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ブーム到来!「クリムト」と「19世紀末ウィーン」の魅力に酔いしれる展覧会3つ【ふらり大人の美術展#8】

19世紀末ウィーンを代表する画家、クリムト。きらびやかな作品の数々は多くの人を魅了し続けています。今、そんなクリムトがアツい! なんと都内の3つの美術館で、クリムトにまつわる展覧会が開催されているのです。

今回はその魅力に迫るとともに、それぞれの展覧会の見どころと楽しみ方をご紹介しましょう。
(上記写真:「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展示風景)

没後100年の「クリムトブーム」が海を越えて東京へ

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昨年2018年は、19世紀末を代表する画家グスタフ・クリムト(1862〜1918)の没後100年にあたる年でした。クリムトが生前活動していたオーストリアの首都ウィーンでは大規模な回顧展がいくつも開催され、ちょっとしたブームになっていたそう。

そして年が空けた2019年、このクリムトブームが海を超えて東京にやってきました。現在、上野の『東京都美術館』で「クリムト展 ウィーンと日本1900」(7月10日まで)、六本木の『国立新美術館』で「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」(8月5日まで)、そして目黒の『目黒区美術館』で「世紀末ウィーンのグラフィック展」(6月9日まで)が開催されています。

3つの展覧会は、それぞれまったく切り口が異なります。同じ作家の作品が展示されていても、こんなにも内容が異なるのだ!と驚くばかり。では早速、順にご紹介していきましょう。

クリムトを知るための決定版!「クリムト展 ウィーンと日本 1900」

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とにかくクリムトの絵をたっぷり見たい!という方は、まず『東京都美術館』で開催されている「クリムト展 ウィーンと日本 1900」をおすすめします。

グスタフ・クリムト『アッター湖畔のカンマー城III』 1909/〜10年 油彩、カンヴァス 110×110cm ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 © Belvedere, Vienna, Photo: Johannes Stoll

数少ないクリムトの油彩画が25点以上展示されていて、その数は過去最大規模。初期から晩年に至るまでのクリムト作品の変遷をたっぷりと辿ることができます。

クリムトは、金箔を使った豪華絢爛で、ときには退廃的な作風で知られていますが、若い頃には印象派や象徴派などにも影響を受けた静謐な作品も残しています。

グスタフ・クリムト『ヘレーネ・クリムトの肖像』1898年 油彩、厚紙 59.7×49.9cm ベルン美術館(個人から寄託) Kunstmuseum Bern, loan from private collection

こちらは、当時6歳のクリムトの姪ヘレーネを描いた肖像画。ボブカットは、当時としては非常に先進的な髪型だったそう。それにしてもかわいらしい!

このヘレーネの肖像画を描いていたころ、クリムトは若手芸術家たちの集団「ウィーン分離派」の創設に参画。既存の価値観にはとらわれない新しい芸術を模索していました。

そんな中、1901年にクリムトは油彩画に本物の金箔を使った『ユディトI』を制作します。美しい未亡人ユディトが、祖国を救うために敵将ホロフェルネスの首を切り落としたという旧約聖書外典のお話を元にしたもの。

グスタフ・クリムト『ユディトⅠ』1901年 油彩、カンヴァス 84×42cm ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 © Belvedere, Vienna, Photo: Johannes Stoll

そして、ウィーン分離派会館を飾る壁画『ヴェートーベン・フリーズ』の原寸大複製は圧巻です!

グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ』(部分) 1984年(原寸大複製/オリジナルは1901-02年) 216×3438㎝ ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 © Belvedere, Vienna
グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ』(部分) 1984年(原寸大複製/オリジナルは1901-02年) 216×3438㎝ ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 © Belvedere, Vienna

『ベートーヴェン・フリーズ』は、1902年にクリムトがベートーヴェンの交響曲第九に着想を得て描いた全長34mの壁画。現在でもウィーンの『分離派会館』に存在します。交響曲第九の第4楽章をクリムトなりに解釈したものと言われ、黄金の甲冑で武装した騎士が幸福を求めて敵に向かい、楽園にたどり着くまでの旅路が絵巻物のように綴られています。

「クリムト展 ウィーンと日本 1900」では、これらのほかにも風景画や肖像画、素描など、クリムトの作品がもりだくさん。クリムトという人物にしっかりと迫れる展覧会です。

クリムト作品をたっぷり堪能したら、クリムトという芸術家を作り出した“環境”も気になってくるはず。そんな方に特におすすめなのが「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」です。

クリムトを生んだ「ウィーン」がわかる「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」

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「クリムト展」がクリムトの魅力を味わう展覧会だとしたら、「ウィーン・モダン展」は、クリムトが活動したウィーン世紀末の文化的背景に迫る展覧会です。18世紀中頃から、クリムトが活躍する19世紀末の文化が花開くまでを、美術や工芸だけでなく王朝の流れや都市改造計画まで丁寧に追っていきます。

エゴン・シーレ『自画像』1911年 油彩/板 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

展示作品は、絵画や工芸はもちろん、建築やデザイン、インテリアにファッションなど多岐にわたります。登場する作家もクリムトのほか、クリムトに大きく影響を受けたエゴン・シーレやオスカー・ココシュカ、建築家のオットー・ヴァーグナーにデザイナーのヨーゼフ・ホフマンなど多数!

なかでもやはり点数が多いのは、クリムトの作品群。油彩画や素描など47点も出品されています。

グスタフ・クリムト『エミーリエ・フレーゲの肖像』1902年 油彩/カンヴァス ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

上記作品は、クリムトの描いた『エミーリエ・フレーゲの肖像』。

生涯独身で通したクリムトですが、かなりのプレイボーイで多くの女性と関係を持ち、子どももたくさんいました。そんなクリムトが生涯にわたって愛した女性が、エミーリエ・フレーゲ。エミーリエは、姉がクリムトの弟エルンストと結婚したことからクリムトと知り合いました。最先端のモード・サロンを経営しており、ふたりは精神的にも経済的にも自立したパートナー関係だったと言われています。

『エミーリエ・フレーゲのドレス』2008年再製作(オリジナル:1909年) コットンジャージー、シルクタフタ、オーガンザ ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

上記写真の白いドレスは、エミーリエが着ていたもの。当時の流行をまるっと取り入れている優雅な服です。

グスタフ・クリムト『第 1 回ウィーン分離派展ポスター』(検閲後) 1898年 カラーリトグラフ ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

美術市場からの独立を目指し、約20名の若手を中心とする芸術家たちによって創設された「ウィーン分離派」。クリムトは初代会長に選ばれました。

上記は、クリムトが手がけた『ウィーン分離派展』のポスター。ちなみに、検閲前のポスターでは青年の股間を隠す黒い木などがありません。

これらのほか、約400点にもわたる膨大な作品が展示されているボリューミーな「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」。当時のウィーンに思いを馳せながら、いくつもの傑作が誕生した時代とその文化の背景を様々な角度から知ることができます。

「ウィーン・モダン」展でクリムトのポスターなどに興味を持ったら、ぜひ『目黒区美術館』の「世紀末ウィーンのグラフィック展」に足を運んでみましょう

美しいデザインと印刷の世界に魅了される「世紀末ウィーンのグラフィック展」

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当時の印刷物がそのまま見られるものも多い

『目黒区美術館』の「世紀末ウィーンのグラフィック展」は、「クリムト展」や「ウィーン・モダン展」にくらべると規模的にはコンパクト。

けれども展示されている作品はどれも美しく、濃密な時間を過ごせる展覧会です。版画や挿絵、壁画の原画など、ウィーンのグラフィックデザインに焦点を絞っています。

グスタフ・クリムト『右向きの浮遊する男性裸像』(ウィーン大学大広間天井画『哲学』のための習作 1897-99年 京都国立近代美術館所蔵
グスタフ・クリムト『ウィーン分離派の蔵書票』1900年頃 京都国立近代美術館所蔵

クリムトの作品は素描や蔵書票など小さいサイズながら、美しく洗練されています。他の芸術家たちの作品とあわせて観ていくと、生活に近いところから当時のウィーンの雰囲気を体感できますよ。

会期は6月9日(日)まで。観たいと思われた方は、『目黒区美術館』に急ぎましょう。

ベルトルト・レフラー(編)『ディ・フレッヒェ(平面)・装飾デザイン集(新シリーズ)第II巻』 1910/11年 京都国立近代美術館所蔵
フランツ・フォン・ツューロウ『月刊帳 1915年3月版』 1915 年 京都国立近代美術館所蔵
カール・モル『ハイリゲンシュタットの聖ミヒャエル教会』 1903年 京都国立近代美術館所蔵

 

通常、クリムトの作品は日本にあまり多くありません。こんなにもたくさんのクリムト作品を同時期に観られるのは非常に珍しく素晴らしいこと。
休日ごとにひとつずつ観て余韻を繋ぎ合わせて楽しむも良し、頑張って1日で3つの美術館をハシゴするも良し! ぜひ、時間を作ってクリムト三昧の休日をお過ごしください。

【展覧会情報】

クリムト展 ウィーンと日本 1900

会場:『東京都美術館

東京都台東区上野公園8-36

会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)

開室時間:9:30〜17:30/金曜は20:00まで(最終入室は閉室の30分前まで)

休室日:6月3日、17日、7月1日

最寄り駅:JR「上野駅」公園口より徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」7番出口、京成電鉄「京成上野駅」より徒歩10分

問い合わせ:03−5777−8600(ハローダイヤル)

 

日本・オーストリア外交樹立150周年記念 ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道

会場:『国立新美術館』企画展示室1E

東京都港区六本木7-22-2

会期:2019年4月24日(水)~8月5日(月)

開館時間:10:00〜18:00/4・5・6月の金曜・土曜は20:00まで、7・8月は21:00まで(最終入館は閉館の30分前まで)

休室日:火曜

最寄り駅:東京メトロ千代田線「乃木坂駅」改札6出口直結、東京メトロ日比谷線「六本木駅」4a番出口より徒歩5分、都営地下鉄大江戸線「六本木駅」7出口より徒歩4分

問い合わせ:03−5777−8600(ハローダイヤル)

 

京都国立近代美術館所蔵 世紀末ウィーンのグラフィック

会場:『目黒区美術館

東京都目黒区目黒2-4-36

会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)

開室時間:10:00〜18:00(17:30最終入館)

休室日:月曜

最寄り駅:JR山手線・東京メトロ南北線・都営三田線・東急目黒線「目黒駅」徒歩19分、東京メトロ日比谷線・東急東横線 「中目黒駅」徒歩約20分

問い合わせ:03-3714-1201

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