どんなへんてこな絵でも、書いたほうが勝ち
「絵手帳」ってなに? という人も多いだろう。じつは記者も初めて聞いた。しかしその疑問は、講師の谷川五男先生(元吉祥女子中学・高等学校芸術コース・美術系教諭)の絵手帳が飾られた教室に入った瞬間、吹き飛んだ。眺めているだけで楽しい! 絵ごころゼロの私でも、もしかしたら描けるかも、と思ってしまう。まずはその作品からご覧あれ。
谷川先生は小学校の時、絵が好きになったのだと語る。
「小学1年生の時、両親がお正月に餅つきをする様子を描いた時が、自分から絵筆を取った最初でした。意外に楽しいな、と思いましたね。もちろん当時は色鉛筆を使ったり水彩画を描いたりしていました。小学6年生の時、水彩絵の具に菜種油を混ぜて油絵に似せて、家にあったベニヤ板にりんごの絵を描いたんです。そうしたら、いとこのお姉さんに、その絵欲しいなぁ…と言われてとても嬉しくて……。初めて、絵は自分の心だけでなく、人の心をも動かすことに気づきました。だからどんなへんてこな絵でも、書いたほうが勝ちなんです」と断言する。
絵手帳で大事なのは、じつは「文字」
絵手帳とは、谷川先生自身が、毎日メモしていた手帳にメモとともに挿絵を添えていたことから考案したもの。必ずしも手帳だけとは限らない。メッセージカードも絵手帳、毎日の日記も絵手帳、旅の思い出を絵に描くのも絵手帳だ。ただしひとつだけ決まりがある。それは絵とともに言葉を書くこと。
文字も、絵を引き立てる大事な要素になる。谷川先生は、どのような書体で、どれくらいの大きさで書くかも大事になるという。
「どういった書体を選ぶか、どのようなレタリング技法を選ぶかで、絵の印象も変わってきます。また、文字の大小や、縦書きにするか横書きにするか、スペースを空けるか、それともスペースいっぱいに書き込むか、こういったことも大切です」と谷川先生。
上の写真は、お母さんと子供の会話を記した絵手帳を作っている受講者にアドバイスする谷川先生。
「子どもの会話の部分は、もうちょっとやんちゃな文字がいかもしれないですよ。ここをこう跳ねて、ここをぐっと大きくして…」と、隣に座って谷川先生自らペンを取り、紙にお手本を書きながら丁寧な指導が入る。
作品には必ずコメントをフィードバック
本日のお題は「思い出のモチーフ」。各自持参した「思い出の品」や「思い出の写真」をスケッチし一筆文を添えていく。
思い出のスニーカーを写真を撮って持参して来られた受講生、お気に入りのペンケースや小さな馬の人形を持参して来た受講生。みんな思い思いの品を机の上に並べ始めてデッサンを開始した。
描き終わると、谷川先生はカラーコピーを取る。ひとりひとりにコメントを入れて翌週返却するためだ。
「毎回頂ける先生のコメントがすごく楽しみなんです」
「絵はもともと好きでしたが、この講座で描けば描くほど、絵を描くということがこんなに奥深いものだと気づきました」
とは受講生から聞いた話。
記者がとくに感動したのは、冒頭に掲載した写真の絵手帳。谷川先生がお孫さんと想像を働かせながら作り上げた空想旅行記だ。「人吉球磨旅行野音物句(のーとぶっく)」と名づけた。もうこれは、立派な絵本ではないか。しかも世界にたった1冊だけの。
絵があると記憶に残しやすい
「私がおすすめしたいのは、ちょっとしたメモに絵を添えてみる、ということです。たとえばデパートに足を運んだ時、これ欲しいなあ、これ素敵だなあ、と思った時に書き留めるメモに、その絵をちょっと添えておく。それだけで絵の中に、素敵だなと思った気持ちを封じ込めることができるのです。絵手帳があるだけで、暮らしが楽しくなります。絵というのは写真以上に、人の心に長く留まるものなのです」
なるほど。もしかしたら脳トレにもいいかも。海外旅行の荷物にそっと色鉛筆をしのばせておくのもいいかもしれない。
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取材講座:「暮らしの絵手帳作り」(実践女子大学公開講座日野キャンパス)
文・写真/Yukako
(初出 まななび 2017/08/09)