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女性が閉経後に、のぼせや発汗に悩まされるのはなぜ?

女性では閉経前後の10年間を更年期と呼ばれるが、この時期には、ガクンと女性ホルモンのエストロジェンが減り、更年期障害と呼ばれるさまざまなつらい症状が出てくる。まず現れるのが、のぼせやほてり(ホットフラッシュともいう)、発汗だ。それはどういう仕組みで起こるのか。横浜市立大学市民講座「ホルモン補充療法とは」で、横浜市立大学大名誉教授の田中冨久子先生が丁寧に解説する。

更年期になると、こんな症状が……

女性では、閉経(日本女性の閉経の平均年齢は50.5才)すると、血中に分泌されるエストロジェンの量はガクンと下がって、男性の半分以下になってしまい、この状態が生涯にわたって続く(「生理前のイライラもホルモンのせい ホルモンが人体を動かす」参照)。そして、閉経前後の更年期には、次のような症状が出はじめるのである。

更年期にはこんな症状が現れる (c)k_katelyn/Fotolia

まず起こるのが、のぼせ、ほてり、発汗、めまい。そして、動悸や息切れ、イライラや抑うつ感ななどが起こってくる。個人差はあるが、だいたい45才くらいから55才くらいまで、こうした症状に悩まされる。

このような症状はなぜあらわれるのだろうか。

なぜ、のぼせるのか

エストロジェンは、次のようなステップを経て分泌される。

まず脳にある視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が分泌される。それを受けて脳下垂体から黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌される。それを受けて卵巣からエストロジェン(卵胞ホルモン)やプロジェステロン(黄体ホルモン)が分泌される。

しかし生殖期を過ぎてくると、卵巣が働かなくなってきて、エストロジェンやプロジェステロンを分泌できなくなってくる。

これらのホルモンの濃度が下がると、視床下部—下垂体へネガテイブ・フイードバック作用を及ぼせなくなり、視床下部—下垂体は黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)といった性腺刺激ホルモンを大量に分泌し続けるようになる。しかし性腺刺激ホルモンが大量に出されても、もう卵巣はそれに応えることができない。

実際には、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は1時間に1個のパルス状に分泌され、したがって、下垂体からの性腺刺激ホルモン(LHとFSH)の分泌も1時間に1個のパルス状に起こっている。そして、このパルスが出るとき、ホットフラッシュが起きているという。それはだいたい1時間に1回くらいで、夜間にも起きているのだ。

なぜ、汗をかいたり、動悸が出るのか

発汗は交感神経によって制御されている。暑くなくても緊張したりすると手に汗をかくが、これも交感神経が過度に緊張することから汗が出るのである。同様に、心拍数も交感神経によって制御されている。

この交感神経の働きを抑制し、他方で副交感神経の働きを促進しているのが、エストロジェンだ。

閉経によってエストロジェンが急激に減ってくると、交感神経が優位になり、暑くもないのにものすごい汗が出たり、心拍数が上がって動悸が出たりするのである。

また、副交感神経を促進する働きが弱まることから、通常は副交感神経の作用で調整されている唾液や涙の分泌、腸管の働きがうまくいかなくなり、ドライマウスやドライアイ、便秘や下痢といった症状が出ることもある。

なぜ、イライラするのか

更年期には、わけもなくイライラしたり、ひどく落ち込んだりすることが多くなる。仕事を辞めたいと思い始めることも多い。

更年期だけでなく閉経後にも、わけもなくイライラしたり、ひどく落ち込んだりすることが多くなる。仕事を辞めたいと思い始めることも多い。

じつはエストロジェンは、幸せホルモンといわれるセロトニンやドーパミンを、感情をつくる扁桃体という場所への分泌を増やす働きもあり、エストロジェンが減ると、扁桃体のセロトニンやドーパミンも減ることが確認されている。

セロトニンは心を穏やかにする物質なので、それが減ることで落ち込みやすくなってしまうし、ドーパミンはやる気を起こさせる物質なので、それが減ると何をするのもいやになってしまう。

エストロジェンが脳に与える影響はそれだけではない。記憶をつかさどる海馬にも影響を与えるのだ。

もし、あなたが更年期を迎えており、記憶力の低下に悩まされているのなら、それはもしかしたらエストロジェンの低下によるものかもしれない。これについて詳しくは次の記事「アルツハイマー型認知症に女性ホルモンがかかわる理由」で解説しよう。

田中(貴邑)冨久子
たなか(きむら)・ふくこ 医学博士、横浜市立大学名誉教授。田中クリニック横浜公園(更年期女性外来/生活習慣病外来)院長。
1964年横浜市立大学医学部卒業、同大大学院医学研究科修了後、同医学部教授、同医学部長を歴任。専門は生理学、神経内分泌学、脳科学。平成29年秋の叙勲において瑞宝中綬章を受章。主著に『女の脳・男の脳』『女の老い・男の老い』(ともにNHKブックス)、『脳の進化学』(中公新書ラクレ)、『がんで男は女の2倍死ぬ』(朝日新書)、『カラー図解 はじめての生理学』上・下 (講談社ブルーバックス) 。学会活動は貴邑冨久子として行っている。

◆取材講座:「ホルモン補充療法とは」(横浜市立大学市民医療講座/アートフォーラムあざみ野)

取材・文/まなナビ編集室(土肥元子)

(初出 まななび 2018/02/23)

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