この連載では、2017年1月に女の子を出産し、育児まっただなかの犬山紙子さんと、先輩ママ、独身女子などいろいろな立場から「妊娠・出産・育児」にまつわる話をしていきます。
【今回の会議参加者】駒崎弘樹(7歳女&5歳男の二児の父)、エッセイスト紫原明子(16歳&12歳の二児の母)、編集K(7歳女&4歳男の二児の母)、編集S(独身)、ライター北川和子(8歳&7歳&0歳の三男の母)
伝えなければ、変わらない!意見を伝えるルートを知らない私たち
null犬山紙子(以下、犬山):子育てをしていると、社会の仕組みに対して怒ったり、疑問を抱くシーンはたくさんあると思うんです。例えば「保育園に入れない」とか「こんな行政サービスが欲しい」という風に、身近なところから変えていくにはどうしたらいいんでしょうか。
駒崎弘樹(以下、駒崎):まず、自治体に意見を伝えることが大切です。もし、何も声をあげずにいれば、自治体側は「何も声が上がっていないから大丈夫だ」と認識してしまい、その現状が継続するという負の連鎖が起こりやすくなりますから。
犬山:具体的にはどう声をあげればいいんでしょう?
駒崎:声をあげる手段としては、いくつかあるのですが、
・署名を集める
・議員の力を借りる
・自治体のホームページから「市区長へのメッセージ」を送る
・陳情
・請願
だいたいこの5つです。
犬山:議員に相談するという選択肢もあるんですね。
駒崎:市区を会社に例えると、住民が“株主”で、議員が“外部取締役”のようなもの。ですから、議員に直接話すと、「次の議会で質問しますね」という約束がとれることがあります。
編集K:そんなこともあるんですか!
駒崎:議員は質問のネタを探していることもあるんですよ。区議会議員に直接モノを言うことができなければ、まずはメールを送るというシンプルな方法でもいいんです。
また、私の身内に市区町村のホームページにもある「市区長へのメッセージ」というページを担当している者がいるのですが、なかなかしっかりした提案はなく、来ても数が少ないから、同じ要求が3通集まると「すごくニーズがある!」と感じると言っていました。
一同:えーたった3通で!
じつはシンプル!「陳情」と「請願」について知っておこう
null犬山:“陳情”と聞くと、ちょっとハードルが高そうに感じますが、誰でもできるんですか?
駒崎:何か困ったことがあったら、自治体に対して伝えるために“陳情”“請願”という手段をとることは誰でもできます。“陳情”は個人レベルで行うことができますし、目黒区民でない僕が、目黒区に陳情書を提出することも可能です。
犬山:え、住民じゃなくてもいいんですね。
駒崎:そうなんです。“請願”は、議員を通じて提出する形。だから、力のある議員さんにお願いすれば、より目を通してもらいやすくなります。この2つとも、誰でもできます。
紫原明子(以下、紫原):困っていることに気づくことがまず大事だし、そして陳情・請願の方法を知ることについて、みんなが知るためにも啓もう活動が必要なのかもしれませんね。
編集S:実際に話が通った陳情書なんかを紹介してみたくなりました。
駒崎:民主主義の仕組みはそろっているのに、僕たちは民主主義の使い方を知らないし、教わっていないという問題があります。投票は国民の権利と言われるけれど、4年に1度だし、フィードバックがありません。「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」のPDCAサイクルとしては長すぎるんです。でも、先に述べた方法で声を上げることはできます。
犬山:小学校の社会の授業で「民主主義をフル活用する方法」教えて欲しいですよ! 陳情の方法とか。
編集K:方法を知らないから、不安や怒りがあっても抱え込んでしまうという面はある気がします。
私たちは怒ってもいい!ただ、その理由をきちんと伝える必要がある
null犬山:社会に対して怒りを感じたとき、問題解決につながりやすい“怒り方”ってあるんでしょうか?
駒崎:怒ることはファーストステップ。その怒りを伝えるときには、感情的に言うのではなく、「具体的かつ、ロジカルに」がポイントです。直接怒りをぶつけるのではなく、ポジティブな提案につながるように。
編集K:たしかに普段の生活からそうですね。夫婦での話し合いでも!
駒崎:ただし、一昨年に巻き起こった「保育園落ちた、日本死ね」のように、怒りが怒りを呼んで国会前のデモになり、世論を形成したというケースもあります。
あのとき、デモに参加した人に話を聞いたことがありますが、「おかしいと感じたら、怒ってもいいんだと気づいた」と語っていました。“怒るハードル”って意外に高いですよね。
でも、正当な理由があれば怒っていいと思います。
紫原:「モンスターペアレント」という言葉が生まれ、要求するのに後ろめたさがあったりしますよね。私たちが行政の仕組みについて知らないことも多いという負い目もあるんですけど、不満があったり怒ったりしたら、伝えてみることも大切なんだと思いました。
駒崎:社会の変化に合わせて制度も変えていく必要がありますが、「どう変えていくべきか」「課題は何なのか?」は、声に出さなければ伝わりません。“お役所まかせ”から、もう一歩踏み込んで、自ら環境づくりに携わるような情熱によって、身近な環境は少しずつ変わっていくものなのかもしれません。
【取材協力】
駒崎弘樹・・・1979年生まれ。「地域の力で病児保育問題を解決し、育児と仕事を両立するのが当然の社会をつくりたい」と考え、NPO法人フローレンスをスタート。日本初の「共済型・非施設型」の病児保育サービスを東京近郊に展開。現職認定NPO法人フローレンス代表理事、一般財団法人 日本病児保育協会理事長、NPO法人全国小規模保育協議会理事長。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。
紫原 明子・・・エッセイスト。1982年福岡県生まれ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)などがある。
構成/北川和子