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今日も、気をつけて 【ママはキミと一緒にオトナになる vol.11】

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コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、9歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第11回。今回は、緊急事態宣言の中、子どもを学校に送り出すということ。そして、そんな子どもたちを見守ってくれている人々のことも。

「気をつけて」という言葉

年始に火打ち石を買った。

きっかけは、テレビドラマの『恋する母たち』の最終回のシーン。落語家である阿部サダヲさんを家から送り出す仲里依紗さんが、玄関でカチカチと火打ち石を打っていたのを見たことだった。
調べてみたら、あの動作を「切り火」というらしい。

そういえば、と思い出したことがある。
母方の祖父母の家は宮大工の家系で、祖母は、祖父を毎日切り火で送り出していた。
聞けば「現場で事故がありませんように」との、おはらいだという。
祖母は、頼めば、私と弟にも切り火をしてくれた。子ども心ながらに、神聖な気持ちになる瞬間だった。

「気をつけて」
という言葉が
「気」を「身に“つけて”持っていって」
という意味だと知ったのも、この頃だ。

家で待つ人が、出かける人に「気」をつける。その「気」に守られ、出かけた人は無事に戻ってくることができるのだと祖母は教えてくれた。

ドラマを見て、そんなことを思い出した私は、あれを、どうしてもやってみたくなった。

早速Amazonで検索してみる。
「伊勢―宮忠 火打ち石お試しセット」なるものがあって、水晶とローズクォーツとアメジストの3種の石がついて3,460円だという。
相場はわからないが、初心者にはちょうどいいくらいかもしれない。ポチッとして数日で、火打ち石セットが我が家に届いた。

冬休み明け、息子氏(9歳)が初登校する日の朝。
私は、玄関で、念願の切り火をした。思ったより大きな火花が散って、二人で「おおっ!」となりながらも、この行為は我が家の新しい習慣になりつつある。

「気をつけて」の意味も、彼に説明した。
毎日の「気をつけてね」「うん」のやりとりが、心なしか重力を持ったような気がする。

事故にあいませんように。
怪我しませんように。
今日も一日楽しく過ごせますように。
そう短く祈って、送り出す。

子どもたちは、多くの「気」に守られている

新年早々、一都三県に緊急事態宣言が出た。
学校閉鎖になっていないぶん、一度目にくらべると混乱は少ない。よくも悪くも、withコロナに慣れてきたのもあるだろう。

でも、緊急事態宣言下に子どもが学校に通うことに対して、今回私がそこまで不安になっていないのには、もうひとつ理由がある。

あの場所には、子どもたちに「気」をつけてくれる人たちが、たくさんいる。
親の「気」だけではない。子どもたちは、本当に多くの人たちの「気」に守られている。
昨年、それを知ったからだ。

あれは、最初の緊急事態宣言があけたあとの5月の登校日のことだった。
三密を回避するために守るべきガイドラインに沿うと、とてもではないが、学校の先生だけでは登校時の人手が足りないことがわかった。

交通量の多い校門前の歩道を、間隔を開けて渡らせる。
マスクを忘れた子に、事情を聞いてマスクを渡す。
玄関で、子どもたちが密集しすぎないように、声をかける。
検温表をチェックして、一人ずつ、教室に入れる。
検温を忘れた子を職員室まで連れて行き、検温をする。
具合が悪いのだけど休ませたほうがいいのかという電話を受け取る……。

これらに対応するために、先生がたは自主的に早く出勤し、密を回避するために早くから校門をあけているという。

それでも
「本当に三密は回避できているのか?」
「子どもに何かあったら学校は責任をとれるのか?」
といった親側の不安は尽きない。

そこで、PTAがボランティアをつのって、朝の始業前の時間だけ先生がたのお手伝いをすることになった。
思いのほか毎日多くの親が集まり、旗振りをしたり、検温の手伝いをしたり、子どもたちにソーシャルディスタンスを保たせるための声かけをした。

助かっているのは、私たちのほう

私もこのボランティアに何度か参加したが、これが、本当によい経験だった。

学校と親は、「あっち」と「こっち」で対立する関係ではない。全員が全員、子どもたちを守りたい。同じ目的を持った、仲間なのだ。
それを、肌身にしみて感じることができたからだ。

私だけじゃない。学校に足を踏み入れた親たちはたぶん、みんな、同じように感じていたように思う。

ほんの少しだけれど、先生と会話をすることもできた。
コロナ対応に追われて、毎日残業続きだったり、休日返上で学校に出勤している先生も少なくないという。

緊急事態宣言のとき、大量の宿題を見て
「え、学校は授業を家に丸投げするつもり?」
と、ぷんぷんした自分を振り返る。
数日おきに届く宿題の丸つけを徹夜でして、全員に細かくコメントを書いてくれていたのは先生がたなんだよな……。
これはあとから知ったのだが、大量の宿題を家でみるために、毎日スーツケースで出勤している先生もいたという。

あの頃。
ボランティアを終えて、学校から帰るとき、すれ違う先生がたは全員
「ありがとうございます。本当に助かっています」
と声をかけてくれた。

いや違うよ。先生。
助かっているのは、私たちのほうです。
私たちの子どもたちを、毎日毎日、必死に守ってくれて、本当にありがとうございます。

・・・・・・・・・

今日も私は息子氏に「気をつけて」と言って送り出し、(今日もびっくりするほど火花が散って、笑いあった)
そして、この通学路の先に彼を受け入れ、「気をつけて」みてくれる先生たちがいることを信じている。
その感覚は、なにか、私をあたたかい気持ちにしてくれる。

コロナが、人と人を分断しようとしているときに、それでも引き離されない、気持ちや想いについて考える。
それがたぶんいま、一番、大事にしたいことだなと、感じる。

 

タイトル画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第12回は1月31日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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