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ドラマ「アトムの童」。男たちの「七転び八起き」と、オダジョーの「えげつなさ 」

日曜劇場といえば、『半沢直樹』シリーズがあるように、企業ドラマなど骨太な物語の印象がありますよね。今シーズンは、ゲーム業界を舞台にした『アトムの童(こ)』。独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんにドラマについて解説していただきました。

定番ネタも、役者と舞台が変わるだけで

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日本の国力が低下しているのは、ひしひしと感じている。以前は、何もかもが激安だった海外の国がみな経済成長を遂げ、旅行先として高嶺の花に。ネットショッピングでも日本産はモノがいいと言われてきたが、他国産の安価で良質な製品が市場に出回り、完全に競争に負けている感がある。

いつまでも日本すごい!と自画自賛している場合じゃない。技術力があっても営業力と宣伝力がなければ、モノは売れない。ただ、漫画とアニメとゲームはどうか。日本経済を支えるビジネスとして、もっと守られてもよいのではないか。

なんてことを思っていたら、今期の日曜劇場はゲーム業界が舞台に。「零細玩具メーカーと超大手IT企業、時々国家権力」なので、日曜劇場の定番っちゃ定番なのだが、演じる役者が若くて、舞台が変わればこうも変わるのかと楽しんでいる。

クランクイン後に、ヒール(悪役)のキャスト変更という憂き目に遭ったせいか、番組ホームページの情報量が異様に少なく、手が回っていない感じもあるが、それはまあ仕方なし。

度重なる嫌がらせが、えげつない

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主人公の安積那由他(山﨑賢人)は、天才ゲームクリエイター。学生時代、親友の菅生隼人(松下洸平)と組み、「ジョン・ドゥ」の名でゲーム「Downwell」を開発。

友人・緒方公哉(栁俊太郎)がこれを世に広めるために、超大手IT企業「サガス」に営業をかけるが、あこぎな契約書の罠にハメられて、ゲームを奪われてしまう。首謀者は社長・興津晃彦(オダギリジョー)。公哉は自責の念で命を絶ち、ジョン・ドゥは事実上の解散へ。

ゲームから離れていた那由他と隼人を結びつけたのは、老舗で零細玩具メーカー「アトム玩具」の富永海(岸井ゆきの)。銀行に勤めていたが、社長である父(風間杜夫)が倒れ、工場が焼け、アトム玩具の建て直しを決意。ジョン・ドゥに協力を求め、新たなゲームを作ろうと目論む。公哉の死を機に、仲違いしていた天才・那由他と秀才・隼人は、アトム玩具の面々と組んで「打倒・興津」に挑む。

ともあれ、悪役・オダジョーがこのうえなくいけすかなくて新鮮だ。

スマートで底意地が悪く、零細企業や新進気鋭のクリエイターを力ずくで抱き込み、札束で頬を叩くような男。業界に幅を利かせる大手企業だけあって、逆らう者はなし。覇権を握った男の余裕を、優雅かつ狡猾に演じている。

興津が狙うはアトム玩具の特許。これでもかと零細企業をいびり倒す。工場に火をつけたり、銀行からスパイを送り込んでゲームのデータを消去させたり、融資した後で貸しはがし、株も特許も工場も奪う。那由他たちの新作ゲームが完成しても、金の力で販売妨害に受賞阻止。ここまでえげつない嫌がらせは興津の凄腕といってもいい。いや、ホメちゃダメなんだけどさ。

頻繁に仲違いする男たちの七転び八起き

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毎回、興津の嫌がらせが千本ノック状態で襲ってくるも、アトムの面々は決してあきらめない。那由他が瞳を輝かせてゲームのアイデアを語り、隼人がそのアイデアを冷静にブラッシュアップ。支える社長・海の存在も大きい。

二人の天賦の才能を、地道な努力と根性で下支え。さらにアトム玩具のおじさんたち(職人の塚地武雅、たたき上げ専務のでんでん、そして元社長で職人の風間)も頑張るわけよ、老体に鞭打って。

物語を盛り上げる「裏切り」や「仲違い」も頻繁にさしこまれる。特に、那由他と隼人の仲は目まぐるしく変わる。時系列に追ってみる。無二の親友→ゲームを奪われて空中分解→瓦解して、再びアトム玩具でタッグ→ゲーム制作の外部発注に関して仲違い→仲直り→アメリカの会社にスカウトされるも、再び仲違い。

真逆の性質をもつふたり、定期的に喧嘩しとるなという印象もある。だからこそ盛り上がるんだけどね。

直情型で動く那由他を、やや野性味も帯びつつも子供のように無邪気な表情を見せる山﨑賢人が好演。また、その情熱を受けとめるも意外と頑固な隼人に、松下洸平は適役だ。嫌がらせの荒波を超え、無事にアトム玩具も「アトムの童(こ)」と名を改め、再スタートを切る。一心同体と思いきや……。

物語の後半ではふたりは再び別々の道を歩き始める。というのも、アトム玩具が開発した特許「アトムロイド」をめぐる争いは、サガスだけでは終わらず。宮沢ファミリーオフィスなるハイエナ企業の社長(麻生祐未)が経産省官僚(西田尚美)も買収して、獲得に乗り出している。

特許技術の市場開放を要求しているが、ゲーム以外に悪用するきなくささ(軍事産業に加担)も匂う。特許を取り戻すために、那由他は興津に協力することに。「さんざん嫌がらせした興津を助けるんかーい!」と総ツッコミ。あの瞬間、協力に反対した隼人に数万票が入る音が聞こえた。

でも、ふと考えてしまう。技術の売り方について。

売り方の下手な国や企業は秒殺で餌食となって駆逐されちゃうんだよなぁと。ちょっと心ざわつく展開へ。那由他と隼人の関係修復も含めて、じっと見守っている。

『アトムの童』
TBS系毎週日曜夜21時~
脚本:神森万里江 プロデュース:中井芳彦、益田千愛
出演:山﨑賢人、松下洸平、岸井ゆきの、岡部 大(ハナコ)、馬場 徹、柳俊太郎、六角慎司、玄理、飯沼 愛、林 泰文、西田尚美、皆川猿時、塚地武雅(ドランクドラゴン)、でんでん、風間杜夫、オダギリジョー

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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