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正解率15%!「姑息」は「ひきょうな」という意味ではない?本来の意味を解説【間違いやすい日本語#13】

“姑息”という言葉は、本来の意味とは異なる意味で使われる場面が増えています。今回は“姑息”の意味や注意点についてお届けします。

解説していただいたのは『印象が飛躍的にアップする大人の「言い方」練習帳』(総合法令出版)など、多数の著書を持つ国語講師の吉田裕子さんです。

「姑息」の意味とは?

「姑息」の意味とは?

“姑息”(読み方:こそく)は、どちらの意味だと思いますか?

  1. 「一時しのぎ」という意味
  2. 「ひきょうな」という意味

正解は「1」。一時しのぎ、その場のがれ、一時の間に合わせ、という意味のある言葉です。

ところが、平成22年に行われた『国語に関する世論調査』において、70.9%が「2」の意味を選択しています。特に20~40代以下については、8割以上が「ひきょうな」という意味を選択していました。

本来とはニュアンスが異なる“ひきょうな”の意味で既に広く使われています。

「姑息」の語源は?「卑怯」という意味で使われる理由は?

「姑息」の語源は?「卑怯」という意味で使われる理由は?

“姑息”の“姑”は“しばらく”の意味。“姑息”は、しばらくの間、息をつくことができるよう、一時しのぎの対策で切り抜けることを意味します。

決して根本的な解決ではなく、その場をうまく切り抜けるための小手先のごまかしのようなイメージを含むことから、“卑怯”という意味で使われるようになっていったのではないかと思われます。

「姑息」の使い方の注意点は?

「姑息」の使い方の注意点は?

先述したように、ほとんどの人が“姑息”という言葉を“卑怯”という意味で使っています。卑怯は、こころ立てが卑しいこと。卑劣という、強い意味のある言葉です。

本来の意味と比べるとネガティブな意味合いが強くなっているので、“一時しのぎの”という意味で使うのは避けたほうがいいかもしれません。

「姑息」の例文は?

「姑息」の例文は?

“姑息”を使った例文をご紹介します。

本来の“一時しのぎ・その場逃れ”という意味では、以下のように用います。

【“姑息”の本来の意味(その場逃れ)の例文】

姑息な解決法ではなく、本質的な手段を見出したい。

・人員不足により、今回は姑息な手段に頼らざるを得なかった。

実際には、以下のような形で広く使われています。

【広く使われている意味(卑怯)の例文】

・彼は、何かあればすぐに逃げる姑息な一面がある。

・彼が契約成立のために使った手段は、じつに姑息なものだった。

国語講師としては、正しい意味をお伝えしたいのですが、後者の“卑怯”の意味で広く使われているのが実情です。

「姑息」を言い換えると?類語は?

「姑息」を言い換えると?類語は?

“姑息”に類似した意味を持つ言い換え表現をご紹介します。先述した理由により、本来の意味で使う場合、相手に伝わらない可能性がありますので、以下の言葉に置き換えるといいかもしれません。

(1)「一時しのぎ」

なんとか取りつくろって、その場のトラブルなどを切り抜けること。

【例文】

・今回は一時しのぎの対策で難を切り抜けましたが、次回に備えて根本的な問題解決に励みましょう。

(2)「その場逃れ」

“その場逃れ”は、その場だけをごまかして、なんとか切り抜けようとすること。“その場しのぎ”という表現もあります。

【例文】

その場逃れの小さな嘘を重ねたことで、取り返しのつかないことになった。

(3)「小手先の」

“小手先”(読み方:こてさき)ちょっとした技能や才能のこと。中途半端な対応や技術を形容するときに使われることもあります。

【例文】

小手先の言い訳では、すぐに矛盾が明るみになるだろう。

(4)「当座の」

“当座”にはいくつかの意味がありますが、“その場限り”“さしあたり”という意味もあります。

【例文】

・週末、現金を下ろすのを忘れ、電子マネーで当座をしのいだ。

(5)「弥縫策」

“弥縫策”(読み方:びほうさく)は、失敗や不足を一時的に取り繕う方法のこと。

【例文】

・当時の状況を踏まえると、弥縫策を取らざるを得なかった。

「姑息」の対義語は?

「姑息」の対義語は?

“姑息”の対の意味を含む言葉をご紹介します。

(1)「抜本的」

“抜本的”(読み方:ばっぽんてき)は、物事の根本の原因から改めること。

【例文】

・当社は、抜本的な改革の最中にあります。

(2)「本質的」

物事を成り立たせている根本的な要素のこと。表面的なことにとらわれずに、その背後にひそむことをとらえる際に使われています。

【例文】

・問題点を指摘するだけでは、本質的な解決にはならない。

(3)「根本的」

表面的な部分だけでなく、物事の根本にまで及ぶ様子。

【例文】

・マーケティングのやり方を根本的に変えないと、今後は難しい。

(4)「正々堂々」

広く使われている”“姑息”の対の意味にあるのが、“正々堂々”(読み方:せいせいどうどう)です。卑怯な手段を用いない、立派な態度を表す言葉です。

【例文】

・プレゼンテーションの正々堂々とした態度が高評価につながった。

 

以上、“姑息”の意味・注意点についてお届けしました。

本来の意味と比べると、相手の行為や人格を非難するような意味を含み始めていますので、目の前の相手のふるまいについて“姑息”と言及するのは避けたほうがいいかもしれません。

 

取材・文/北川和子

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【参考】

平成22年度「国語に関する世論調査」の結果について

吉田裕子
吉田裕子

国語講師。「大学受験Gnoble」やカルチャースクール、企業研修などで教えるほか、「三鷹古典サロン裕泉堂」を運営。10万部突破の著著『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)など、言葉や敬語、文章術、古典に関する発信も多い。近著に『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)、『見るだけ・聴くだけで語彙力アップ デキる大人の話し方』(主婦の友インフォス)。東京大学卒業。

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