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作家・山内マリコに聞く!「親からの呪い」から解き放たれる方法

「早く結婚しなくちゃいけないのかな?」「親のそばで暮らしたり、ちょこちょこ顔を見せたりしたほうがいいのだろうか……」「やっぱり女性が家事をしたほうがいいのかな」「パートナーに本音を言えない……」アラサーの働く女性が抱えがちな悩みです。誰かに言われて気が重くなったり、自分自身の内圧に苦しめられたりしますよね。そんな“呪い”からは、どのように解き放たれればいいのでしょうか? 東京の上流階級で育った女性と地方出身のOLの、結婚や恋愛への葛藤を描いた作品『あのこは貴族』を刊行した山内マリコさんへのインタビュー後編では、“呪い”から解放される方法や、夫や彼氏と対等な関係を築くための心がけなどをうかがいました。

土地によって、いろんな“普通”がある

――山内さんは東京で暮らしはじめて10年になるそうですが、今でも自分が地方出身だなと感じることはありますか?

山内:すごくあります。東京には、間借りさせてもらってる気持ちです。地元は好きだけど、今は東京のほうが気楽というか、自由で息がしやすいですね。富山に帰るとほっとする反面、18歳くらいに戻ってちょっとクサクサして、「あ〜ここから出たい!」みたいな気持ちになるんです(笑)。

——生まれが富山で、大学は大阪、最初の仕事は京都、その後上京されたということで色々な土地にお住いですが、住む場所が変わることで、考え方に変化はありましたか?

山内:いろんな地域のいろんな人の“普通”を見られたことは、大きな収穫かもしれないです。私の出身地は、おとなしくて保守的な県民性、大阪は粗野でワイルドでパワフル、京都は腹の底を見せてくれない感じ。一方で、東京はエリアや職種、趣味ごとにタイプが分かれていて、それぞれが意外と狭い世界で生きている。どこかにどっぷりではなく、いろんな人がいるんだ、いろんな“普通”があるんだっていうことを知れたのは大きいですね。ただわたしがこれだけ越境というか移動してこられたのは、自分の家族が地元に根を張って暮らしているからこそかもしれません。

さまざまな“呪い”から解き放たれるために

――根が張られてるからこそ、そこにいないといけないと思い込む……なんてこともありますよね。実家の呪いというか、「親の近くに住まなければ」みたいな。山内さんはそうした呪いから自由な気がします。

山内:それは両親が強制しないでいてくれたからに尽きますね。「女の子なんだから近くにいてよ」とか、言われたことがなくて。あと、うちの兄がナチュラルボーン地元男性という感じなんですね。東京の大学に行ったけど4年で帰ってきて、地元で堅い仕事に就いて、結婚して子どももいて、実家の近くに家建てて暮らしている。そういうスタンダードを兄がやってくれてるから、「あとは任せた!」みたいな感じで(笑)。

――では、お兄さんがいなかったら、ずっと地元に残っていた可能性も?

山内:あるかもしれないですね。もしも兄がいなくて、父と母2人だけ富山に残して……となったら、ちょっと罪悪感は覚えたかもしれない。地域的には保守的ですが、うちの親の「好きに生きていいよ」というスタンスのおかげで、東京で作家やれてます、というところはありますね。

――同作の主人公・華子のように、親や親戚がなんの悪気もなく「30歳を超えて結婚しないなんてかわいそう」と呪いをかけてくる環境にいて、結婚ができないとしたら、どう心を立て直せばいいんでしょう。

山内:やっぱり物理的な距離を置くしかないんじゃないかなぁ。私も、もし自分の親がそうだったら、すごく距離を置いてると思う。まずは親元から離れて暮らして、電話がきても、自分のコンディションが整ってるときだけ受ける(笑)。でもそれって別に冷たい仕打ちをしているわけじゃなくて、人によって適切な距離というものがあると思うんです。私の場合も、実家にいるより県外で一人暮らしをしてたまに帰るほうが、両親に優しくできるし。親と子ども、どちらにとっても、近くにいればいいというわけじゃない。子ども側が勝手に「そばにいることが親孝行なんだ」と思って気遣っても、親のほうはけっこうドライだったりもしますよね。離れていても、元気で過ごしていて、「本当に困ったときに助けに来てくれればそれでいい」くらいなのかもしれません。

「夫は親友」対等な関係の結婚生活はどんなもの?

——インタビューの前編の最後で、「夫が親友」とおっしゃっていましたよね。どのような感覚でしょう?

山内:別に夫のことを男性として見てないとか、「友達みたいな関係になっちゃった」っていうネガティブな意味ではなく、今はお互いがいちばんの親友、という状態なんです。親友至上主義なので、恋愛からスタートしてる夫との関係がレベルアップした感があります。なんでも話せて、気楽で、楽しくて、信頼できて。

私の場合は、友だちとしてもやっていける人じゃないと、一緒に暮らすのは本当に無理だなぁ〜とつくづく思います。熾烈な恋愛競争の果てに何とかしてくっついた旦那様に、対等に接するのはむずかしくないですか? 「皿を洗え」とか絶対言えない。「私を捨てないで!」みたいになっちゃう(笑)。

——恋愛感情がベースにあると、パワーバランスが難しいという問題はあるかもしれないですね。対等な関係を築いていくにはどうしたらいいと思いますか?

山内:やっぱりコミュニケーションの積み重ねが大事だと思います。男性って、女性とそういう話をすることを嫌がりますけど、根気よく向き合って話して、交渉するのを諦めないこと。

――独身女性が「彼氏に結婚する気があるのかどうかわからない」という悩みを抱えることもあります。

山内:男性は、結婚したら自分が彼女を養わなきゃいけないと気負っている人も多いですよね。そういう人が結婚について触れなかったり、探りをいれてもはぐらかしたりするのは、大抵の場合、そこまで経済的な自信を持てていないからだと思うんです。だから、「私は結婚したら月々このくらい出すつもりでいる」と提示してみるのがいいと思います。結婚したら延々とそういう交渉の繰り返しなんだし。

――最近の働く女性たちは、経済的に100%負担してほしいとは思っていない、結婚しても働きたいと思っているのに、男性側は「養わなければ」とプレッシャーを感じていることもありますよね。

山内:私は夫と家計も家事も均等に分担しているのですが、家で仕事をしているということもあって、家事をしなくちゃいけないのでは……という内圧を感じることもあります。「家事しなきゃだめなのでは」と思っている女性って、きっと多いと思うんですね。それと同じで、男性には「妻子を養わなきゃ」みたいな内圧があって、そこから抜け出すのは難しい。表裏一体になってる。向こうの気持ちも聞きつつこっちの希望をちゃんと主張できるようになるのが、対等な関係への第一歩なのかなと思います。

 

【書籍情報】

※ 山内マリコ(2016)『あのこは貴族』(集英社)

2017/1/26 BizLady掲載

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