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ドラマ「エルピス」、組織の歪んだ構造に「ぞわぞわ」 。社会の闇はどうなる!?

テレビ局を舞台に、えん罪事件を取り上げる社会波ドラマ『エルピス ―希望、あるいは災いー』(カンテレ)。ネットでは「このドラマは本気だ」「すごい」と第一回目放送から一目おかれる存在でした。いよいよ最終回に向かって、お話は進んでいきます。
独自視点のTV番組評とオリジナルイラストが人気のコラムニスト・吉田潮さんに解説していただきました。

シニカルな内容と衝撃の展開

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長澤まさみと眞栄田郷敦のコンビが社会の闇に斬りこむという社会派ドラマ『エルピス ―希望、あるいは災いー』(カンテレ)。

初回からシニカルな内容と衝撃の展開に胸がざわつきっぱなし。魅力は山ほどあるが、特筆すべきは組織の構図。物語の舞台であるテレビ局内部の力関係や実情が実にいやらしいので、まとめておこう。

メディアのくせに、いや、メディアだからこそ、セクハラ・パワハラが横行

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長澤まさみが演じる浅川恵那は、報道番組のサブキャスターまで務めた、人気と実力のあるアナウンサーだった。あるスキャンダルで降板させられ、今は深夜の低視聴率バラエティ番組でコーナーを担当するのみ。腫れ物扱いされているが、気力も食欲もないのには深刻な背景がある。

報道番組で自分が伝えてきたニュースが真実ではなく、権力への忖度と欺瞞に満ちていることに気づき、自己嫌悪するようになったから。組織にいる以上は上の意向をのみこまざるをえない。そのストレスで眠ることも食べ物をのみこむこともできなくなっていたのだ。

一方、眞栄田郷敦が演じる岸本拓朗は、一見、お気楽新人ディレクター。他界した父は弁護士、母も年収1億の弁護士。幼稚園から名門校に通い、何の苦労もなくテレビ局に入社。「勝ち組」「エリート」を自負しているものの、実はトラウマを抱えている。

同級生がいじめを苦に自殺。見て見ぬふりをしたのは、いじめの主犯格が学校で一番の有力者の息子だったから。今でも墓参りを欠かさないが、時折自殺した子が登場する悪夢にうなされている。お気楽を装ってはいるが、心の深い部分では罪悪感を抱え、怯えている。

このふたりにセクハラとパワハラの文言を浴びせまくるのが、チーフプロデューサーの村井(岡部たかし)。報道局に長年在籍していたが邪魔者扱いされて、深夜枠にとばされた経緯がある。

恵那には「ババア、更年期」と罵声を浴びせ、拓朗には「クズ、タコ、カス、能無し」を連呼。恵那は無反応で受け流し、拓朗は「この人は機嫌が悪いのだ」とポジティブ解釈する始末。放送ではコンプライアンスに配慮し、ハラスメントや差別発言にも神経質なテレビ局だが、社内ではひどいありさまという皮肉。

新聞社も出版社もWebも同じよね。番組や誌面やページでは正義の味方ヅラをして綺麗事と御託を並べるが、中で働く人間からは驚くほど悪質なハラスメントが横行している話をたくさん聞くからね……。

禍々しく媚びへつらい、幾久しく男尊女卑な世界

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恵那と拓朗が綿密な取材を敢行し、死刑囚の冤罪の可能性を示唆する調査報道の企画を提案したものの、番組の上層部は「うちのカラーに合わない」「バランスの問題」と御託並べて難色をしめす。要するにリスクを背負いたくないだけ。

若手スタッフは全員がやる気になっているにもかかわらず、だ。事なかれ主義のプロデューサー・名越(近藤公園)は「局長に判断を仰ぐ」と言いながらも局長に知らせず、「却下された」と嘘をつく。

こういうやつ、いるよねー。若手のアイデアや情熱や気力を削ぎ、惰性と保身だけで居座る上司。この企画を恵那が独断で生放送にのせたところ、視聴率が獲れ、反響も大きかった。局長が喜んでいるのを知ると、さも自分が進めたようにうそぶく。失敗は部下のせいにして、手柄は自分のモノにするタイプな。

そもそも、めちゃくちゃ男尊女卑なわけよ、この大洋テレビって。

最初から疑問だったのが、恵那のスキャンダルだ。路上キスシーンを週刊誌に撮られ、報道番組を降板させられたのだが、相手は当時の恋人で報道局政治部のエース・斉藤正一(鈴木亮平)。路チューは報道番組の顔としてはまずいかもしれないが、ただの社内恋愛で不倫ではない。

なのに、恵那だけが降板させられ、斉藤は出世して官邸キャップに。要するに、この会社は「男の罪をとわず、女を罰して終わらせる」体質とわかる(ちょっと山本モナを思い出しちゃったよ……)。

この斉藤は非常にセクシーで魅力的なのだが、言葉の端々に選民意識と無意識の差別感情と男のエゴが表れていて、どうしても好きになれなくて。それでも恵那が惚れてしまう愚かさも描いていて、興味深かった。

拓朗が執念で勝ち取ったスクープは、世間に波紋を広げた。何らかの圧力がかけられたことが白日の下にさらされる。大洋テレビは番組を打ち切り、先導した村井を子会社に、拓朗を経理部にとばして、あからさまな粛清で幕を閉じた。

新番組のMCとスタッフは残留、名越は昇格。若い女性タレントは総とっかえ。権力に刃向かう気骨ある男は排除、媚びへつらう男は出世、女は若くて新しければいい。そういう組織なのだ。

組織の歪んだ構図にぞわぞわしているのだが、物語は佳境へ。

冤罪の背景にはどうやら副総理が絡んでいるとわかってきたのが第6話。恵那と拓朗は真実を報道することができるだろうか。冤罪を信じているチェリー(三浦透子)の願いは叶うだろうか。ドラマのサブタイトル「希望、あるいは災い」が示唆するものを想像しつつも、心のどこかでは朗報を待っている。

『エルピス-希望、あるいは災い-』
関テレ/フジ系毎週月曜夜22時~
脚本:渡辺あや プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)、稲垣譲(クリエイティブプロ)
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平

吉田潮
吉田潮

イラストレーター、コラムニスト。1972年生まれ。B型。千葉県船橋市出身。
法政大学法学部政治学科卒業。編集プロダクションで健康雑誌、美容雑誌の編集を経て、
2001年よりフリーランスに。テレビドラマ評を中心に、『週刊新潮』『東京新聞』で連載中。
『週刊女性PRIME』、『プレジデントオンライン』などに不定期寄稿。
ドキュメンタリー番組『ドキュメント72時間』(NHK)の「読む72時間」(Twitter)、「聴く72時間」(Spotify)を担当。『週刊フジテレビ批評』(フジ)コメンテーターも務める。
著書『産まないことは「逃げ」ですか?』『くさらないイケメン図鑑』『親の介護をしないとダメですか?』など。

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