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ヒントは「部活の女子マネ」!? 時代が求める母性的リーダーシップって|猪熊真理子さん(株式会社OMOYA代表取締役)

『BizLady』では、各界で輝かしく活躍している女性のみなさんに、ゲストライターとして寄稿いただいています。今回のゲストライターは、“女性が豊かに生きていくために自由に学ぶ”をコンセプトに、女性なら誰でも参加できる学びの場『女子未来大学』を設立した、株式会社OMOYA代表取締役の猪熊真理子さんです。(編集部)

“生み出す”“育む”“受け入れる”という3つの特徴がある“母性”は、子育ての場面だけでなく、ビジネスや社会活動の中でも活かせるのではないか? これが前回までにお伝えした、私が考える“母性革命”のコアイメージです。

新規事業や新企画を“生み出す”こと、人や組織や事業を“育む”こと、そして時代の変化や多様化を“受け入れる”こと……。どれも今まさに求められていることですよね。

“父性”的な価値観がまだまだ強い現代の社会やビジネスの場面において、本来男女問わず持っているけれど、今まで活かされてきていなかった“母性”の力を活かした新しい活躍の形が増えていくことで、企業経営や組織の中の“壁”を克服したり、新たなイノベーションを起こすことができるのでは?と考えています。

そのためには、“母性”を体現する新たなマネジメントスタイルが求められることになるのですが……、じつはそのヒントは“部活の女子マネージャー”にあったのです。

女性は本来マネージャー向き!?

昔から不思議だったのですが、学生時代にサッカー部や野球部など、とくにスポーツ系の部活ではよく女性のマネージャーがいますよね。ところが、部活の中ではたくさんの女性マネージャーがいるのに、社会人になって企業の中で「マネージャー」という役割についている人は圧倒的に男性が多くなる。みなさんも、不思議に思いませんか?

もちろん、女性が離職する割合が高かったり、管理職になるまで会社に残っている人数が少ないことも要因としてはあると思いますが、もっと本質的な問題があるように思えてなりません。

部活におけるマネージャーの役割とは何かと考えてみると、“部員が試合で最大限力を発揮するようにサポートすること”なのではないでしょうか。じつは、本来女性が得意としているそういった能力が、まだまだ会社組織や社会の中で活かされていないのではないか?と思うのです。

母性を活かしたマネジメントのヒントの一つは、ここにあるように思います。

究極のマネージャーはお母さん!?

私は会社員時代、雑誌編集の仕事をしていた時期がありました。編集者は自分で立てた企画を誌面に落としていくまでに、デザイナーやカメラマン、モデル、スタイリストなどたくさんの人と関わって記事を作っていきます。編集者の仕事は、その一人ひとりのプロフェッショナルな皆さんが、最大限力を発揮できるように準備を整えたり、企画意図を分かりやすく伝えたり、アイデアを議論したりと、それぞれの力が上手く相乗効果を起こすようにサポートしていくことです。

その時に思い出したのが、お母さんが家族の中でしてくれたことでした。「明日、プールがある!」と言ったら、玄関にプールの用意を出しておいてくれたり、家族のために食事を作ってくれたり。お母さんが家族のためにしてくれたことは、「家族が学校や会社で最大限力を発揮できるようにサポートしてくれること」だったからです。

まさに、女性たちの活躍の一つの形として、企業の中でのマネージャー(管理職)的な役割や、組織や団体などをマネージメントする人が増えていく際にも、この「組織一人ひとりの可能性を最大化することで組織の最大化を目指す」という母性的な価値観が活かせるのではないかと思っています。

“父性の組織”と“母性の組織”

じつは組織論の分野でも、これに似た新しい価値観が提唱され始めています。

従来の組織の多くは、トップダウンで、ヒエラルキー型と呼ばれる階層型の組織になっています。指示は基本的に上から下へと下りていく仕組みになっており、組織をコントロールしやすく、作業効率性を高められることがメリットです。これは、どちらかというと父性的な価値観の強い組織の在り方です。

一方で、新しく提唱されている組織論は、「ホラクラシー型」と呼ばれ、組織全体をいくつかのチームに分け、権限を各チームに分散させ意思決定させることで、自走する組織を保つという組織形態を指します。指示が上から降りて来るのではなく、各チームが自発的にある事象に対して、意思決定を下しながら、組織全体の最大化を図っていくのが特徴です。まさに母性的な価値観を活かした組織です。

メンバー一人ひとりの多様な意見が反映されやすく、多様なニーズに応えられる新しいアイデアや仕組みも生まれやすくなる「ホラクラシー型」ですが、このタイプの組織を運営していくためには、根底に「組織一人ひとりの可能性を最大化することで組織の最大化を目指す」という方向性がなければ、成り立ちません。

そこにこそ、“女子マネージャー”や“お母さん”的な母性性を活かしたリーダーシップが求められることになると思うのです。

母性を活かし、バランス感覚を持つ女性が活躍できる時代に

組織のマネジメントだけでなく、女性一人ひとりに焦点を当てた場合にも、本来持っている母性性を活かし、バランス感覚を持つ女性たちがより活躍できる未来になっていくでしょう。

私は、これまでたくさんの女性に出会う中で、女性の人生にはいくつかのシーズン(季節)が訪れるのだと知りました。仕事をがんばる季節、子育てに注力する季節、家族との時間が増える季節、自分のやりたいことにもう一度挑戦してみる季節……など。巡る季節のように、ライフスタイルや働き方が変化していっても、女性たちが本来持つ力をそれぞれのテーマに合わせて、最大限発揮できる生き方が求められてくるように思います。

子育てで仕事をお休みしたり、働き方を変えたママ達が、働く環境に戻ることを考えた時に、「会社は自分を必要としているのだろうか」「以前のようには働けないかもしれない」「働きたい気持ちはあるけれど、家族との時間を大切にしたい」といったように、まだまだ多くの女性たちが職場に復帰していく自信を失っていると聞きます。

子育てという人生において大切な経験をしている女性たちが、自分自身の価値をゼロ・リセットしてしまうのではなく、その経験を活かしてもう一度職場で活躍できると信じられるためにも、“母性”を活かした社会での活躍が一つのモデルとして浸透していくことを願ってやみません。

これからの未来においては、専門性を持つ人達がプロジェクトチーム的に集まって、一緒に働いていくプロジェクトワークが増えたり、多様性を包含し、新しい価値を生み出すイノベーションを起こせる企業が成長していくと思います。その中で、今までは重要視されていなかった、母性的な価値観を活かした女性の活躍が増えていくと、女性が女性らしく、自分らしく活躍できる未来を創っていけるのではないでしょうか。

【筆者】​​猪熊真理子(いのくま・まりこ)

株式会社OMOYA 代表取締役社長。東京女子大学文理学部心理学科卒業。学生時代に女性の自信形成に興味を持ち、心理学を学ぶ。2007年(株)リクルートに入社。ブライダル情報誌「ゼクシィ」で編集や企画の経験を積み、美容サロン検索・予約サイト「Hot Pepper Beauty」で事業戦略、ブランドプロモーション戦略、マーケティングなどに携わる。2011年から「女性が豊かに自由に生きていくこと」をコンセプトに、心理学・美容・ファッションなどの観点から商品やサービスの企画・PR・女性支援などを行い、Fashion&Beauty Bloggerとしても活動。2014年2月にリクルートを退職し、3月に株式会社OMOYAを設立。2015年は「人がより良く生きる、より豊かに生きるために」をテーマに、経営・ブランドコンサルティング、企画・マーケティング、女性活躍推進事業などを行っている。

2015/7/16 BizLady掲載

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