英語が成功への近道?
nullあらすじ
デリーの下町で衣料品店を営み、経済的に成功した中流層の夫のラージと妻のミータ。二人は娘の将来のため、英語で授業をする私立小学校のお受験に挑戦することを決心し、塾に訪れると「人気講師の指導を受けるには妊娠中に塾の申込をしないと遅すぎる」と言われ焦ります。それでもなんとか入塾した二人は、両親の面接に備えて言葉遣いから英語まで猛特訓をすることに……。
近年、アメリカ・シリコンバレーと密接な関係をもつインドは、アジアのIT人材や技術の供給地。英語力とITスキルがニューリッチへの近道のひとつとなりました。
そんななか、小学校から高校まで英語で一貫教育をする私立のイングリッシュ・ミディアム校が中上流層のなかで大人気になっています。なぜなら、私立イングリッシュ・ミディアム出身だと名門大学に受かりやすいから。加えて、インドの富裕層はイングリッシュ・ミディアム出身者が多く、ヒンディー・ミディアム(ヒンディー語で授業を行う公立学校)かイングリッシュ・ミディアムの出身かで、出身階級が認識されるから。だからこそ、お金のある親は子どもをなんとかイングリッシュ・ミディアムに入れたいと、お受験に挑戦しているといいます。
住所、学歴、英語の発音が関係する!?
nullというわけで、両親の面接では親の英語力も必須。英語力はインド社会の新たな身分制度のような役割を果たし、人々を分断しているのです。しかも、多くの私立イングリッシュ・ミディアムは学校周辺に住む子どもたちを優先的に合格させるポリシーをもっているため、ラージとミータ一家は学校のある高級住宅街に引っ越しすることに。
そんな努力のかいもなく、彼らの下町風のふるまいや”インドなまり”のある英語のせいで、富裕層のママ友やパパ友になかなか溶け込めず、苦労するラージとミータ。案の定、お受験は全滅……!
父親が学位しかもっていなかったために娘が不合格になってしまったという実話をもとに丁寧な取材を経て制作された本作は、住所、親の学歴や英語力で不合格になってしまうというインドの壮絶なお受験のリアルを浮きぼりにしています。
低所得者層枠を横どりする中上流層の親たち
null受けた小学校がことごとく不合格になり、落胆するラージとミータですが貧困層枠のある小学校を発見。これは、2009年に経済格差による教育不平等を是正しようと、インド政府は通常の私立学校に定員の25%を経済的弱者の子供たちに開放することを義務付けた規則です。ところが、これが、新たな問題を生み出しているのだとか。住所や仕事を偽って貧困層を装い、低所得者枠で出願する裕福な親たちが続々と現れるようになってしまったのです。
せっかく高級住宅地に引っ越したのに、ラージとミータは今度はスラム街に引っ越し。ラージは工場に勤務し、ミータは英語の話せない貧乏な主婦のフリをして暮らします。けれども、毎日の食べ物や水にさえ苦労しているスラム街の人々が助け合いながら暮らしていく様子を見て、彼らは競争社会で失ってしまったものに気が付き始めるのです……。
ラージとミータが子どものためと案じながら、中流階級から上流階級まで、そして上流階級から下層階級まで、あらゆるインドの社会階層をあたふたと行き来し、お受験に振り回される姿は思わず笑えるシーンも満載ですが、胸がチクりと痛くなるシーンも。
”子どものため”という言葉の底に横たわる親自身の自己否定感やコンプレックス、そして、親の不安な心を必要以上に煽る教育産業をまざまざと映し出しています。
お受験は個人のチョイスですし、教育に単純な正解はありません。ですが、競争に勝ち抜くことよりも、人としてなにが大切かを教えることこそが、親から子どもにしてあげられる一番大事な教育だということを改めて感じました。
“笑いと涙の教育エンタテインメント”、ママやパパにぜひ観てほしい作品です。
【公開情報】
タイトル:ヒンディー・ミディアム
9月6日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
公式サイト:http://hindi-medium.jp/
監督・脚本:サケート・チョードリー 脚本:ジーナト・ラカーニー
出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル ほか
配給:フィルムランド、カラーバード
2017年/インド/132分/ヒンディー語/原題:Hindi Medium/シネマスコープ/カラー/5.1ch/映倫G
公式twitter:@filmland_inc