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「いざという時、この家は大丈夫?」安全な部屋作りに必要なポイントを専門家に聞きました

現代の家づくりで欠かせないのが災害時への備え。風水害や地震などが起こったとき、家の中を安全に保つにはどんなことに気を付ければいいのでしょうか。防災のトレンドとしても、在宅での避難生活ができるような備えが必要という考え方が広がってきています。防災の専門家に、家具の固定や配置など、家づくりの際にぜひ知っておきたい安全な部屋作りについて教えてもらいました!

在宅避難に備えた「安全な部屋作り」

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お話を伺ったのは、安全・安心な住環境を実現する研究をされている、旭化成ホームズ くらしノべーション研究所顧問で一級建築士の松本 吉彦さん。地震などの災害が起こったときに備えた、安全な部屋作りのための重要なポイントとして、以下を挙げています。

地震時に身を守るための事前の対策

1.その家のリスクを事前に考える
まずは、その家にどういうリスクがあるのか、ハザードマップ等で確認しておきます。津波や土砂崩れの恐れがあれば、まずは逃げなければなりません。危険が去った後、家に戻って在宅避難をすることになります。

2.家具の転倒・移動を防ぐ
本棚やタンスが倒れて下敷きにならないよう、また入り口を塞ぐように倒れて逃げられなくならないように家具や家電品を金具等で固定します。テレビが落下したりピアノが壁を突き破って移動した事例もあります。

3.モノの落下を防ぐ
高いところから物が落ちないよう、食器棚の扉には耐震ラッチを付けるなど、扉が開かないように対策します。扉のない棚には落下防止のバーを付けたり、そもそも重いものを置かないようにしましょう。

在宅避難するための備え

1.食料と水
ローリングストックなどで常に最低3日分程度の食料と水があるようにしておきます。

2.エネルギー
停電に備え、LEDライト等に加え、太陽光発電や蓄電池を活用して電気を確保できないか検討。

3.トイレ
水道が止まっても排水が流せれば使用可能。携帯トイレも備蓄しておくこと。

 

実際にkufuraスタッフの家で上記の点をチェックしたところ、できている箇所、できていない箇所がいろいろ。

家具の固定ができていない。
背の高い本棚を突っ張り棒で固定している。
腰の高さのタンス。突っ張り棒も使えないけどどうしたら…?

まずは家具の固定。賃貸物件だと壁に穴を開けるのも難しいので悩みどころ。梁があるのでどう固定していいのか迷う(写真1枚目)、つっぱり棒で対策済み(写真2枚目)、高さがそれほどでもない家具でも固定したほうがいいのでしょうか?(写真3枚目)という人も。

家具の固定方法の基本

「まずは家具が転倒・移動しないよう固定することが大切です。家具を固定するのに一番いい方法はL字金具で壁にねじで留めることですが、難しい場合は接着、粘着で動かないようにします。

大地震時は上下左右に揺れ、天井も変形するのでつっぱり棒は外れやすくなります。賃貸などで壁にねじ止めや接着ができない場合は、天井の変形が少ない壁際で突っ張り、家具側には接着して少しでも外れにくくなるよう工夫しましょう。

冷蔵庫も重心が高いので、粘着性のもので固定したほうがいいでしょう。テレビのように重いものは移動して落下したり避難路を塞ぐと動かせないので、ベルトなどで固定します。アップライトピアノのようにキャスター付きのものは専用の対策品に乗せるなど、大きく移動しないようにします」(以下、「」内 松本さん)

ピアノ以外にも、キャスター付きの椅子やワゴンなどが揺れにより大きく動く可能性があるというのは盲点だったかもしれません。動かさない時はストッパーを活用するなど、日頃から気をつけておかなければなりませんね。

地震のときの被害を減らす家具の置き方

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地震のとき、家具はどんなふうに動く?

家具が倒れてくることに意識が行きがちですが、固定されていない家具は、倒れるだけでなく揺れにより横に移動したり下部分から滑っていくこともあるそう。背の高い家具ほど心配になりますが、それほど背が高いものでないなら倒れないかというとそんなこともなく、

「顔の高さより背の低い家具はあまり倒れませんが、目安として奥行き45cm以下で奥行きの3倍以上高さがあるものは、転倒の可能性があります」とのこと。

万が一倒れても被害を最小限にする家具の置き方

「家具を固定できない場合、発想を変えて倒れても被害が少ないように置く、という方法もあります。人が下敷きになったり挟まれたりしないことが大事なので、家具は納戸部屋に集め、人のいる空間、通る空間と分離するのが有効です。

また、食品が棚から落ちてもパントリーなどの物入内で留まれば、生活空間は確保できますね。日常出し入れが頻繁なローリングストックの品は、こういう考え方の方が普段使いがしやすいです。

最低でも倒れたら建具が開かないという置き方は避けることです」

スタッフ宅の子ども部屋。本棚の前のスペースにベッドなどはないので、万が一倒れても大丈夫かと思っていたそうですが、もしこの本棚が横に滑ったらドアをふさいでしまうし、そうなったら重いので動かすことも困難。これまであまり考えてこなかったリスクです!

テレビ、植木鉢…倒れやすいものは家の中にたくさん!

テレビの固定もしなければと思いつつ……。
植木鉢も倒れると処理が大変なもののひとつ。

テレビも、倒れやすいのに対策が遅れがちです。テレビを壁付けにする人が増えていますが、すっきりして見た目が良いという点以外にも、防災対策として役立つんだ!という発見が。

グリーンがたくさんある家は素敵ですが、植木鉢が地震などで倒れると部屋の中で土が飛び散り、片付けが厄介です。

比較的実行しやすい対策いろいろ

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停電すると自動で点灯するライトで足元の安全を確保。
一番心配な食器棚は耐震ラッチで対策を。

比較的すぐにできるのは、耐震ラッチ、足元のライトの設置など。食器棚は特に中身が飛び出してしまったら危険だし後片付けも大変です。

キッチン周りや本棚は、災害時のことを考えるとオープン棚よりしっかり扉が閉まるタイプの棚にした方がいいのかも、また、家をリフォームしたり新築する際は、造り付けの棚を検討しようか……など、編集部スタッフの間でも自分の家の地震対策を振り返る声が聞かれました。

造り付け家具は壁に長いビスで固定されているので、転倒や移動に関しては一番安心ですが、モノが飛び出してくる恐れがあります耐震ラッチは地震の揺れを感知して自動的に扉を開かなくしてくれる優れもので、日常使うのにも特別な操作は不要でストレスがなくおすすめです。

コンセントに差す充電式の足元灯なども、停電でも真っ暗にならず安全確保に役立つので良いでしょう。

防災はめったに起きない災害に備えるものなので面倒な対策では続きません。日常の暮らしの中で自然に対策になるものが理想です。

日本の住宅は耐震技術が進み安全になってきていますが、その中の家具の固定がされていないと室内の安全は保たれません。

災害はいつ起きるかわかりません。先延ばしにせず、できることはすぐ対策をしましょう。住宅防災のトレンドは災害時に命を守れるような倒壊防止だけでなく、在宅避難で暮らし続けることができるよう、備蓄収納の工夫や太陽光発電、蓄電池によるエネルギー確保の方向にシフトしています

家づくりやリフォームの機会があれば、そういった最新の対策もぜひ検討してください」

 

「災害時、家の中の対策は住む人の責任」という目線で見ると、家具の選び方や配置する場所などひとつひとつに慎重になりそう。「対策はやったつもり」ばかりで実際にはまだまだ全然足りていなかったことも分かったので、まずは家具の固定からすぐに取り掛かろうと思います!

次回は、実際の家づくりで備蓄への対策を進めている住宅メーカーのモデルハウスを見学してきます! そちらもお楽しみに。

【資料提供】

・旭化成リフォーム株式会社:イマドキそなえ
https://www.hebel-haus.com/reform/menu/imadoki.html

・旭化成ホームズ株式会社:くらしノベーション研究所
https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/kurashi/index.html/


【取材協力】

松本 吉彦さん

旭化成ホームズ株式会社 くらしノベーション研究所顧問、二世帯住宅研究所長 一級建築士・ 東京工業大学・日本女子大学非常勤講師。建築士対象の東京都防災ボランティア「建築物の応急危険度判定」登録済。

著書として「二世帯住宅という選択-実例に見る同居の家族」平凡社、共著として「インテリアの百科事典」丸善、「近居-少子高齢化社会の住まい・地域再生にどう活かすか」学芸出版社、共訳書として「犯罪予防とまちづくり 理論と米英における実践」丸善など。

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