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この世の中にようこそ〜Welcome to the world〜【ママはキミと一緒にオトナになる#37】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、10歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第37回。

まじ、地球、いいところだよ

友達が妊娠したと聞くと、すごく嬉しい。
友達が出産したと聞くと、さらに嬉しい。一日中にこにこ過ごしてしまうくらい、嬉しい。

パパやママに訪れる、新しい時間のことを想像する。赤ちゃんは、きっといろんなことをしでかすだろう。そりゃ大変なこともあるだろうけれど、おおむね、面白かったり幸せだったりする時間が増えるだろうなと思う。

生まれてきた、その子どものことも考える。きっといろんな経験をするだろう。もちろん大変なことも辛いこともあるだろうけれど、おおむね、この世は面白かったり幸せだったりする時間に満ちている。

出産祝いを送るときには、必ず「Welcome to the world」とメッセージカードを添える。
この世の中に、ようこそ。
私、キミよりちょっとだけ先輩だから知ってるんだけど、まじ、地球、いいところだよ。
一緒に楽しみ尽くそうぜ。
新入りの赤ちゃんに対して、そんな気持ちをこめて。

ところで、これは建前でもなんでもなく、なぜか私は、「世の中はどんどん良い方向に進んでいる」ことを、かなり強く信じている。

世界じゅうのみんなが一生懸命コロナ対策を考えているのだから、きっと良い方向で収束するだろうと思っているし、

インターネットやSNSやAIは、人間がもっと善く生きたいと開発されてきたのだから、人間を分断しないと思っているし、

毎日いろんな人の親切に接しているから、人は、基本的に優しい動物だと思っているし、私もできるだけそうでありたいと思っている。

でも、どうしてだろう。
どうして私はこんなに、楽観的で、性善説的で、人も社会も信頼しているのだろう。

その答えみたいなものが書かれている本に、最近出会った。
『Humankind 希望の歴史』という本だ。

どうして私は、こういう性格なんだろう

この本の話をする前に、もうひとつ、「自己肯定感」の話もしていいですか。

私は普段、書籍のライターとして、いろんな著者さんの考えや主張を、一冊にまとめる仕事をしている。いろんなジャンルの著者さんとご一緒させていただくし、売れ筋の本はできるだけチェックするようにしているのだけど、この10年ほど、あらゆるジャンルの書籍に「自己肯定感をあげよう」という言葉(や思考)が飛び交うようになった。
それだけ、自己肯定感を持てないことに、悩む人が多いということだろう。

では、私自身はどうかというと、ずいぶん自己肯定感が高い気がする。いやむしろ、高すぎるとも言われたことが、何度もある。

たしかに、だいたいのことは、なんとかなるだろう(多分、明日の私がなんとかしてくれるだろう)と思っている。そこそこ誠実に生きていれば、だいたいのことはうまくいくだろうと、思っている。
おっちょこちょいだから失敗はいっぱいするけれど、それを挫折と思ったことは一度もない。「そうか。この方法はうまくいかないのか。知ることができて、良かったぜ!」と、思う。赤ペンだらけに修正された原稿を見ても「うわーー、なるほど、こうやって書けばいいのか! ヤバイ、また原稿がうまくなっちゃうぜ!」と、思う。

どうして、私はこういう性格なんだろう。いつどんなタイミングで、この、自己肯定感の高さがべったりと自分に張り付いたんだろう。

と、考えていたときでもあったんです。
『Humankind 希望の歴史』という本に出会ったのは(やっと話が戻ります)。

そして、楽観的で性善説的であることと、自己肯定感の高さは、つながっているのではないかと考えるようになったのです。

人は、基本的に優しい成分に満ちている

『Humankind 希望の歴史』は、33歳のオランダ人著者が書いた書籍だ。昨年、世界46か国で翻訳され、たちまちベストセラーになった。

内容をひとことで説明すると、「人間は、基本的に優しい成分に満ちた動物である」ということを、いろんな研究をもとに証明しようとした本である。
戦争や、いさかい、分断の元になった事象を研究しなおしたり、過去の心理学の研究や凶悪事件の分析をしなおしたりして、「うーん、でもやっぱり、人間ってもともと争うようにできていないよね」ということを、これでもか、これでもか、と証明しようとしている。

これを読んで私、「ああ、やっぱり!」と思った。
これまで「世の中はせちがらいことになっている」とか「渡る世間は鬼ばかり」とか、聞かされてきたけれど、やっぱり、そんなことなかったんだなーって。だって、「鬼ばかり」っていうほど、鬼に出会ったことなかったもん。

この本によると、ニュースを熱心に見る人ほど、性悪説的になりやすいというデータがあるらしい。
良いことや普通のことはニュースとして盛り上がらないから、報道されるのは、どうしても犯罪や事件が多くなる。
世の中が平和であるほど、「レアで凶悪な事件」がくり返し報道される。それを毎日受け取っていると、世の中は「せちがらく」感じるし、「渡る世間は鬼ばかり」に見えるのだという。

でも、ひとたびニュースから離れて、現実世界のコミュニティに目を向けると、(この本に書かれているように)私がこれまで出会った人たちは、だいたい優しくて親切な人が多かった。理由もなく傷つけられることはレアケースだった。
だから、世の中はほとんど優しい人の優しい心で構成されていると思いながら育った。しかも私は、ニュース番組をめったに見ない。

ああ、なるほど。だから私、地球で生きることに楽観的で、人類に対して性善説的なんだなーと思った。そしてこの「地球とか、人類に対する、ほのぼのとした信頼感」の延長線上で、人類のうちの一人である自分のこともあっさり信用していて、だから自己肯定感が高いもかもしれないと思った。

私は人間を信頼している。
だから、自分のことも信頼している。
なんか、そんな感じ?

悪い人が多いに決まってる

本を読み終わったあと、ふと気になって、息子に聞いてみた。
年末年始、おばあちゃんの家でニュースを見ることを覚えた彼は、お夕飯どきに「テレビつけてもいい?」と言うようになっていた。

「ねえねえ、息子氏は、世の中にはいい人が多いと思う? 悪い人が多いと思う?」

突然の質問に、彼は
「何、言うてるの、この人」
という顔をした。

「いやほら、たとえば、刑務所に入ったりしなければ、人を騙したり、人のお金を泥棒したりする人の方が多いと思う?」
と聞き直したら、
「ああ、そういうことか。それは、悪い人が多いに決まってる」
と答えたから、びっくりした。
「え、マジで?」 と言ったら、
「うん。100倍くらい多いんじゃない?」
と、言う。

そうか、私の子どもは、世の中は悪い人ばかりだと思っているのか。
ちょっとびっくりした。
こんなに近くにいるのに、親子なのに、価値観ってずいぶん違うんだなあと、新しい発見をしたような気持ちになった。

そして、びっくりしたなあと思ったその瞬間、絶妙なタイミングで、テレビから「ストップ詐欺! 私はだまされない」という音声が聞こえてきた。啓発番組のタイトルのようだ。
なるほど、こういうことかと思った。

「でも、ママの周りはいい人が多いよ」
と言おうと思ったけれど、いったん、やめた。今は私の価値観を押し付けなくてもいいやと思ったからだ。

私は、私がこの世の中にあふれていると感じる「優しい気持ち」を、普通に自然にこれからも表現していけばいい。
そして、彼に対してはいつも「Welcome to the world」と思って、両手を広げておけばいい。

この世の中は、おおむね面白いぜ。
のんびり、楽しくいこーぜ。
そんな感じ?

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第38回2月13日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)

ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学4年生の息子と暮らすシングルマザー。

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