自分の字の悪いところに気づくかどうか
小嶋先生が教える、きれいな文字を書くコツの一端を、前の記事「年賀状を書く前にマスターしたい 文字3つのルール」「年賀状や履歴書、漢字と仮名の大きさ変えればキマる」で紹介した。
しかし、そういったことを知っただけでは、だめなのだという。その理由はただひとつ。
自分の字のどこが悪いのかがわからないから、だ。
「他人の字はよくわかるのですが、人は意外に自分の字についてはわからないものです。それは長年そうした字を書き続けてきているから。
きれいな字を書くための第一は、まず自分の字の悪いところを知ることです。どんなにお手本をなぞり書きしても、自分のクセを客観的に知っていないと、白い紙に書いた時に元に戻ってしまいます。
本を何冊買って読んだり練習したりしても上達しないのは、この“気づき”がないからです。気づかないまま何百回練習しても、ペン遣いなどは上手くなるでしょうが、肝心の字はなかなか上達しません」
気づいた自分のクセを意識して直すかどうか
自分の欠点を指摘されたら、次にそれを意識することが大切だ。
「縦棒が曲がらないように、横画は心持ち右に上げて、「川」「山」などの左右の空きは等間隔に……など、きれいな文字を書くコツはいろいろありますが、人によって欠点が違うので、意識しなければならないところも違います。
どんなに頭でわかっても、書くたびに意識していかないと、ちょっとした時に長年書きなれた字が出てきてしまいます。潜在意識にそうした字が刷り込まれているので、書くたびに意識しないとだめなんです。
自分の欠点に気づく、そして直そうと意識する。これをしなければ、漠然と何百回書いてもあまり意味がありません」
〇自分の字のどこが悪いのか気づかない。
〇指摘しても意識して直そうとしない
これがどんなに練習しても上達しない人に共通することだという
ビフォー・アフターが劇的に変わるのが、字
小嶋先生によれば、以上の2つをしっかり実行すれば、驚くほど字が変わってくるという。その変化に気づいてもらうため、講座ではまず最初に、手本も見ずに練習もしないで字を書いてもらい、それを取っておいてもらうという。
「自分で練習していると、本当に上達したのかどうかわからなくなります。そんな時、習う前の文字を見ると、皆さんびっくりされます。それぐらいビフォー・アフターが劇的に変わります。
それはもう、久しぶりに会った親戚の子と同じ。毎日見ているとわからなくても、半年ぶりくらいに会うと、大きくなったなあ、と感慨深いでしょう、あれと同じです」
先生を困らせるのが、「どれくらいで上手くなりますか?」という質問だ。
「こればかりは、本人次第というほかありません。早い人だと、本当に3、4回で変わってきます。でも、何年やっても毎回同じところを注意せざるを得ない人もいます。そういう人は、頭ではわかっていても、書くときに意識していないのです」
小嶋先生の講座は、前半は講義、後半は個人指導だ。練習帳に書いたものを先生に見せ、欠点やクセを指摘してもらう。聞いているとその指摘はじつに具体的だ。
「この文字は少し大きく。ここを下げないように」
「左に比べて右が出すぎ」
「縦棒は右下に流れないように。門構えの左右が違い過ぎる」
「空間がつぶれているから、もうちょっと丸みがあったほうがいい」
「『口』というのは正方形じゃないんです。少し下を狭くして」
文字を見せるのが恥ずかしいとかいっている場合ではない。受講生も自分のクセを直そうと必死なのが伝わってくる。
小嶋先生は言う。
「何才からでも必ず字は直ります。自分のクセを知って、意識して直そうとすれば、必ずきれいな字が書けるようになります。悪筆だからとあきらめないでください」
こじま・きしん 書家、書道・ペン字講師。本名、小嶋憲次。
東京教育大学教育学部書道専攻卒業。國學院大學兼任講師。国士舘大学、國學院大學、カルチャースクール等で書道・ペン字講座を指導。著書に、「基本ペン字の書き方」「新書道講座」「初歩の書道教本」「たのしい習字」「臨書入門講座」他。
◆取材講座:「暮らしに役立つペン字講座」(国士舘大学公開講座)
取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)
(初出 まななび 2018/01/02)