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今、特別展「毒」がアツイ!爬虫・両生類の研究者が注目ポイントを解説。毒ヘビは怖い…でも知れば知る程惹かれてしまう?

本物の毒ヘビや毒トカゲには遭いたくないけれど、図鑑ではじっくり見てしまう。そんな親子にうってつけの展覧会が開催中です。現在、東京・上野の国立科学博物館では、私たちの周りに存在する“毒”をテーマとした特別展「毒」が開催されています。

自然界や人間社会など、私たちの周りに存在するさまざまな“毒”を幅広く取り上げた展示となっています。

今回は、爬虫類・両生類・哺乳類エリアの監修を担当した、国立科学博物館の研究員である吉川夏彦さんに、毒展の見どころについてうかがいました。

超ド迫力!ハブの拡大模型から学べることは?

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特別展「毒」に足を踏み入れた直後、目に飛び込んでくるのは、日本最大の毒ヘビ“ハブ”の拡大模型です。模型の大きさは約2メートル。大きく口を開いて鋭いキバをむきだしにしています。

舌のすぐ後ろにある穴は、気管。獲物を丸のみしたときにも呼吸ができるようにこのような構造になっているそう

よく見ると、キバの先端から毒液がしたたっていますね。

拡大模型の監修をした吉川さんによれば、ハブに天敵や獲物が近づいてきたときの“攻める”瞬間を切り取ったものだそう。

「ハブは日本で一番大きな毒ヘビです。今回の展示のテーマは“毒”ということで、毒を注入する“攻撃の瞬間”の頭部の拡大模型を作りました」(以下「」内、吉川さん)

吉川さんがハブの展示で特に着目して欲しいと語るのが、ムダのない洗練された構造。

「ハブの毒は、獲物を捕獲したり、外敵から身を守ったりするための毒です。毒を用いて獲物を弱らせることで、細い体でも効率よく大きな獲物をつかまえることができます。拡大模型を通じてただ単に“怖い存在”というだけでなく、毒を効果的に使うため、ものすごく精巧に進化した一面にも注目していただきたいと思います」

ギョロっとにらまれたら、石になってしまいそう…

例えば、毒牙は、効率よく毒を注入できるような形になっています。さらに、毒牙が大きすぎてそのままでは口の中に収納できないので、平常時には倒して収納されており、攻撃時にむき出しにする構造になっています。

「ハブの現在の形態は、毒を効率よく注入し、獲物を狩るための、1つの“到達点”ともいえます」

より効率よく獲物を捕獲できるように進化を遂げていると考えられるハブ。拡大模型では、毒牙の形や口の形状をじっくり観察することができます。

こんな目でギョロっとにらまれたら、石のように固まってしまいそうですが、仮に遭遇したら、むやみに近づいたり、こちらから攻撃したりしなければ、向こうから攻撃をしてくることはほとんどないそうです。

国内外の毒のある爬虫類・両生類の「花形軍団」が集結

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拡大模型に続くエリアでは、国内外の爬虫類・両生類の剥製や骨格標本などが展示されています。

毒をなんのために使うのか、どのパーツに毒を保有しているのか、どんな毒を保有しているのかが視覚的にわかりやすく解説されています。

一部をご紹介していきます!

アジア南部に生息するアマガサヘビ。

「噛まれたときには痛みがないのですが、毒性の強い神経毒でだんだん体が動かなくなり、呼吸困難などを引き起こします」(吉川さん)
キングコブラの骨格標本。肋骨の部分を広げて体を大きく見せている。

「コブラ科のヘビは種類によって、保有する毒が異なりますが、鎌首をもたげる、いわゆるコブラの仲間は保有する毒の量が多いのが特徴です」(吉川さん)
世界最大級の爬虫類、コモドオオトカゲ。

「唾液に血液毒や血圧低下を引き起こす成分を含みます。水牛などの大型の獲物も毒を利用して徐々に弱らせます」(吉川さん)
日本でもっともなじみ深い毒ヘビ、ニホンマムシ。

昔、筆者の祖母も裏山で噛まれて病院に駆け込んだことがあります。

“毒を効率よく作る”“効率的に使う”という視点で見ていくと、生き物の進化についての好奇心が駆り立てられる構成となっています。

展示では、毒ヘビと有毒なトカゲのルーツにも触れています。トカゲやヘビの進化のどの時点で毒を保有するようになったのか。DNAの分析によって、謎の解明に少しずつ迫っているようです。

もし「ヤマカガシ」に遭遇したらどうしたらいい?

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こちらは、日本に生息しているヤマカガシ。カエルを飲み込んでいる瞬間から食物連鎖の一端を垣間見ることができます。

口の毒牙とは別に、ヒキガエルの毒を頸腺に蓄積しているヤマカガシ

白いポツポツが毒を含む頸腺。敵に襲われたときに破裂して毒をまき散らします

ヤマカガシの特徴は、体の2カ所に種類の異なる毒を保有している点です。

毒牙に通ずる“毒腺”の毒は、敵をつかまえるときに使う“攻める”毒。一方、クビの“頸腺”とよばれる部分に含まれている毒は、敵から攻撃を受けたときに破裂して、自らを“守る”ための毒です。

2カ所に毒を保有しているなんて、かなり恐ろしいですが、ヤマカガシはおとなしいヘビなので、もし遭遇したら上手に距離を取るのがよいとのことです。

それでも万が一、噛まれたり、首の毒を浴びたりしたら、病院に行く必要があるそうです。

ちなみに、吉川さんは、ヤマカガシにかまれた経験があるそう。

「毒のある蛇には注意していますが、ヤマカガシには何度かかまれたことがあります。“あっ、ヤマカガシだ!”と思って捕まえたら、ガブリと噛まれました。ヤマカガシの毒牙は、口の奥のほうにあるので、幸い毒を注入されずにすみました。普通は、つかまえようとしなければ、噛まれませんよ」

過去の“ヒヤリ体験”について、ひょうひょうと語る吉川さん。

ヤマカガシを見つけて、つい反射的に手を伸ばしてしまったと語る吉川さんですが、研究者になる前から「毒のある生き物は怖いけど、かっこよくて、どういうものなのか興味があった」そう。

展示の後半には、吉川さんの家族が保有していた“マムシ酒”も展示されています。忌み嫌われているけれど、地方によっては“薬”のように重宝されていたマムシ。吉川さんは、小さい頃から“毒”の多面性を垣間見ていたようです。

毒に「耐える」ようになった動物も

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展示の後半には、進化の過程で特定の毒に耐えられるようになった動物のコーナーもあります。

日本でも人気者の “コアラ”は、ユーカリの毒を解毒する腸内細菌を持ち、他の哺乳類にとっては毒となるユーカリを主食としています。

こちらは、ハチ毒やヘビ毒に対して耐性を持つ“ラーテル”。

ラーテルは、ハチやヘビの攻撃にも負けず、エサを捕食します。この剥製の口元からは、ミツバチの巣から獲得した“戦利品”のハチミツがしたたっています。

「コブラやクサリヘビなどの毒ヘビは毒があるから襲う生物が少ないのですが、ラーテルはバリバリと食べてしまいます。毒を注入されて失神することもありますが、時間がたつと回復することがわかっています」

エサをめぐる過酷な競争を避けるために、独自の進化を遂げている動物もいるんですね。

特別展「毒」では、地球上のさまざまな毒を扱っていますが、捕食者、被食者など、複数の立場からの“毒”を見つめることができる内容になっています。

ちなみにこの日、吉川さんが着用していたのが、特別展「毒」のオリジナル商品であるプルオーバーパーカー。フードの部分からチラっとのぞく赤は、アカハライモリのお腹の“警告色”をイメージしているそう。

吉川さんによれば、アカハライモリは毒を持っていて、危険が迫ると、敵に鮮やかな赤色のお腹を見せて“この色が目に入らぬか!”と警告をするそう。

シンプルなデザインながら、胸元には毒展をイメージしたロゴがプリントしてあります。

同僚や友人にオシャレなパーカーの秘密を話したら、会話が盛り上がりそうですね。

以上、今回は特別展「毒」の監修を担当した吉川夏彦さんに、爬虫類・両生類・哺乳類にとっての“毒”のお話を伺いました。

「毒=怖いもの」というイメージを解きほぐすような、生存戦略としての毒の一面を見ることができます。多くの爬虫類・両生類が冬眠している冬、東京・上野の国立科学博物館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

写真撮影/辺見真也

【取材協力】

吉川夏彦

国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究員

【展覧会情報】

展覧会名:特別展「毒」

会期:開催中~2023年2月19日(日)

休館日:月曜日

※ただし、2月13日(月)は開館

開館時間:午前9時~午後5時(入場は午後4時30分まで)

     土曜日のみ午後7時まで開館(入場は午後630分まで)

会場:国立科学博物館(東京・上野公園)

入場料:一般・大学生2,000円、小・中・高校生600円、未就学児は無料

※ 日時指定予約が必要

※ 最新情報は公式HPでご確認ください

https://www.dokuten.jp/

北川和子
北川和子

自治体HP、プレスリリース、コラム、広告制作などWEBを中心に幅広いジャンルで執筆中。『kufura』では夫婦・親子のアンケート記事やビジネスマナーの取材記事を担当している。3児の母で、子ども乗せ自転車の累計走行距離は約2万キロ。地域の末端から家族と社会について日々考察を重ねている。

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