難しいとされる碁で勝利したAI
脳の研究を人材育成やマーケティングの世界で応用し、多くの企業とともに製品開発にも取り組んでいる黒川先生。男性脳型、女性脳型、それぞれの脳の特徴を明らかにして、トラブル回避のための道筋を示してきた。その黒川先生が男女の脳の違いに気づいたのは、人工知能(AI)の研究によるものだった。
2015年秋、AIを用いたAlphaGo(アルファ碁)が、プロ棋士の第一人者を破り、話題を呼んだ。将棋やチェスではすでにAIが人間を上回っていたが、碁はその複雑さからAIが人間に勝ることは当分の間は難しいと言われていた。にもかかわらず、あっさりと勝利したことで、いっきにAIブームが巻き起こった。
3回目のブームで人間を上回るAIが?
しかし、このブーム、実は3度目だという。
最初のブームは、いまから60年も前の1950年代のことだ。現れ始めたコンピュータやロボットを前に、将来、人間と同じような”知的なマシン”ができるに違いないという予測(期待?)のもと、数学者をはじめ心理学やエンジニア、経済学者、政治学者、法学者なども巻き込んで、想像上のAIの姿を議論した。
第2のブームは1980年代。この時は専門家の知識や技術を一般化する「エキスパートシステム」として形になり、黒川先生も、専門家たちに多くのインタビューを行った。AIの研究はコンピュータのハードの研究であると同時に、人間はどのように考え、知識を蓄え、判断するのか、人間への研究でもあった。そこで黒川先生は男女の考え方が川の両岸をへだてるように大きく違うことに気づき、その領域を発展させていった。
現在の第3次ブームで注目されたのが、何度も何度も学習を繰り返して能力を飛躍的に高めるディープラーニングだ。一定の分野では人間を上回るAIが登場し、将来、AIに人間の仕事が奪われるのではないかという議論も巻き起こした。
だが、それでも人間のように考え判断する”知的な機械”への道のりは遠い。黒川先生も「私たちの脳は素晴らしい。それを超えるAIは作れない」と言っている。むしろ、人はどう考えるのか、人間そのものの研究がまだまだ必要だということが浮き彫りになった。人間の男女の脳の違いに着目した黒川先生の研究が注目されるのもそのためだろう。
〔講師profile〕黒川 伊保子(くろかわ いほこ)●(株)感性リサーチ代表取締役。人工知能研究者/脳科学コメンテイター、随筆家、日本感性工学会評議員。脳科学の見地から「脳の気分」を読み解く感性アナリスト。大塚製薬「SoyJoy」のネーミングなど、多くの商品名の感性分析に貢献している。宣伝会議のコピーライター講座で講師も勤める他、「男女脳差理解によるコミュニケーション力アップ」を目的とした講座も人気。
取材講座データ | ||
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男女脳差理解と感性マーケティング | 明治大学リバティアカデミー | 2017年1月26日、2月2日、9日、16日 |
2017年1月26日取材
文/本山文明 写真/黒川伊保子先生、Abobe Stock
(初出 まななび 2017/03/30)