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早期退職して子どもむけ映画のポータルサイトを立ち上げた女性が語る「映画教育」とは

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日本ではあまりなじみのない「映画教育」という言葉。興行収入において世界第3位の映画市場規模を誇る日本なのに、世界第1位のアメリカ(第2位は中国)、第4位のイギリス、第7位のフランスほど映画教育が盛んではないそうです。

『こども映画教室のすすめ』(春秋社)の共著者であり、映画の配給も行う「チャイルド・フィルム」の代表・工藤雅子さんに、映画教育の話から、いまオススメの映画まで、お話を伺いました。

子どもに映画教育…、なぜ必要なのですか?

ー工藤さんは、日本初・子ども映画ポータルサイト「こども映画プラス」を立ち上げています。

工藤雅子さん(以下、工藤):映画は子どもたちの心を豊かにするものだと思います。私自身、子どもの頃からいろいろな映画を観て育ち、映画を通して異文化と出会いました。

自分の現実とは違うさまざまな国の文化や歴史を知ることで、日本という自分の国をより理解し、自分自身を改めて知ることができました。自分をよく知るということは他人への理解にもつながり、思いやりの心も育めると思うんです。難しい本を読まなくとも、映画なら幼い子どもも楽しめる。楽しみながら学べる、だから子どもの映画教育は必要だと感じます。

―日本ではどのような映画教育が行われているのですか?

工藤:日本では映画は主に娯楽としてとらえられていて、学校などの公教育現場で映画教育を実施する制度はありません。現在では民間団体を中心に行われており、例えば、「こども映画教室」という組織は、視覚玩具工作、短編映画製作や映画鑑賞などのワークショップを行っています。

映画を観るだけではなくて、プロの映画人を講師に映画を作ったり、映画について議論したりするんです。つまり、観賞した後に表現することで総合的なコミュニケーション能力を培うことができます。

「こども映画教室」は、今年2019年に文化庁が次世代の子どもたちへの文化体験を支援するプログラムに採択されたんです。ただ、多くの助成金は人件費までカバーしないので経済的には本当に大変です。フランスのように国や映画産業が長い時間をかけて観客を育てようという制度がないので……。

各国で異なる、映画の位置づけ

フランスにおける映画=芸術

―映画はフランスで発明されましたしね。欧米の映画教育はどんなものがあるのですか?

工藤:フランスは国が映画を芸術として捉えています。フランスは映画を芸術、文化として育てていくという信念のもとに、映画教育のプログラムを学校教育に組み込んでいます。そもそもフランスは映画のチケット税というものがあり、入場料金の数%を徴収し、それを映画支援資金にあてる制度があります。

フランスの映画行政を管轄する国立映画センター(CNC)は、小学校、中学校、高校と連携して子どもたちに見せるプログラムを実施していて、CNC研究者、評論家、映画館組合などと話しあって選んだ映画数本を1年間を通して映画館で観ます

多様な映画をとりまぜて小さな頃から映画を見る目が肥えた観客を育てようとする強い意志がありますね。子どもの頃から黒澤明や小津安二郎の映画を観ているんですよ。

アメリカにおける映画=娯楽

―興行収入において世界1位を誇るアメリカはどうでしょうか?

工藤:アメリカは映画を完全な娯楽でビジネスだとしてみています。日本と違うところは映画を一大産業として大切にしているからこそ、産業を支える優秀な人材を育てるために700もの映画学校や、映画教育を提供する非営利団体がたくさんあります。映画産業や個人からの寄付や基金を中心に、映画教育に関する資金が潤沢なんです。

―日本は映画市場も大きく、フランスの映画製作数の約2倍もの本数を年間に製作しているのに、映画教育が盛んではないとはもったいないですね。日本がお手本にすべき映画教育をしている国はありますか?

 

イギリスにおける映画=文化+娯楽

工藤:イギリスだと思います。イギリスでは映画は芸術か娯楽かあいまいで、メディア・リテラシー教育の一環として、映画鑑賞を通しての作品理解、批評、映画製作など幅広いナショナルカリキュラムが学校教育に組みこまれています。その資金は、国の助成、宝くじ基金などのいくつかのリソースから成り立っているんです。

日本は映画を市場とみている一方、長年培った映画文化も存在するので、映画をとりまく環境はイギリスに一番近いと思っています。なので、イギリスのナショナルカリキュラムや資金調達の制度を日本は見習うべきでしょう。

「大好きな映画を通して子どもたちに豊かな人生を味わってほしい」

―さて、工藤さんが大手の配給会社に勤務されていたのに退職してまで起業なさったのはどうしてですか?

工藤:私が映画配給会社を早期退職してチャイルド・フィルムを立ち上げた第一の理由は、大好きな映画を通して子どもたちに豊かな人生を味わってほしいからなんです。私自身に子どもはいないのですが、映画を観るときの驚いたり、笑ったり、ぱっと輝く子どもたちの顔を見ると本当に楽しいですし、私自身もまだ心は子どもなので、子どもたちと一緒に映画を観たり、映画について語ったり何かを作ったりするのが大好きなんですよね!(笑)

退職金を資金に起業して、会社員時代よりは経済的に不安定なので大変なときもありますが、自分が心から好きな映画だけを子どもたちに紹介するというミッションだけはブレずに大事にしたいと思っています。

子どもの対象年齢で適切な映画を検索できるサイト「こども映画プラス」

―工藤さんが8年前に立ち上げた、子ども映画専門の映画サイト「こども映画プラス」について詳しく教えて下さい。

工藤:「こども映画プラス」は、子ども向け映画の新作の紹介、子どもに観てほしい旧作・名作の紹介、子ども向けのイベントやワークショップの紹介と、3つを柱にしたポータルサイトです。今、映画はたくさんあり、情報も氾濫しすぎていて何を基準に見せたらよいか分からないという親御さんも多いかと思います。子どもにとって映画は適切な時期によい作品に出会うことが大切

「こども映画プラス」では専門家の協力で対象年齢別に映画が検索できるデータベースもあり、邦画・外国映画があわせて300本ほど紹介されています。

―今後の目標などはありますか?

工藤:起業した当時はお金を得るためにさまざまな仕事も引き受けていたのですが、自分のビジネスを継続するにはやはりミッションが大事だなと気づいたんです。私の場合は、それが映画を通して子どもたちの人生を豊かにすることであり、その方法はワークショップでも、ポータルサイトでも、配給会社でも何でも構わない。自営業は精神的にも体力的にも辛いときがありますが、ミッションさえしっかりしていたら耐えられます(笑)。

いずれは、パリにあるような子ども用の専門の映画館を日本に作りたい。上映スペースのほかに、ワークショップができるスペースやカフェなども併設したいですね。

小学校高学年からの子どもと観て欲しい…アンジェリーナ・ジョリープロデュース作のアニメ『ブレッドウィナー』

©2017 Breadwinner Canada Inc./Cartoon Saloon (Breadwinner) Limited/ Melusine Productions S.A.

―最後に、工藤さんの新作オススメの映画について教えてください。

工藤:小学校高学年からのオススメ映画となりますが、1220日に公開されるアンジェリーナ・ジョリーがプロデュースした、アイルランドのアニメーション『ブレッドウィナー』です。世界の映画祭で観客賞を含む多くの賞を受賞した傑作で、2001年アメリカ同時多発テロ事件直後の時代、タリバンに支配されたアフガニスタン・カブールを舞台に、11歳の女の子・パヴァーナが髪を切り男の子になって一家の稼ぎ手(ブレッドウィナー)になりながら、タリバンに投獄された父親を探しにいく物語です。

 

映画のなかでパヴァーナが自分の物語を弟に語り、そうすることで勇気を得て強く成長するという物語、言葉や想像力のもつ力が美しく繊細なアニメーションで描かれています。特に中学生以上のお子さんなら、背景も含めて理解できる映画なので、私たちにあまりなじみのないアフガンの現実を知るきっかけになれば嬉しいです。

 

【参考】

チャイルド・フィルム

こども映画プラス

【公開情報】

公式HP 「ブレッドウィナー」

原題:THE BREADWINNER

製作年:2017年

製作国:カナダ・アイルランド・ルクセンブルク

配給:チャイルド・フィルム/ミラクルヴォイス

上映時間:93分

日本語吹替:なし

白黒/カラー:カラー

2019年12月20日(金)YEBISU GARDEN CINEMA 他 全国順次ロードショー

©2017 Breadwinner Canada Inc./Cartoon Saloon (Breadwinner) Limited/ Melusine Productions S.A.

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