ヒルマ・アフ・クリントを知るためのポイント4つ
null- “抽象画の創始者”と呼ばれるカンディンスキーよりも早く抽象画を描いていた。
- “死後20年間、作品を公開しないように”と希望していたと伝えられている。
- 2018年〜2019年にニューヨークのグッゲンハイム美術館の展覧会で60万人超という同館史上最多の動員。
- 霊との交信により受け取ったメッセージを元に描く。(当時、霊と交信する会合は貴族層や文化人の間では一般的だったそう)
美術界では、カンディンスキーよりも早く抽象画を描いた「抽象のパイオニア」とすべきという意見と、交霊術で絵を描いた「オカルトの画家」は認められないという意見がバチバチしており、現在も答えはまだ出ていないとか。
筆者はスピリチュアル度0、霊的なものへの恐怖心100という“超恐がり”なので、好奇心半分、未知のものに触れる怖さ半分で展覧会場へ足を運びました。
まずは、アフ・クリントがどんな画家なのかをマンガでご紹介します。
1分でわかる、マンガ「ヒルマ・アフ・クリントってこんな人」
null
スウェーデンの海軍一家の裕福な家に生まれたアフ・クリント。
17歳の頃、10歳の妹が亡くなり、霊への興味が高まり、交霊会へ足を運ぶようになったそう。
ストックホルムの王立芸術アカデミーを優秀な成績で卒業し、アカデミーからアトリエを与えられ、職業画家として肖像画や風景画といった、“ザ・西洋画”というような絵画を制作したり、挿絵の仕事をしたりしていました。
そんな表の活動と平行して、交霊会への参加は続けられており、そこで出会った女性4人と「5人」というサークルを作り、霊界との交信とドローイングなどを始めました。
ちなみに、交霊会は19世紀に欧米で流行し、中流〜上流階級の人々や芸術家や文化人、医師、弁護士、知識人らのなかで広まっており、アカデミーの理事も参加していたそう。
いま「霊との交信」と聞くと、かなり特殊なイメージを持ちますが、当時はもう少し生活に近い場所にあったのかもしれません。
アフ・クリントは「5人」の他にも、生涯を通して彼女の活動を実際に手伝ったり経済的に援助したりする友人たちに恵まれていたようです。
そうしてアフ・クリントは霊界からのメッセージを受け、たくさんの作品を制作し始めました。
“心の師”として慕っていたシュタイナー(神秘思想家、哲学者、教育者であり、オーガニックコスメの『WELEDA』の命名・ロゴ制作もしている)にも作品を見せ「50年後にしか理解されないだろう」という言葉をもらったりしたそう。
そして、「死後20年後に作品を公開するように」というメモと作品と大量のノートを甥に残して亡くなりました。
現在、ドキュメンタリー映画『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』(2022年公開、配給:トレノバ)もユーロスペースで再上映中なので、アフ・クリントがどんな人だったのか、もっと知りたい方は映画を見てから展示を見に行くのもおすすめ!
展覧会との相互割引もあるので、公式サイトをチェックしてみてください。
また、『ギルバート・グレイプ』『サイダーハウス・ルール』を撮ったスウェーデンの映画監督ラッセ・ハルストレムによる映画『Hilma』(2022年製作)は「Amazon Prime」などで観ることができます。こちらはドキュメンタリーではなくアフ・クリントを主人公にした映画作品なので、多少脚色を感じる部分はありますが、また違った視点でアフ・クリントを知ることができるのでおすすめです。
続いて、私が「ヒルマ・アフ・クリント展」で注目した作品3点をご紹介します。
注目作品 その1《スケッチ、子どもたちのいる農場[『てんとう虫のマリア』]》
null
優秀な成績で王立芸術アカデミーを卒業後、霊界からのメッセージを元に抽象画を描き始めましたが、仕事で様々な風景画や肖像画も描いていたアフ・クリント。
児童書の挿絵の仕事もしていました。
神智学者でもある作家アンナ・マリア・ロースの著書[『てんとう虫のマリア』]のためのスケッチは、インクで描かれたスケッチとは思えないデッサン力の高さを感じさせる線の正確性に驚かされました。
手前から奥に向かってのびやかに蛇行する道と、そこを歩く人々が奥行きと絵本ならではの物語を感じさせます。
ふちを飾る植物の造形も、自然豊かな環境で生まれ育ったアフ・クリントならではと思わせるポイント。
そして、このスケッチの最大の見どころは……、なんと裏面!
裏面に交霊で描いたとおぼしき、グルグルとした描写が……。

重なるグルグルに私は「ヒャー」と声を上げそうになりましたが、よくよく見ると文字に見える部分もあり、とても興味深いです。
ぜひ、実物を展覧会でご覧ください。
注目作品 その2〈10の最大物、グループⅣ〉
null
今回の目玉と言うべき作品群がこちら。
高さ約3.2m、幅約2.4mの巨大な10点の絵画は、なんとわずか2カ月で描かれたもの。
卵と顔料を混ぜたものを絵の具として使うテンペラという技法で描かれていて、乾きが早いのが特徴ですが、それでもできてしまった“塗りムラ”や“たれ”にスピード感が表れています。


霊的存在から「楽園のように美しい10枚の絵画」を制作するようにという啓示に従って描かれたとのことですが、アフ・クリントの「早く形にしなくては……!」という並々ならぬ使命感を感じます。
そして、この作品をぜひ今回の展示で見て欲しい理由が、展示会場のレイアウトにあります。
他の作品は一般的な展覧会とさほど差がない展示なのですが、この作品だけ特別な空間に展示されているのです。

暗闇に浮かび上がる巨大な絵画。
そして作品とじっくり向き合うためなのか、壁沿いはすべてベンチ!
暗闇が本気の暗闇なので、そこには自分と作品だけという感覚になります。
アフ・クリントの思考とつながるような、はたまた霊的存在とつながってしまうのか……、そんな気持ちにさせる空間です。

ちなみに「ヒルマ・アフ・クリント」と検索してよく出てくるニューヨークのグッゲンハイム美術館での展示は、自然光が差し込む明るくて広い空間に一列に並べているので、それとは全く逆の展示空間に、東京国立近代美術館の方の気合いを感じました。
“抽象画”というと、とっつきにくいイメージがあると思いますが、抽象は具象(それがなにものなのかはっきりしているもの)の逆で、“ぱっと見何を描いているのかわからないもの”を指します。鑑賞者は「ここは植物のツルみたいに見えるなぁ」とか「私はここの丸がなんだか人みたいに見える」「なぜか子どもの頃食べたクリームソーダに乗ってたさくらんぼを思い出した」「何かわからないけれど、この色とこの形は見ていて心地良い気分になる」というように、自由に楽しめばOK。
アフ・クリントの描いた抽象画は、そもそも霊的世界という“形ないもの”なので、正解がないのが面白いところです。
注目作品 その3 原子や自然物を独自のダイアグラムで表現した標本のような作品
null霊的な世界への関心のほかに、科学的な発見や研究にも興味があったというアフ・クリント。
彼女の生きた時代、エジソンによる電気に関わる発明やレントゲンによるX線の発見、キュリー夫妻による放射線の研究など、“眼に見えないものを可視化する”いくつもの科学的な発見がニュースになりました。
なかでも“原子”の発見は、とてもセンセーショナルだったようで、原子を自分なりに解釈し、図解した作品群も今回展示されています。
また、母の看護師であり、草花に詳しかったアンデションとの生活の中で自然の中にひそむ“見えない力”に目を向けるようになりました。

小麦の粒と一緒に描かれた図形と文字。
絵画というよりも数学的な図形に見える円と、小麦に秘められたパワーを描くかのような虹色の彩色が印象的です。
ほかにも、鳥や草花といった自然界に存在するもののスケッチと正方形のダイアグラムを描いた作品もあります。


目に見える姿のスケッチと、“眼に見えないけれど彼女がそこに存在すると感じるもの”を表した図形が平然と並び、自然科学者の作る標本のようにまとめられています。
この研究的なシリーズは、眼に見えないものを彼女なりに証明するかのような表現がとても興味深く、彼女の表現の心髄と挑戦する姿勢を感じました。
今回の展覧会で実際の作品を見る前は、抽象画かつスピリチュアルな作品というと、どこかフワフワとした作品をイメージしていたのですが、アフ・クリントの作品や彼女のスケッチやメモなどを見るとそのイメージは真逆でした。

画面を左右対称に分断する構図の絵画や、手描きでありながら数学者や科学者の描く図のように正確性を感じる線、驚くほどにゆらぎのない美しい字が整然と並ぶメモ帳。
そこからは、“眼に見えないものを描く”という、究極に困難で不確かなことを“確か”であると証明したいという彼女の強い信念を感じました。
スタイリッシュなものから未知のアイテムまで!おすすめグッズ紹介
null
今回の展覧会グッズは、〈10の最大物、グループⅣ〉のビジュアルを使ったカラフルなグッズがたくさんありました!
写真中央の刺繍サテントートは、ツヤのあるピンクのサテン地がとってもかわいく、下部の文字部分は刺繍になっているので高級感がありました。
色合いもすごく春らしいので、このトートを持ってお花見に行くのも良いなとわくわくしました。

ぷっくりアクリルキーホルダー 1,650円(税込)
シンプルなバッグのアクセントにしてもかわいいキーホルダーは4種。
どれにしようか悩むのも楽しい!
カラフルな色合いは、お土産にも喜ばれそうです。

作品がプリントされたTシャツは全8種、M,Lサイズ展開。
暖かい日が増えてきた今日この頃、Tシャツを新調するのも良さそう。 どれもアフ・クリント作品のカラーにあわせた絶妙なボディーカラーなので、スタイリッシュに着こなせそうです。
靴下合わせもおすすめ!

グッズショップの奥で見つけたかわいい紫色の一角は、アフ・クリントの絵画ではなく、肖像画や彼女の作品からイメージされたグッズのコーナー。
ちょっと珍しいアプローチなので、個人的にとても惹かれました。
こちらも本展覧会オリジナルグッズだそうです。


大きめサイズで個性的な形もスタイリッシュなバッグ、さらっとおしゃれに着こなせそうなLのみの青系Tシャツ、ピンク系カラーが春っぽいバケットハット。
どれもおしゃれで、すぐにワードローブに追加したくなります!
ほかにも、焼物独特の柔らかな線のピラミッド型お香立ては、お気に入りの香りとともにお部屋に置きたいアイテム。

HaK TWIST FLOWER 990円(税込)。
そして……、謎のグッズを発見!
ツイストフラワーと書かれたグッズは、紫の針金の入ったひもの両端にフェルトでできた小さなお花が。
どう使うのかというと、自分で自由に形を作って、壁に張り付けたり、巻き付けたり……。使い方は無限大なのです。
筆者は今回2色を購入し、1つを6歳の娘のお土産にしました。
もらった人も「どう使おうかな」と楽しく考えられる、とっても素敵なグッズでした。

神秘の魅力を放つ、ヒルマ・アフ・クリントの作品たち。 スピリチュアルってよくわからない、という方もきっと何かを感じ取れる、そんな展覧会でした。
眼に見えないもの、わからないものとどう向き合うか、どう捉えるのか、問いかけられた気がしました。
「抽象画家なのか?それとも霊媒師なのか?」
現在もさまざまな意見が交差するヒルマ・アフ・クリントという作家。 友人や恋人や家族と一緒に鑑賞して、お互いの感想を言い合うのも面白そうです。
アジア初公開の作品をこの機会に、ぜひご鑑賞ください!
「ヒルマ・アフ・クリント展」
会場:東京国立近代美術館
会期:2025年3月4日(火)〜6月15日(日)
休館日:月曜日(ただし3月31日、5月5日は開館)、5月7日
開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般2,300円(2,100円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生700円(500円)( )内は20名以上の団体料金、ならびに前売券料金(販売期間:1月21日~3月3日)。いずれも消費税込み。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
公式サイト:https://art.nikkei.com/hilmaafklint/
