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「望まぬ孤独」が待ち受けているかも?日本のシニア世代の人間関係の特徴… 現役世代も要チェック

仕事やスキルアップ、レジャーや家庭の運営でどんどん時間が埋まっていく現役世代。

誰かのサポートなしに生活ができて、職場に行けば同僚がいて、友人や家族と会おうと思えば会えるときには、自分の人間関係についてじっくり考えることはないかもしれません。

とはいえ、30年後、同じ状況が続いているとは限りません。

今回は、ちょっと興味深い国際調査の結果をご紹介します。

日本のシニアは、家族以外に「頼れる人がいない」割合が高い

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「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」は日本の内閣府が5年ごとに行っている調査です。

最新の調査は、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの4カ国の60歳以上の男女個人(施設入所者は除く)に対し、2020年~2021年にかけて行われました。就労状況や生活環境などについての比較データが紹介されています。

毎回、他の国と日本との間で目立った差が生じているのが、家庭外の人間関係です。

家族を含めて“人と直接会って話す頻度”は各国約7割が「ほとんど毎日」と答え、おおむね横並びです。

一方、病気のときや、1人ではできない日常生活に必要な作業(電球の交換や庭の手入れなど)が必要なときに“同居の家族以外に頼れる人”の項目については、国・性別ごとにバラつきが見られます。

パンデミック以前の前回調査と比べると、スウェーデンでは「頼れる人がいない」割合が急上昇していますが、それでも前回調査、今回調査ともに日本が「同居の家族以外に頼れる人がいない」割合が最も高くなっています。

出典:「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(内閣府)を加工して作成(2023年4月19日利用)

男女別のデータではスウェーデン男性の孤立が目立ちますが、頼れる人として“友人”“近所の人”と回答した割合については、男女ともに4カ国の中で日本が最も低い割合です。

「親しい友人がいない」割合は、日本の高齢男性が突出して低い

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続いて、“親しい友人”と“近所の人”との人間関係についてもう少し掘り下げていきます。

まず、親しい友人関係について参照すると「(同性の友人・異性の友人が)いずれもいない」と回答した割合が、日本は他の3カ国と比べて目立って高くなっています。特に、日本の高齢男性の親しい友人がいない割合は4割と突出しています。

出典:「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(内閣府)を加工して作成(2023年4月19日利用)

この割合は、アメリカ男性の2.1倍、ドイツ男性の2.8倍、スウェーデン男性の4.1倍。他国との“友達づきあい格差”が見られます。また、異性の友人を持つ割合は他の3カ国ではいずれも4~5割程度だったのに対し、日本では10%台と少数派。

若い人との交流で生きがいを感じる回答者の割合も圧倒的に低く、家族以外の“他者”の存在がある「友人や知人と食事、雑談している時」「他人から感謝された時」に生きがいを感じる人は、4カ国の中で最も低い割合です。

日本の“自分と異なる属性”“異なる年代”とのつきあいの乏しさがうかがえる結果となっています。

出典:「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(内閣府)を加工して作成(2023年4月19日利用)

近所づきあいは日本とスウェーデンが「当たらず障らず」を好む傾向

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近所の人たちとのつきあい方(複数回答可)に関しても、興味深い結果があります。

日本とスウェーデンでは「外でちょっと立ち話をする程度」の割合が最も高く、「当たらず障らず」の関係が好まれる傾向がうかがえます。

一方「相談ごとがあった時、相談したりされたりする」割合は、日本はアメリカとドイツの半数以下、「病気の時に助け合う」割合はアメリカ・ドイツの4分の1以下という結果でした。

出典:「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(内閣府)を加工して作成(2023年4月19日利用)

本調査では、日本は友人づきあい、近所づきあい、異なる性別・年代の他人とのつきあいについて、4カ国中で特に希薄な傾向が見られましたが、このような結果となっている理由として、筆者がたてた仮説は以下の6つ。

  • 人づきあいの“楽しみ”や“チャレンジ”より“リスク”“デメリット”を恐れる
  • 身内ではない人に相談をしたり、自分をさらけ出すのが苦手
  • 人に「頼る」とき、「迷惑をかけるのではないか」と遠慮してしまう
  • つきあう相手に自分と近い価値観を求める
  • 現役時代に会社・家庭外のフラットな人間関係を築くスキルを磨く余裕・機会がなかった
  • 1人の時間に慣れている。もしくは1人で没頭したいことがある

人づきあいには“大小のリスク”がつきものであり、“しない理由”をあげればきりがありません。

とはいえ、リスクを避け続けて30年、40年経過した後に“望んだ孤独”を楽しむことができていればいいのですが、その逆に“望まぬ孤独”という別のリスクが待ちうけている可能性があります。

「老後資金」も大切だけど「老後の人づきあいの展望」も大事かも…

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2012年に発行され、2025年の未来を予測して話題を呼んだ書籍『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』(リンダ・グラットン著)では、今後、人の孤独がますます深まる“近未来”を予測しています。

働き手が組織の中で機械の部品のように代替可能な存在になると、信頼でき、好意的に接してくれる少人数の友人たちと現実的な世界で温かく気長に過ごすことが重要になり、人間関係について“意識的・主体的選択”が必要になる、というのです。

2023年現在、著書が予測した2025年の世界については「当たらずといえども遠からず」で、特に、孤独が深まる描写については現在の状況と重なる場面もあります。

婚姻歴の有無、子どもの有無にかかわらず、加齢とともに、家族構成は変化し、帰属意識を感じられるような組織との接点は減っていきます。

地縁・血縁・会社縁にこだわらずとも、近所の習いごとやスポーツジムの顔見知り、地域活動、オンラインとリアルの趣味仲間などなど、気の合う人と出会える場所の扉は、意外と身近にあると思います。

老後については“老後資金問題”がよく取り上げられますが、「将来、どのような人間関係の中で生きていたいか」を漠然とイメージしておくことも、現役世代にとって大切なことなのかもしれません。

【参考】

第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査 – 内閣府

北川和子
北川和子

自治体HP、プレスリリース、コラム、広告制作などWEBを中心に幅広いジャンルで執筆中。『kufura』では夫婦・親子のアンケート記事やビジネスマナーの取材記事を担当している。3児の母で、子ども乗せ自転車の累計走行距離は約2万キロ。地域の末端から家族と社会について日々考察を重ねている。

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