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なぜお正月に?「お屠蘇(おとそ)」と「日本酒」の違い、由来を知ると納得

【食べ物の違い豆知識】を紹介するこのシリーズ。32回目は、お正月が近づくと耳にする「お屠蘇(とそ)」に注目。「日本酒」との違いを、料理研究家・時吉真由美さんにうかがいました。

まずは「お屠蘇」と「日本酒」について調べてみると…

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お屠蘇

屠蘇散(とそさん)を浸したみりんや酒。延命長寿を祝って年頭に飲む。また、年頭に飲む祝い酒。

【出典】デジタル大辞泉 小学館

日本酒

日本在来の醸造法によって造った酒。特に、清酒をいう。

【出典】デジタル大辞泉 小学館

つまり「お屠蘇」と「日本酒」の違いって?

「日本酒」はそのものズバリ、日本在来の醸造法で作られたお酒のこと。米と米麹を主原料に、アルコール分を含む飲料です。

「お屠蘇」も飲み物ですが、屠蘇散と呼ばれる生薬をみりんやお酒に浸して作られます。さらに、年の初めと特定の日に飲まれるのも特徴です。

辞書によると、屠蘇散を浸していないお酒であっても「お屠蘇」と呼ぶそうですが、それもやはりお正月シーンに限るようですね。

一方の「日本酒」は、慶事はもちろん弔事でもふるまわれますし、日常の飲み会や晩酌などシーンを選ぶことはありません。

広い目で見ればお屠蘇は日本酒の一種だけれど、新年の習わしとして飲まれる特別なものであることが分かりました。

お正月は家族で「お屠蘇」を!

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お屠蘇を「元旦に」飲む意味は……

料理研究家・時吉さんによると……

「お屠蘇とは、5~10種類ほどの生薬を合わせた屠蘇散を浸けた薬草酒のこと。一年の無病長寿を願い、元旦にいただきます。

私は、お屠蘇はみりんに浸して作ると習いましたが、お酒でも作られるようですね。

昔は、大晦日の夜に屠蘇散を入れた赤い三角の袋を井戸にぶら下げておき、元旦の朝に取り出して、みりんやお酒に浸けておせち料理を口にする前にいただいていたそうです。松の内があけたら、袋の中の屠蘇散は井戸に投げ入れたとか。その井戸水を使うことで病むことなく過ごせる……と考えられていたようです」(以下「」内、時吉さん)

お屠蘇の「飲み方」には、流儀があった!?

お屠蘇の流儀って、かなり儀式的、なんですね……。

「まだありますよ(笑)。お屠蘇をいただくときは、家族が東の方角を向き、年の若い者から順に飲むのがしきたりなんだそうです」

こ、細かい……。単にお酒を飲めばいいというものではなかったんですね。

「諸説ありますが、“蘇という名の鬼を屠(ほふ)る”、“邪気を払って、身心の健康を願う”というのがお屠蘇の名の由来だと言われています。屠蘇散を入れる袋が赤色であるのも、赤が邪気を払う色と考えられていたからかもしれません。

お正月は無病を願い縁起を担いだ食べ物をいただきますよね。お屠蘇もそのひとつなんですよ」

屠蘇散

調べてみると、屠蘇散には肉桂、山椒、白朮(びゃくじゅつ)、防風(ぼうふう)、桔梗などが調合されているようです。効能としては、体を温めて抵抗力を強化する、胃腸の働きを助けるといったものもありました。

ご馳走が続く正月料理での胃もたれ軽減や、体を冷えにくくして体調を崩さないようにする……と、とても理にかなった飲み物であることが分かります。どこまでも験を担いだお屠蘇は、まさしく元旦に飲むべきもの!でした。

「お屠蘇」の自宅での作り方

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「そんなお屠蘇、おうちも簡単に作れるんですよ」と時吉さん。

「師走に入る頃、スーパーや薬局などで屠蘇散が売られているのを目にします。最近は本みりんにおまけでついていることもあって、私はそれを使ったりしてますよ。

本みりんには日本酒と同じくらいのアルコール成分が入っていますから、清め酒や祝い酒的な意味合いも兼ねることができますね。

袋に書かれている作り方を見ても、本当にみりんやお酒に浸しておくだけでOK

私は大晦日に45時間ほどみりんに浸けておいて、元旦、おせちをいただく前に家族で飲んでいます。

時吉家のお屠蘇。三つ肴も添えて(撮影:時吉さん/Instagramより)

大中小と3段重ねの盃と銚子がセットになった“屠蘇器”でいただいているんですが、お正月気分が一気に盛り上がります!」

煮きってアルコールを飛ばしたみりんを使えば、“ノンアルお屠蘇”になって小さな子がいるご家庭でも家族みんなでいただけそうですね。

「最近は、お正月に飲む日本酒自体をお屠蘇といっているのを耳にします。さらに、お正月の浮かれた雰囲気を指して“お屠蘇気分”なんて言ったりもしますよね。

けれど本来は、一家が健康でいられるように、とのおまじない的な意味合いをもって元旦に飲まれる物です。個人的には、体にいい飲み物なら、元旦だけでなくもっと飲んだらいいのにな~、なんて思ったりもしているんですが(笑)。こうした風習があるということを知り、できる範囲で取り入れてみるのも一興ですよ」

たしかに、体にいいものならもう少し頻繁に飲みたいかも(笑)。ひとまず、この正月はお屠蘇を作ってみようと思います!

 

構成/kufura編集部

 

【参考】

・「日本語源大辞典」監修/前田富祺 小学館

時吉真由美
時吉真由美

料理研究家。(株)Clocca代表取締役 cooking Clocca代表

土井勝料理学校をはじめ各地の料理教室講師のほか、「ZIP!MOCO’Sキッチン」(放送終了)「有吉ゼミ」などTV・出版物等のフードコーディネートや、料理、レシピ制作などで幅広く活躍。

Instagram(@cooking_clocca)では、日々のお料理や季節の和菓子といったレシピを中心に、オススメの調理器具やロケ先で出合った食材などを発信中。

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