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我らがトラちゃん!朝ドラ「虎に翼」の週サブタイトルから受け取る、制作陣の熱いメッセージ

NHK朝の連続ドラマ小説といえば、昭和の時代は主婦層が視聴者というイメージでしたが、近年は幅広い世代・層に受け入れられるドラマになっています。現在放送されている『虎に翼』は名作との声も高く、7月からは物語も後半へ。岡田将生が演じる星航一が、後半のキーマンになるとの情報もあり、目が離せません。

独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに、その見どころポイントをうかがいました。

伊藤沙莉の代表作に

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緻密な顔芸と、場面を牽引する表現力がベテランの域に達している伊藤沙莉。間違いなく彼女の代表作となったのが朝ドラ『虎に翼』だ。賢い女が主人公で、男尊女卑が甚だしい時代の苦悩となめた辛酸も描いているが、なんだかとても気持ちがいい。怒りや腹立たしさをヒロインとともに体感できて、一体感があるからかな。

ともあれ、我らのトラちゃんが法曹界に戻ってきてひと安心。前半では死ぬほど努力して弁護士となり、「女が活躍できないガラスの天井」と「唯一の婦人弁護士というプレッシャー」に圧し潰され、一度は法曹界の道を諦めた寅子。最愛の夫(仲野太賀)や大好きな父(岡部たかし)を亡くした喪失感を克服して、見事に復活。日本国憲法が制定された昭和21年、第1話の冒頭につながって、後半へと物語が進んでいく。

共に学んだ同級生のそれぞれの道が交差

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一念発起した寅子は司法省へ。人事課の桂場等一郎(松山ケンイチ)に「裁判官にしてほしい。同じ高等試験を合格した男性が裁判官になっている。憲法も変わって、女性も裁判官になれるはず」と直談判。ただし、寅子を採用したのは、民事局民法調査室の久藤頼安(沢村一樹)だった。まずここで再会したのが、花岡(岩田剛典)……じゃなくて小橋浩之(名村辰)。

「お前か!」と尾野真千子ナレ―ションと視聴者全員がツッコんだよね。学生時代の法廷劇乱闘騒動でヤジを飛ばして股間を蹴り上げられた、あの小橋である(私は前髪チョロ男と呼ぶ)。

その後、寅子は花岡と「昼飯ベンチ」で再会するが、花岡は疲弊していた。生きるためにヤミ商売をする人を食糧管理法違反で取り締まる職務で、「人としての正しさと司法としての正しさの乖離」に悩んでいたのだ。その後、食べることを拒んで餓死するという衝撃の最期を迎えた。彼の苦悩と悲劇を悼んだのは寅子だけではない。

寅子が法曹界から去るときに仲違いした山田よね(土居志央梨)、そして密かに花岡を慕っていた轟太一(戸塚純貴)だ。このふたりはタッグを組んで、法律事務所を設立。轟は弁護士だが、よねは高等試験に受かっていない。実質のボスはよねで、貧しい人の法律相談にのり、戦争孤児たちの面倒を見ていたのだ。

この間に、寅子は民法調査室で民法改正の仕事に携わり、家制度にこだわる頑固な帝大教授(木場勝己)を説得。その後は家庭裁判所設立準備室へ駆り出される。新たな変わり者上司・多岐川幸四郎(滝藤賢一)のもとで再会したのが、同級生で裁判官となった稲垣雄二(松川尚瑠輝)だ(なぜかチョロ男も一緒)。戦争孤児の保護に取り組んでいたところで、うっかり同窓会となったわけだ。個人的には、よねは寅子の同志であり、無二の友になれると信じていたので、再会を心から喜んだ。今はまだツンケンしているが、これからも「法の下の平等」というライフワークをふたりで追求していくだろう。

法律は盾にも傘にも毛布にもなる

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女友達でもうひとり。朝鮮に帰ったと思っていたヒャンちゃんこと崔香淑(ハ・ヨンス)は、なんと家庭裁判所設立準備室の汐見圭(平埜生成)と結婚し、汐見香子として生きていた。朝鮮人であることを隠し、妻として母として穏やかな生活を送る決意をしていたのだ。その覚悟と強い意志をそっと見守る寅子。頑なな香子だが、いずれ氷解する時が来るだろうと信じている。

そうそう、忘れちゃいけない、横暴な夫に人生の主語を奪われ続けてきた、あの同級生を。「スンッ」の代表格、大庭梅子(平岩紙)である。寅子がようやく功績を認められ、というか人手不足によって特例判事補となり、担当することになったのは、遺産相続の案件。それが梅子の夫の遺産相続だったのだ。

轟が担当弁護士(よねは助手)となり、愛人(武田梨奈)や義母(鷲尾真知子)、三人の息子たちと遺産を巡ってもめにもめるも、梅子は相続放棄することで、やっと自分の主語を取り戻す。梅子が「スンッ」を卒業できて、拍手喝采で喜んだよ。しかも、寅子が改正に尽力した民法を逆手にとった梅子。頑固な帝大教授が固執した703条(当たり前のことしか書いていない)が逆に梅子の自由獲得に役立ったのである。法律は使い方次第、盾にも傘にもなれば、温かい毛布にもなるということを証明したわけだ。

こうして明律大学の同級生たちを再登場させ、それぞれの現在地と寅子を結ぶ構図が絶妙だ。残るは華族の桜川涼子(桜井ユキ)かな。その前に、異例の登場人物が。前作『ブギウギ』に登場したブルースの女王・茨田りつ子(菊地凛子)が出てきたので驚いた。シャレてんな、と思ったよ。

前近代的なことわざや格言への反論、すべて疑問形の意義

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あまりに面白くて深いから、ついつい原稿が長くなっちゃうんだけど、もうひとつ触れておきたいのが「週サブタイトル」だ。13週分のサブタイトルを並べてみる。

第1週「女賢しくて牛売り損なう?」 第2週「女三人寄ればかしましい?」 第3週「女は三界に家なし?」

第4週「屈み女に反り男?」 第5週「朝雨は女の腕まくり?」 第6週「女の一念、岩をも通す?」

第7週「女の心は猫の目?」 第8週「女冥利に尽きる?」 第9週「男は度胸、女は愛嬌?」

第10週「女の知恵は鼻の先?」 第11週「女子と小人は養い難し?」 

第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」 第13週「女房は掃きだめから拾え?」

これらがすべて女性を見下す、あるいは役割を決めつけている言葉だということ。言葉の意味をぜひ調べてみてほしい。女は「小賢しい」だの「うるさい」だの「根性がない」だの「うつむき加減がいい」だの「扱いが難しい」だのと腹立たしい限り。

また、女の幸せは結婚と家事と育児と決めつけた言葉も。こんなに前近代的なことわざがあったのかと驚くばかり。すべてに反論するという意味で「?」をつけた志をしっかり噛みしめたい。

そろそろ、これらの平等でも対等でもないことわざにとって代わる言い回しを考えてもいい。NHKが主体で、「新 ことわざ・格言大改革」っつって募集かけて番組作ればいいんじゃないかしら?

『虎に翼』
NHK 毎週月曜~金曜 朝8時00分~
脚本:吉田恵里香 演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉 語り:尾野真千子 音楽:森優太 制作統括:尾崎裕和 プロデューサー:石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子
出演:伊藤沙莉 岡田将生 森田望智 土居志央梨 平岩 紙 ハ・ヨンス 戸塚純貴  三山凌輝 平埜生成 平田満 沢村一樹 滝藤賢一 松山ケンイチ 小林薫ほか

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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