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倍率7倍の人気ガイドが教える外国人への日本ガイド術

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次は東京オリンピック。ますますニーズが増えると期待されるのが、外国人向け観光ガイドだ。テンプル大学の生涯教育講座「ボランティアガイドとして日本を紹介しよう」では、大人気の現役ガイド・Patrick Lovell先生が、日本人が観光ガイドをする上で、必要なものを教えようとしている。

エンタメだけではなく、教養のあるツアーを

昨今増えている訪日外国人向けの観光ガイドツアー。だが、実際に日本に45年以上滞在し、15年以上プロ観光ガイドを務めているLovell先生から見て、その内容については、非常にお粗末なものが多いという。

「『外国人向けのガイド』について、日本では誤解されている部分も非常に多いと思います。たとえば、大手旅行代理店などでよく企画されるのは『ニンジャ体験・サムライ体験』や『ゲイシャツアー』など、わかりやすいものが多い。

日本といえば、外国人はみんな『ゲイシャ・フジヤマ』のようなわかりやすいものを好むと思っているのかもしれませんが、決してそうした人々ばかりではありません。観光はたしかにエンターテインメントではありますが、もっと教養に基づいた旅も求められています。その点、あまり大手旅行会社は、外国人が本当に求めるものがわかっていないような気もしています」

今の時代にアメリカにガンマンがいないように、日本に本物の忍者や侍は存在しない。侍や忍者のコスプレショーを見せたり、富士山に連れていったりするだけでは、本物の日本を見せたことにはならないとして、Lovell先生は自分が日ごろ行っているガイドの方法を講座で教えている。

倍率7倍、希望が殺到する理由

講座のあと「よいガイドになるための企業秘密をこんなに洗いざらい教えてしまって大丈夫ですか?」と質問すると、先生はにこりと笑って、「いま自分に寄せられるガイドのオファーはとても多くて、7件に6件は受けられなくて断っている状態ですから」と答えた。つまり、先生のガイドを受けるには倍率7倍以上なのだ。

ステレオタイプな日本観光ではなく、しっかり理解を深められる観光ガイドの需要の高まりを強く感じているという。日本人気が高まるなか、どんな依頼もやみくもに受けるのは早計だとLovell先生は語る。

「私自身、日舞を35年間続けているほど、日本の伝統文化や歴史が大好きです。そのため、用意するプランは、『皇居を散策する』『小京都と言われる谷中を歩く』『柴又の七福神巡り』など、歴史や街、日本文化と紐づいたものが多いですね」

観光ガイドを目指す人に対して、Lovell先生が必ず学んでほしいと語るのが「background story(バックグラウンドストーリー)」。たとえば、「案内する土地の成り立ちや歴史」についてだ。

「観光はもちろんエンターテインメントの要素も大切ですが、同じ街並みだったとしても、その歴史や伝統を踏まえた上で歩くのでは、まったく見え方が変わってきます。ホテルで会う外国人の多くは東京メトロのマップを持ってますが、私はその代わりに東京の古地図を持っていきます。その街が昔どんな街だったのか。この街はいつ作られたのか……といった背景を知っていたほうが、よりいっそう東京の街を楽しめるはずですから」

外国人が描いた日本、に触れる大切さ

では、どうしたら、外国人を満足させられるガイドになれるのか。それに対して、Lovell先生は「外国人が書いた日本の資料や外国人が考える日本観にできるだけ多く触れることが大事」だと続ける。

「たとえば、『知られざる日本の面影』『雪女』などで知られる小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)のように、外国人目線で描いた日本の風景を眺めることで、外国人から見て日本はどのような存在なのかが、感覚的につかめるようになるはず。夏目漱石も一度イギリスに留学して、日本を見つめ直したからこそ、他の日本人作家にはない視点を持った、ユニークな小説が書けたと言われています。それと同じで、一度外国人の視点を持って、物事を考えることが観光ガイドにおいても、実は重要です」

先生がおすすめする日本を紹介した本が数十冊並ぶ。

実際に、テンプル大学で開催されているLovell先生の講義のなかでは、参考資料として毎回さまざまな本が持ち込まれ、自由に貸し出しされている。英語で書かれた日本全般に関するガイドブックから、日本の庭園や天皇制度、民芸品、生活習慣など、個々のテーマに特化した本まで実に様々だ。数十冊並んだ本の中にはLovell先生が受講生たちに強調していた「background story」が驚くほど詳細に解説されている。それだけ多くの人々が日本を深く理解したいと考えている表れとも言える。温泉、日光、茶道、下町……。ちょっと本をのぞいただけで、自分には理解できていなかったしっかりした解説が書かれていて、とても恥ずかしくなった。

「どんな人にも読んでもらいたい」という一冊。

「日本で生まれ育ってきた人は、『どう日本を紹介すれば外国人が喜ぶか』という視点を持つことは難しいかもしれません。この講義では、私自身がこれまでガイドをしてきた経験もそうですが、これまで外国人が日本について描いた資料や本を持って行っては、それに触れてもらうようにしています。私が担当する講座『ボランティアガイドとして日本を紹介しよう』ではたった10週間しかないので、やれることは限られています。でも、その短い期間のなかで、受講生のみなさんに『外国人の視点』を持ってもらうことが、この講座の目指すゴールだと思っています」

〔前の記事〕
外国人にマイ得意分野を紹介する観光ガイドの始め方

◆取材講座:「ボランティアガイドとして日本を紹介しよう」(テンプル大学ジャパンキャンパス)

取材・文・撮影/藤村はるな

(初出 まななび 2017/12/21)

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