目標をあきらめ、高校、大学へと進学します。東京は空襲に襲われ、自宅は消失し、日本は敗戦……。
敗戦後、世の中の価値観が180度変わり、残った自分は一体何ができるのか、生きる目標を失うなか社会人となり、子どもたちの役に立つことをしたいと「セツルメント活動」(戦前に始まったボランティア活動。医療・福祉などの支援のほか、子ども会の活動などもあった)に没頭し、紙芝居の制作を積極的に始めます。
絵本作家・かこさとしさんの原点ともいえる若き日の創作の数々や、1952年当時、子どもたちに囲まれ、生き生きとした笑顔のかこさんの写真からは、子どもたちへの真っ直ぐな愛を感じるはずです。
不朽の名作「だるまちゃん」や「からすのパンやさん」の原画に出逢える
null日本の郷土玩具を主人公にした日本ならではの絵本を作りたいと誕生した「だるまちゃん」シリーズ(福音館書店)。ユニークでおいしそうなパンがズラッと並ぶ様子が魅力的な『からすのパンやさん』(偕成社)。
どちらも子どもの頃に出逢い、そして親になってからは自分の子どもたちに読み聞かせたという人も多いのではないでしょうか? 私も大好きで、子どもの頃に何度も繰り返し読みました。大人は懐かしく、子どもたちはリアルタイムで親しみのある、あの絵本の原画が一堂に会します。細かい筆遣いなど、細部までじっくり味わってみてください。
他にも、東京大学工学部で工学博士となり、科学者でもあったかこさんならではの、科学的視点に基づいた緻密な絵本にも注目です。山間のダム竣工の様子を描いた『だむのおじさんたち』(福音館書店)、ひとつの川の流れを軸に自然と人間の営みを描いた『かわ』(福音館書店)なども展示されています。
だるまちゃんなど、愛らしいグッズが盛りだくさん!
null本展の最後には、お楽しみのグッズコーナーも。だるまちゃんやからすのパンやさんのぬいぐるみや文房具、食器、エコバッグやTシャツなど、かわいいグッズがズラリ。どれも欲しくなること間違いなし。また、からすのパンやさんのフォトスポットもあるので、ぜひ家族で撮影を!
うれしいことに、小学生以下の子どもたちはなんと無料! 子どもたちを愛したかこさんならではの粋な計らいを感じます。子どもの頃、憧れた絵本の世界にタイムトリップするような愛しい時間を、ぜひ家族で体験してみてください。
取材・文/岸綾香
かこさとし/加古里子
1926年、現在の福井県越前市に生まれる。東京大学工学部応用化学科卒業。工学博士。技術士(化学)。児童文化の研究者でもある。出版を中心に幅広く活躍。作品は600点余。2008年菊池寛賞受賞、2009年日本化学会より特別功労賞を受賞。2018年5月、92歳で逝去。
Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中。2022年9月4日(日)まで。
10:00〜18:00(入館は17:30まで)。毎週金・土は21:00まで(入館は20:30まで)
一般 1400円、大学生 800円、高校・中学生 500円、小学生以下無料。
※会期中のすべての土日祝および8月29日(月)〜9月4日(日)は、一部オンラインによる入場日時予約が必要です。