“すべて英語”というので不安だったが
ホテルやレストランの接客など、観光業ではさまざまなシーンで外国人と接するケースが増えている。今回の「英語で学ぶツーリズム・ホスピタリティ」講座は、そうした場面で役に立つホスピタリティあふれる英語表現を学ぼうという講座だ。
とても面白そうだし、年々増加する外国人に対応するためにも役に立つ講座なのだが、受講する前はけっこう不安だった。なぜなら英語オンリーの授業だからだ。これに限らず、テンプル大学では社会人向け講座をすべて英語で行っている。英語そのものを学ぶ講座はもちろんだが、ビジネス講座や教養講座もすべて英語で講義される。授業だけでなく、事務室や図書館の窓口も英語推奨。学内に足を踏み入れたら、そこは “英語” の世界なのだ。
そこで気になるのが語学レベル。けっして得意とはいえない英語。海外旅行でホテルのチェックインやチェックアウト、レストランでのオーダーは何とかできるが、ちょっと込み入った話になるとついていけなくなる。外国人同士の英語の会話を聞き取ることは無理。そんな記者でもついていけるだろうか。
講師のベティ・ケイツ先生はオーストラリア出身。五つ星ホテルでのバンケット(宴会業務)や、レストランでの接客も経験したことがあるという、ホスピタリティを教えるのにうってつけの先生だ。アットホームな雰囲気のなか、授業が始まった。
先生の英語は聞き取りやすい
授業は、途中で5分程度のブレイクタイムを挟んで2時間半。しかしその2時間半があっという間に過ぎていく。ベティ先生の英語は、はっきり、ゆっくりで、とても聞き取りやすい。記者のレベルでも何とかついていけそうだ。
教材は『English Tourism』。観光業で想定されるさまざまな場面、たとえばレストランでのクレーム対応や、ホテルでのゲスト・リレーションズなどで使用される基礎的な英語が学べるテキストだ。しかしいきなり教科書には入らず、それまでのユニットの復習から始まった。
先ずウォーミングアップ代わりに、“Count Nouns”(数えられる名詞)と “Noncount Nouns” (数えられない名詞) の使い分けの復習。「My mother baked two cakes for the party.」のように特定のものをさす場合は数えられるが、「I love chocolate cake.」などと、一般に話題にする場合は “Noncount Nouns” となる。
「フライドポテトはフレンチフライ(French fries)」
次に、以下の内容が書かれた用紙が配られた。これも前に習ったユニットの復習だ。
「Assessment Item for Unit 3」Conversation: Dealing with a Complaint
Work in pairs.One student is a waiter at Tony’s Restaurant and the other is a guest. The guest makes at least one complaint during his or her meal. The waiter deals with the complaint(s). You have ten minutes to prepare.
2人1組となり、1人はレストランのウェイター、もう1人は客として、客が食事にクレームを入れ、それにウェイターがどう対応するかというロールプレイングを行うレッスンだ。クレームの内容も対応の仕方も、受講生が考える。先生はテーブルの間を回って話に加わりながらアドバイスをし、与えらえれた10分が終わったところで、受講生全員の前でペア1組ずつ演技を行う。
「ハンバーグが生焼けだけど」とか「サイドディッシュが注文どおりじゃない」と苦情を入れる客。それに対し「もう一度焼き直してきます」「お詫びに赤ワインをサービスしますね」などと対応するウェイター役。ロールプレイングが終わったところで先生は、気になったところを指摘していく。
「フライドポテトはジャパニーズイングリッシュだから “French fries” (フレンチフライ)と言いましょう」
「窓際の席を表現するときは、“windowside” より “a table by the window” のほうがいいですね」
「調理し直して料理を持ってきたときには、“Sorry to keep you waiting.”(お待たせいたします)ではなくて、“Sorry to have kept you waiting.”(お待たせいたしました)」
「お会計お願いしますは、“Can I check?” ではなくて、“Can I have the check (bill) please?” です。“Can I check?” だと、“investigate”(調査する)といった意味になってしまいます」
このように、サービスする側が覚えておきたい英語フレーズが学べるのだが、なかには海外旅行したときに使いたいフレーズも。しかも実際の動作を伴うロールプレイングの中で学ぶのでしっかり覚えられる。
このほかにもいくつかの復習をして前半修了。ブレイクタイム後は、本日習う『English Tourism』ユニット7「Service and safety」に入る。
“ただ謝るのではなく”
後半は、テキストを音読しながら設問を順番に解いていったり、CDを使って実際のホテルのフロントデスクでのやりとりをリスニングしたり、頭も目も耳も口も(もちろん前半のロールプレイングでは体も)、全身を使って英語でコミュニケーションをしていく。
講義の中では、実際に接客のプロでもあったベティ先生の経験に裏打ちされたホスピタリティの基本も語られる。
「忘れてはいけないのは、
Making eye contact(アイコンタクト), smiling(笑顔), making small talk(ゲストとのちょっとした雑談)」
「大切なのは、
Be friendly (provide personal touch)
Be flexible (for example, with menu items and dietary requirements)
Find solutions to problems and issues (don’t just apologize)」
フレンドリーに、融通を効かせて対応し、何か問題が起きたときには謝罪すれば終わりなのではなく解決に向けての提案を、ということだ。
「Be friendly」のところで触れられた「personal touch」とは、ゲストそれぞれに対応するスモールトークで親しみなどを表すことだという。よく海外のホテルに泊まると、「お子さん、かわいいですね、おいくつですか?」などとフレンドリーでしかも個別的な接遇を受けることがあるが、その根底にはこうしたホスピタリティの基本があったのだとわかる。
また、「Be flexible 」のところで示された「menu items and dietary requirements」は、ベジタリアンだけではなく、宗教的な理由など特別な食事の用意なども含む。
あっという間の2時間半。英語のシャワーを浴びるうち、下手な英語を喋るのは恥ずかしいといった気持ちがどんどん消えていく。ふと気がつくと、先生の話すスピードがものすごく速くなっていたのに気がついた。それでもいつの間にか、こちらの耳が慣れてついて行けるようになっていたのだ。
文・写真/まなナビ編集室
(初出 まななび 2017/07/16)