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世界旅行前の準備「予防接種」について【旅する救命救急医・中島侑子の役立ちメモ 第4回】

救命救急医&旅行医学会認定医&1歳児の子育て中の母、中島侑子です。「旅」と聞いて心配になる事柄は人それぞれかと思いますが、「病気」はかなり上位に入るのではないでしょうか? そこで前回は「旅先に持っていく薬」についてお伝えしましたが、今回は私が世界一周に行く前に実際に行った実例を交えて「予防接種」のお話をしようと思います。

予防接種をする目的は二つ

まず、予防接種をする目的は大きくわけて二つあります。

一つは、入国やVISA申請に「予防接種の証明書」が必要となってくる場合。

私の実例では、ブラジルのVISA申請やタンザニアの離島ザンジバルへの入島には黄熱病の予防接種の証明書が必要でした(2011年時点)。このパターンは、これまで64カ国を旅した中でこの2カ国だけでした。なお、黄熱病の流行状況や各国の事情により、予防接種が必要かどうかの情報は変更されるので、渡航される際は最新の情報を、必ず各大使館、領事館へお問い合わせください。

また、旅行ではなく海外に引っ越しされる場合、現地の学校で証明書の提出が義務付けられている場合もあるそうなので、こちらも詳しくは大使館、領事館などにお問い合わせくださいね。

二つ目は、海外で感染症にかからないように自分自身の身体を守るためです。

この場合、必要な予防接種は渡航先、期間、年齢などによって変わってくるので、できれば海外に行く前に渡航者外来の専門の先生にご相談することをおすすめします。

「生ワクチン」と「不活化ワクチン」とは?

予防接種のワクチンは「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。

次の予防接種までの間隔は、原則として生ワクチンは接種後4週間以上、不活化ワクチンは接種後1週間以上です。

ただ、同じワクチンを続けて接種する場合はそれぞれ間隔が異なるので注意が必要です。

実際に渡航前に受けた予防接種の数々

実際に私が世界一周前に摂取したものをご紹介します。

※ワクチン名の横の(生)は「生ワクチン」、(不)は「不活化ワクチン」、数字は接種回数。

黄熱ワクチン(生)1回

黄熱病は蚊によって媒介されるウイルス性の感染症で、致死率は5〜10%、流行地域では50〜60%という報告もあります。

アフリカ、中南米の熱帯地域に渡航する人や黄熱病予防接種証明書を入国時に要求する国に行く人は必要です。日本で接種する人は、接種場所が少ない上に「出国1カ月前からでないと接種できない」等、病院によって決まりがあるので要注意です。

A型肝炎ワクチン(不)3回

A型肝炎ウイルスに汚染された水、野菜、魚介類等を生や加熱不十分で食べることにより感染する場合が多いです。

1回目と2回目は2〜4週間隔、3回目は6カ月後。渡航前は最低2回の接種が推奨されています。

B型肝炎ワクチン(不)3回

B型肝炎ウイルスは母子感染、性行為、輸血、臓器移植、刺青、針刺し事故等、血液を介して感染します。1回目と2回目は4週間隔、3回目は6カ月後。

破傷風ワクチン(不)3回

破傷風菌は世界中の土壌に存在し、傷口から感染します。予防接種は1回目と2回目は4週間隔、3回目は1年後。

狂犬病ワクチン(不)3回

狂犬病ウイルスに感染した動物の咬み傷から感染します。咬傷から侵入したウイルスは神経を介して脳神経組織に到達して発症するので、潜伏期間は咬まれた部位により異なります。脳に近いほど潜伏期間は短く、遠い程長く、数年以上という報告もあります。発症後の死亡率はほぼ100%。

旅中は犬だけでなく、猿、コウモリ等に咬まれることもあるので要注意です。咬まれた場合、できるだけ早くワクチン接種を開始する必要があります!(既に狂犬病ワクチンを接種している人も同様)

渡航前の接種は、1回目と2回目は4週間隔、3回目は半年から1年後。咬まれた後のワクチンは、初回ワクチン接種日を0日とすると、3、7、14、30、90日の合計6回接種。

麻疹・風疹ワクチン(生)1〜2回

年代・性別によって、予防接種を受けていたり・いなかったり、1回しか受けていなかったり(1回では不十分ということで現在は2回接種)さまざまあるようです。一度自分の産まれた生年月日で調べてみてください。

特に女性が妊娠中に風疹にかかった場合、赤ちゃんが目や耳、心臓などに障害がでる「先天性風疹症候群」になる可能性があります。これは「旅のために」というより日本での日常生活のためにも接種が推奨されます。

以上が私が渡航者外来で薦められて実際接種したワクチンです。アジアのディープな地域やアフリカなどに行く方々は同じく必要かと思われます。

なお、ワクチンの有効期間はそれぞれ異なるので接種する際、医師に確認して下さい。

よく間違えられる!マラリアには予防接種がない

マラリア流行地に行く場合はまずは虫除けスプレー、長袖長ズボン、蚊帳等の活用が重要です。虫除けスプレーはDEET(ディート)という成分が含まれている物が効果が高いです。濃度が30%程度のものも販売されています。

マラリアは予防接種はありませんが、予防薬はあります。私が飲んでいたのは、日本で認可されているメファキンです(2018年現在)。これは噂でよく聞くかもしれませんが、副作用に「悪夢」があることで有名です。私の友人でも悪夢を見た人はいましたし、実際悪夢がひどすぎて飲めなくなる人もいるそうです。

 

以上、予防接種と予防薬に関して書いてきましたが、実際これを全部日本で準備するとなると、それなりの出費となります。

私が旅で出会った人の中には、安く済ませるために海外で接種している人もいましたが、語学の問題等もあり、リスクも考える必要があると感じました。その辺りも含めて、渡航者外来の専門の医師と相談して決めていくのが一番かもしれません。色々と計画を練ってみてくださいね!

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