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外国人にマイ得意分野を紹介する観光ガイドの始め方

昨年の日本を訪れた外国人観光客史上最多の約2400万人を記録した。2020年東京五輪に向けて、観光ガイドを目指す人も増加中。テンプル大学でも、現役プロガイドのPatrick Lovell先生が教える生涯教育講座「ボランティアガイドとして日本を紹介しよう」が盛り上がっている。

外国人旅行者向けの観光ガイドになりたいと思っても、いまさらできるはずがないと思う人も多いかもしれない。しかし、「自分が得意な分野をガイドすればいいんですよ」と、実践的なノウハウを教えるのが、日本滞在歴45年・ガイド歴15年のPatrick Lovell先生だ。

では、いったいどんな講座が行われているのか……。まず、テキストを開いてみると、
・「観光ガイドの収入はチップ・代金・紹介料の3つが基本。それぞれの算定方法は」
・「クレーマーにはどうやって対応するか」
・「いざといいうときのため、ガイドツアー中に持参したほうがよいグッズリスト」
などなど、まさに観光ガイドならではのノウハウがぎっしり。「ボランティアガイド」の講座ではあるものの、ガイド料金の徴収方法やツアープランの立て方など、プロでも活用できそうな内容が多く、受講生のなかには、すでに経験のあるプロの観光ガイドもいる。

この日の講義の内容は、「ガイドとして仕事を得るために、インターネットのHP上にどのような自己紹介を掲載するべきか」という内容。ちなみに、講義はすべて英語で行われていた。

「まず、観光客からのアプローチを受けるために、あなたがどんな人物なのかがわかるような、メールやウェブ、紹介文に載せるプロフィールを作りましょう。どんな人が来るのかがわかったら、あなたが提供できる旅行プランの提案書を送る。ツアーの内容と、それぞれにどのくらいのコストがかかるのかも一覧にして送りましょう。そして、その人があなたの提案に興味を持ったら最終的な旅程や、日本におけるマナー、規約、日本に来る前に知っておくべきことなどの資料をテンプレート化して送るようにしましょう」

すべての人にユダヤ教食のリストを送る理由

それらの資料を送る際、ユダヤ教食として知られる「コーシャ料理が食べられる店」のリストをつけておくとよいといった実践的アドバイスも。

「海外から来る人は、宗教上の理由などで日本とは全く違う食文化を持つ人も多く、滞在時に困ることも多い。日本の場合、ベジタリアンの人の場合は、精進料理など様々な料理が充実しているのであまり問題ありませんが、ユダヤ教のコーシャ料理については、なかなか日本で見つけるのは難しいですから。とはいえ、事前に相手の宗教を聞くのがよいとは限らないので、私の場合は、リストを事前に送っておいて、もし、先方がそのリストに興味を示した場合、より詳しく説明するという手法を取るようにしています」

そのほかにも「レストランの予約はキャンセルされた際にトラブルになるので、ガイドが予約をするのではなく、ゲストが滞在するホテルから予約してもらうようにしたほうがいい」「自分の持っている情報はサイト上にすべて出すのではなく、できるだけ小出しにして、相手の好奇心を刺激するのが肝心」などといった、先生によるアドバイスが適宜入っていく。

「マラソンが好きだから」「湘南にくわしいから」

続いて、受講生が、実際にHPやDMに載せるために作った、自分の紹介文を発表する時間になった。

「自分のHPを訪れた人に『なぜこの人にガイドを頼むべきか』という理由が見えるように、自分の個性を押し出すプロフィールを作成する必要があります。たとえば、私の場合は、45年前に日本に来て、それ以来、ずっと日本文化に魅せられているということ。また、35年間日舞をやっているので、日本の伝統芸能にも詳しい……といった要素を打ちだして、プロフィール文にのせています。そうすると、秋葉原のメイドカフェや東京ディズニーランドを案内してほしいという人は申し込んできませんし、もし連れていってほしいと言われても断ります」

つまり、自分が好きなマイ得意分野をその分野に興味がある旅行客にガイドする。ガイドと旅行客の両方にとって、嬉しい形になる。

講義中、受講生たちが自ら紹介文を発表。ある人は、「マラソンが好きなので、東京のよいマラソンスポットをガイドします」という趣味要素を押し出した自己PR文を作っていたり、またある人は「私は藤沢出身なので、鎌倉・藤沢などの湘南エリアをガイドします」など、自分の住んでいる地域に密着させたPR文を作成するなど、それぞれの個性が色濃く出る結果に。

そうした発表の合間にも、「写真は多用したほうがイメージが伝わりやすい」「プロフィールに掲載する写真は、スマイルを忘れずに」「紹介文は長すぎても短すぎてもダメ。できれば、A41枚に収まるくらいの文章量が理想的」「実際に、どういうプランを自分が提示できるのかを記載したほうがいい」など、Lovell先生による具体的なアドバイスが続いた。

「日本の旅行会社は『外国人といえば、芸者や富士山が好き』『忍者や侍に喜ぶ』などの先入観が強いのか、そうしたコースを用意しがちです。でも、それは本来の日本を伝えることにはなりません。むしろ、今後需要が急増する観光ガイドを始める上で、自分の個性や強みをPRし、いかに周囲と差別化を図るかが重要です。そして、日本文化についてのより深い知識が必要になってくると思います」

日本の歴史をより知ることが、人気ガイドへの秘訣

そして、Lovell先生の授業の最大特長は、先生自身が持つ日本人顔負けの日本の伝統や歴史に対する知識の豊富さにある。

「日本を紹介する以上、絶対にはずせないのが日本の過去の歴史や文化についての知識です。たとえば、東京・下町と言われたら、どんな場所を想像しますか? 多くの人は浅草あたりが下町だと思っていますが、厳密に言うと、下町は東京の日本橋や神田近辺のことをさしました。浅草が『下町』と呼ばれ始めるのは明治以降です。下町は、英語だと繁華街や都心部を意味する『Down Town』と翻訳されますが。本来は町人が住んでいたエリアを指しており、当時は身分によって住むエリアが違っていたんです。

また、いま東京一番の繁華街と言われる銀座や日比谷あたりは、昔は海だったと言われています。このように、一見些細に見えることでも、きちんと歴史を知っておくことで、観光客に対して、東京という街の別の視点を見せることができますから」

ネットが発達し、大手旅行会社を通さなくても、個人間で自由にやりとりができるだからこそ、より深みのある知識で、他者との差別化を図ることができる。自分がやりたい分野、案内したいスポットをガイドするプランは、なんとも楽しそうだ。

◆取材講座:「ボランティアガイドとして日本を紹介しよう」(テンプル大学ジャパンキャンパス)

取材・文・撮影/藤村はるな

(初出 まななび 2017/12/14)

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