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乳幼児の冬季下痢症に要注意。脱水から命を落とすことも

冬場は乳幼児がよく下痢を起こす時期。突然腹痛や下痢を起こした子どもに慌てた経験のあるお母さんも多いだろう。たかが下痢と侮るなかれ。乳幼児は下痢から重篤な脱水症状を起こすことがある。東京医科大学の公開講座「子どもの下痢と血便」で、同大主任教授で小児科科長でもある河島尚志教授にその理由と対処を学ぶ。

「下痢」は世界の5才未満の子供の死因2位

世界の5才未満の子どもの死因のトップは「肺炎」だが、次点はなんと「下痢」だ。大人にとって「下痢」は、ちょっとお腹を下した感じくらいかもしれないが、乳幼児にとっては死因に直結するような重篤な症状となることもある。

その理由が、脱水だ。河島教授はこう語る。

「テレビ報道などでアフリカなどで満足に食事もとれず、眼窩の落ち窪んだぐったりした赤ちゃんが出てくることがありますが、あれは脱水症状であることが多いのです。

赤ちゃんが脱水になると、眼が落ち窪んできます。泣いているのに涙がまったく出ない。皮膚を引っ張っても水分がなくて元に戻らない。頭頂部の大泉門の穴が赤ちゃんの時には張っているんですが、それがぺたんとくぼんできます。

脱水を示すそのような状態を数時間放っておくと、赤ちゃんは命を落としてしまいます」(河島教授。以下「 」内同)

赤ちゃんがすぐに脱水症状を起こしてしまうわけ

なぜ赤ちゃんはこうも簡単に脱水になってしまうのだろうか。

「赤ちゃんは大人とは水分量がまったく違います。大人は体の6割くらいが水分ですが、赤ちゃんはなんと7割が水分です。水分が不足すると、あっという間に循環不全になり心不全を起こしてなくなってしまいます」と河島教授。

下痢が続く乳幼児には、吐いても水分を飲ませてほしい、6時間以上飲んだり食べたりできないようなら近くの医療機関に行ってほしい、と河島教授は言う。東京医科大学病院でも、ロタウイルス感染から亡くなった子どもがいるという。

「母乳はできるだけ止めないでください。よく、母乳を飲むとうんちがやわらかくなるから下痢によくないのでは、と考える人がいますが、母乳を飲んでうんちがやわらかくなるのは良い作用なのです。母乳は止めない。また昔は、下痢の時はミルクを薄めるとよいなどといわれましたが、これはまったくのウソです」

脱水症状に効くものは?

こうした下痢症のほとんどは、急性腸炎と呼ばれるものだ。脱水がひどい時には病院で点滴してもらうのが一番よいが、家庭で与えるならOS-1などの経口補水液がよいという。

これはナトリウムイオンとブドウ糖が小腸から吸収される際、一緒に水も吸収される仕組みを利用したもので、河島教授によれば、これを飲めば、たとえ吐いても飲んだ半分くらいは小腸から吸収されるので、そう簡単に脱水にはならない、という。

一家に一本備えておけば、乳幼児だけでなく高齢者の脱水症状にも役に立ちそうだ。

下痢の時食べてよいもの食べてはいけないもの

急性腸炎による下痢は、薬よりも食事で治したほうがよい。その際、避けたほうがよいものがある。脂肪分が多いものと、糖分が多いものだ。

「糖分が多いものや脂肪分が多いものを食べていると下痢が治りません。飲料水も清涼飲料水を大量に与えるのはやめましょう。

スポーツドリンクならよいのではと考える人がいますが、糖分が多いので避け、経口補水液や、薄い紅茶や麦茶を飲ませましょう。紅茶にはお腹を整える成分が含まれます。もちろん赤ちゃんの場合はカフェインを摂り過ぎないようにして」

講座では、下痢の時に食べたい消化の良い食品、避けたい消化の悪い食品のリストも配られた。

消化のよい食品
穀類:白パンのトースト、お粥。
魚類:脂肪が少ない魚。タイ、アジ、カレイ、トビウオなど。
肉類:脂肪が少ない肉。ヒレ肉、鶏肉、仔牛肉など。
豆類:豆腐を味噌汁などにして。高野豆腐、きな粉、煮て裏ごしした豆類。
卵類:たまご、うずら卵。
油脂:良質なバターや食物油を控えめに。
野菜:軟らかく煮た野菜。
果物:バナナ、すりおろしたリンゴ、白桃、果物の缶詰。
飲料:薄い紅茶、麦茶、経口補水液。

消化の悪い食品
穀類:赤飯、すし、ラーメン。
魚類:脂肪の多い魚。マグロ、イワシ、サンマ、サバ、ウナギなど。
肉類:脂肪の多い肉。豚肉、ハム、ソーセージなど。
豆類:小豆・大豆などの硬い豆。
卵類:油で揚げた卵、筋子。
油脂:ラード。
野菜:繊維の多い野菜。
果物:みかん、梨、イチゴ、レーズンなどの干し果物。
飲料:コーヒー、サイダーなどの清涼飲料水。
菓子:菓子は全般に甘いので避けた方がよいが、とくにドーナツ、かりんとう、ケーキ、辛いせんべいなどはNG。

次回は、乳幼児にこのような脱水症状をもたらす下痢を引き起こす、さまざまな感染症について解説する。

 

河島尚志(かわしま・ひさし)
東京医科大学小児科学分野主任教授、東京医科大学病院副院長、小児科診療科長
1985年東京医科大学大学院修了、同大学病院小児科臨床研究医、大月市立中央病院部長などを経て、現在は東京医科大学病院にて小児科診療科長を務める。専門は感染免疫、膠原病、栄養消化器肝臓疾患、川崎病など。

◆取材講座:「子どもの下痢と血便」(東京医科大学病院 )

文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム 写真/東京医科大学病院提供

(初出 まななび 2017/12/29)

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