横画を右に少し上げる
小嶋先生は上の2つの「成」を見せて訊ねた。
「どちらがバランスよく見えますか」(小嶋先生。以下、「 」内同)
明らかに右の方だ。何が違うかというと、横画が右にやや上がっている。
「活字は横画が水平なので、落ち着いた感じはしますが、動きは出ません。なんとなく上から圧迫されたような窮屈感がそこに出てしまうのです。
書き文字というのはその人が自分で書いたという生命力が宿っているものなんです。横角を右上に上げると、上に伸びる感じがして、生命力が出てくる。文字がいきいきしてくるんですね」
偏は左を長く、右を短く
「林」という字は、「木」が二つ左右に並んだ形をしている。「木」を同じ大きさで書けば、真ん中でぶつかってしまう。
そこで、左側に位置する偏は、左を長く、右を短く書く。すると偏と旁が喧嘩せず、すっきりとまとまる。
これは偏と旁を持つすべての漢字に共通することだという。小嶋先生は結婚式の祝辞でも、「お互い主張してばかりだとぶつかりますから、譲り合いましょう」と話すという。
横画、縦画はできるだけ等間隔に
「川」や「三」など、縦画や横画で構成されるシンプルな字がある。この縦画・横画を等間隔ではなく、左側や下側に寄せて書く人が多いという。
「川の真ん中を左に寄せたり、三の真ん中を下に寄せる人が結構いるのですが、ものすごくバランスの悪い字になります。複数の縦画・横画がある時は、等間隔にするだけで、きちんと見えてきます」
「米」なら、縦・横・斜めの線が作るそれぞれの空間が同じになるように書く。
間違えやすいのが「目」で、よく下に詰まりやすいという。これも「三」と同じように等間隔に書く。
この3つが、最低限マスターしておきたい、きれいな字を書く基本だと、小嶋先生は指摘する。
自分の字の欠点は自分では気づかない
以上は、国士舘大学公開講座「暮らしに役立つペン字講座」の授業のほんの一端だ。
「悪筆だから、と諦めていては上達はしません。字は空間を特に意識することにより、書いた字がきちんと見えてくるのです。しかし、自分の字のどこが悪いのか、自分では気がつかないものなのです。そこを指摘してもらって直していけば、必ずきれいな文字が書けるようになります。
また、毛筆もペン字も基本は同じです。基本を正しく身に付ければ、漢字でもひらがなでも、万年筆でもボールペンでも、美しい字が書けるようになります」
もうすぐ年賀状の季節。ぜひ今年こそ、丁寧できれいな文字で送りたい。
こじま・きしん 書家、書道・ペン字講師。本名、小嶋憲次。
東京教育大学教育学部書道専攻卒業。國學院大學兼任講師。国士舘大学、國學院大學、カルチャースクール等で書道・ペン字講座を指導。著書に、「基本ペン字の書き方」「新書道講座」「初歩の書道教本」「たのしい習字」「臨書入門講座」他。
◆取材講座:「暮らしに役立つペン字講座」(国士舘大学公開講座)
取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)
(初出 まななび 2017/12/19)