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元夫が自己破産したら「養育費」はどうなる?離婚の前に知っておきたい養育費の話

ひとりで子どもを育てている親にとって、養育費は貴重なお金です。しかし継続的に養育費を受け取っている母子世帯は24.3%で、残り75%以上が養育費をもらわずに母親だけの収入で生活しています。

前回(「離婚の前に知っておきたい!“養育費”を受け取っている母子世帯は実際何%?意外な実情とは」)は、取り決めをせずに離婚した場合でも養育費を受け取れることを紹介しました。

今回は「約束したのに支払われない」という、養育費を踏み倒された事例について、養育費問題を無料相談しているNPO法人『conias(コニアス)』の代表理事の岡秀明さんと、参加している弁護士の生田秀さんに聞いてみました。

Aさんのケース…夫が自己破産、養育費はもらえる?

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(左から)弁護士の生田秀さんと、代表理事の岡秀明さん。

40代のAさんは、子ども2人を抱えて離婚。夫の年収が高かったため、養育費は月9万円でと、公正証書で取り決めました。ところが元夫は転職を重ねて収入が減り、養育費も1年近く滞りがちに。

Aさんは、自分で裁判所に出向いて夫の給料の差し押さえを申し立てましたが、夫はまたもや転職。そのうえ、「お金がない。自己破産を申請しているので払えない」という返答がきました。自分ひとりの手には負えず、Aさんは『conias』に相談しました。

―このケースでは、どのように解決したのですか。(以下「」内、生田さん)

「自己破産を申請していると聞いて、Aさんはもう養育費はもらえないと絶望していました。

一般的に自己破産するときには、どんな仕事をしていて、いくら収入があるのか、どんな資産を持っているかなどの資産目録、どれだけ借金があるかなどの債権者一覧表を記入して、裁判所に報告しなければなりません。

Aさんが受け取る養育費は、たとえ元夫が自己破産しても免責されないため、Aさんは元夫の債権者となります。そこで私が代理人として裁判所に行き、自己破産の記録を開示してもらいました。

それを見ると元夫の住所や勤務先の情報がわかります。破産するくらいですから、預貯金などの資産はありませんが、新たな勤務先が判明したので、毎月の給料の一部は差し押さえられます。元夫は差し押さえられたら生活していけないということで、養育費の減額請求の調停を家庭裁判所に申し立てました。

月9万円は高額の部類ですので、Aさんも全額もらえないよりは少し減ってももらいたいということで、4万円で合意。1年間支払われなかった分の養育費も分割で払ってもらえることになりました。合意してからは、きちんと支払ってくれています」

取り決めが大事!相手の給料の差し押さえができないケースは…

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30代のBさんは、離婚後しばらくしてから、元夫からの養育費が未払いになりました。

元夫は美容師。『conias』を通じて、勤務先の美容院に給与の差し押さえを申し出ると、夫は差し押さえられるくらいなら、美容院を辞めると言い出したそうです。このケースでは、美容院の店長が対応してくれ、元夫にお金を貸し、そのお金で未払い分の養育費を一括して払ってもらえることになりました。

―AさんもBさんも比較的スムーズに養育費の踏み倒しが解消しましたが。

「2人とも、給料の差し押さえという強制執行できましたが、それは養育費の取り決めが、“債務名義”になっているかどうかによって決まります。

債務名義とは、公正証書(強制執行認諾条項がついているもの)、調停調書、審判書、和解調書、判決書などです。

離婚の際に協議離婚して養育費を取り決めていない、口約束だけ。取り決めをしていても当事者間の合意書しか作成していないケースでは、この債務名義がないため差し押さえはできません。公正証書で養育費の支払い義務を定めていない限り、強制執行はできないのです。債務名義がないけれども強制執行したいときは、家裁で調停を求めるしかありません」

実際に差し押さえするときは、どんな手続きが必要?

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次に、実際に差し押さえをする手順を、生田さんに教えてもらいました。

「まず、相手の資産や勤務先を調べ、預貯金や給与などの差し押さえの対象を決めます。債務名義が発行された公証役場や家裁などに行き、執行文をつけてもらい、相手に届いていることを証明する送達証明書を発行してもらいます。

債務名義、執行文、送達証明書の3つがそろったら、債権差押命令申立書を作成して、相手が住む地域を管轄する地方裁判所に強制執行の申し立てをします。自分や相手の住所、氏名が、債務名義に記載された住所、氏名と異なる場合は、そのつながりを証明するための戸籍謄本や戸籍の附票などの資料も必要です。

申し立ての後、裁判所から差し押えの決定が出たら、債権差押命令が対象となる財産のある場所に送達されます。例えば、給与を差し押さえるのであれば、給与を支払っている会社に給与債権の差し押さえ命令が裁判所から送られます。それは、手取り給与の2分の1が差し押えの対象なので、相手方には支払わないでくださいという命令です。

次に相手方にも差押命令が送られ、相手が受け取ってから1週間を過ぎると、具体的な取り立てを行うことができます」

養育費の取り決めが「債務名義」になっているかが大事!

―債務名義のある書類を持っているかいないか、が重要になってきますね。

「養育費を払ってもらえないから、会社に頼んで給料を差し押さえてもらおう、と軽く考えても、債務名義として認められる書類と裁判所の差押決定命令がなければ、差し押さえることはできません」

―だからこそ、離婚時の取り決めをきちんと文書にしておかなければいけないのですね。

「合意した内容を強制執行認諾条項つきの公正証書に残しておく。さらに相手が公正証書を受け取ったことを証明する送達証明書をとっておく。これがあれば、将来養育費が未払いになったときでも、強制執行で差し押さえをすることが可能になるからです。

せっかく公正証書をとったのに、送達証明書をとっていない方が非常に多いです。この場合、強制執行を申し立てる前に改めて公正証書を公正役場から相手方に送ってもらわなければなりません」

養育費は子どもの生活を守るための費用

―実際の相談の中で、養育費が未払いになるケースでは、どのような理由が挙げられますか。

「相手方の収入が減っていることが多いです。転職を繰り返すうちに収入が減り、養育費が払えなくなった人もいました。また、結婚している間に毎月の生活費を10万円いれてもらっていたので、離婚後も全額払ってもらいたいと思って、10万円の養育費を設定したら、結局未払いになってしまったという方もいました。1つの世帯を2つに分けたのですから、10万円全額支払うことはできなかったのです。

現実的に支払えない金額で取り決めをしてしまうと、結果的に滞ってしまったというケースです。

また離婚のときの感情が残っていて、心情的に払いたくなくなったという事例もあります。元妻と子どもが楽しそうにしている写真をSNSにあげていて、“なあんだ、俺よりもいい生活しているじゃないか”と養育費を払わなくてもいいと、元夫が勝手に解釈したようです。

実質的に支払えなくなった、心情的に嫌というのもありますが、養育費は子どもの生活を守るための費用。子どものためにきちんと支払ってほしいものです」

 

離婚のときに、親族や友人に相談もできず、ひとりで葛藤する女性も多いとの調査もあります。冷静に考えて、相談できる人とつながって、子ども第一で行動してほしいと思います。

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