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出産した女性の4割がなる「骨盤臓器脱」その手術方法とは

出産などで骨盤底筋が損傷し、加齢でゆるんで、子宮・膀胱・直腸などが落ちてくる骨盤臓器脱(参考記事:トイレの時「え!あそこにピンポン玉?」それ骨盤臓器脱かも…)。子宮や膀胱が落ちてきて歩きにくい、尿漏れするなどで悩む場合は手術治療となる。日本でも数少ない専門家の1人である東京医科大学産科婦人科学分野主任教授の西洋孝先生が、同病院市民公開講座「骨盤臓器脱の治療」で詳しく解説した。

骨盤底筋体操で改善せず、自覚症状が重ければ手術

骨盤臓器脱(POP=pelvic organ prolapse)とは、骨盤を下から支える組織である骨盤底筋群と呼ばれる筋膜や靭帯が出産時などに損傷したりして、加齢にともなってゆるみ、腟壁などと一緒に膀胱・子宮・直腸などの臓器が下がってしまう病気だ。

出産した女性の4割がかかるといわれ、入浴時やトイレで、ピンポン玉のようなものがあるのに気づき、来院する人が多いという。

命にかかわる病気ではなく、中にはかなり骨盤臓器脱が進行していても、自覚症状がない場合もある。また、軽い場合は骨盤底筋体操で改善する例もある。

しかし、完全に外に出てしまっている(ステージⅢ・Ⅳ)ケースや、骨盤底筋体操でも改善せず、尿漏れや排尿困難に悩んだり、局部に違和感があって歩きにくくなったりと、QOL(quality of life=生活の質)を著しく低下させるのであれば、手術となる。

たくさんの手術法から最も適するものを

骨盤臓器脱の手術には数多くの方法があるが、大きく分けて、メッシュを使う方法と使わない方法とがあるという。

従来、多く行われてきた手術は、落ちてくる子宮を膣の方から摘出し、腟壁を補強したうえで仙骨子宮靭帯を引っ張り上げる手術(VTH)だ。再発率は35%くらいだという。

これに対し、弱った骨盤底筋を支えるために、メッシュを入れて補強する手術(TVM)がある。従来のVTHに比べ、出血量も手術時間も短く、優れた手術法で、再発率も9.5%くらいと低い。

術後の合併症を比較すると、性交痛や排尿困難はメッシュを使うTVMの方が少ないが、尿漏れはTVMの方が多いという。

このほか、腟そのものを閉じてしまう手術もある。この術式のメリットは再発しないということだが、デメリットは、術後に子宮がん検診ができなくなること。そのため80才以上の人が対象になるという。

このほかにも多くの術式があるので、医療機関でよく相談してほしいという。

手術が無理な場合はペッサリーによる治療も

心臓に疾患があったり高齢だったりして手術に耐えられない場合や、手術まで期間があいてしまう場合は、リングペッサリーを腟に入れて臓器が落ちてこないように支える治療法もある。

ただし何年間も入れっぱなしにすると、直腸や膀胱に穴が開くことがあるので、3~6か月おきに交換する必要がある。医療機関で交換することが多いが、トレーニングを受けて慣れれば、自分で着脱ができるようになる。

リングペッサリーは簡便ではあるが、性交ができなくなる(外せば可能)、尿閉・便秘が起きやすい、長期間入れておくと直腸や膀胱に穴が開く、などのデメリットがあるため、手術がどうしてもできない、または手術まで期間が開いてしまう場合以外はあまり勧められないということだ。

このほか、臓器が落ちてこないように支えるサポーターなどもあること、また、ホルモン補充療法などで改善する例もあることなどが紹介された。
(参考記事:女性を救うホルモン補充療法 がんリスクは本当か?

医療機関のどの科にいけばよいのか

講座修了後、質疑応答は盛り上がった。その中で出た質問の一つが「疑わしい場合、行くのは泌尿器科でしょうか、それとも産婦人科でしょうか」。

これは医療機関によって異なるという。東京医科大学病院では、産科婦人科で受け付けているが、病院によっては泌尿器科で受け付けているところもあるので、それぞれの医療機関で相談してほしいという。

骨盤臓器脱は加齢や出産が要因なので、超高齢社会で患者が増えていくだろうと、西先生は語る。他人に相談しにくい、こうした女性ならではの悩みに、公開講座という形で情報を公開していることに感謝したい。

西洋孝
にし・ひろたか 東京医科大学産科婦人科学分野主任教授
1994年東京医科大学卒業、アメリカ留学を経て、2017年より現職。専門は婦人科腫瘍学、ウロギネコロジー(Urogynecology)。ウロギネコロジーとはウロ(Urology=泌尿器科)+ギネ(Gynecology=婦人科)の造語で、泌尿器科と産婦人科の両科にわたる女性特有の病気を診療する科目。骨髄臓器脱の数少ない専門医の一人。

◆取材講座:「骨盤臓器脱(POP)の治療」(東京医科大学病院市民公開講座)

取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)

(初出 まななび 2018/04/09)

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