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「子どもの貧困」を生む5つの「……にくさ」とは何か

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東洋大学社会学部教授・森田明美先生による「子どもの貧困」についてのレクチャーも今回が最後だ。森田先生は今までの内容を総括しつつ、「子どもの貧困」の解決のためには、5つの「……にくさ」に気づくことが大切だという。

子どもの声は「届きにくい」

森田先生はまず、最初の「……にくさ」について、当事者である子ども自身の声が「届きにくい」ことを挙げる。

「子どもの貧困調査がここ2年ぐらい各自治体で行われていますが、多くの場合は世帯主調査で、子どもの声は聞いていないのです。本当は子ども一人一人の状態をキャッチした中で施策を考えないと解決方法が見つからないのですが、そういうルールになっていません。子どもの話を聞く場もないし、聞く力のある人もあまりいない子どもは自分の置かれた立場について、発信する機会がないのです。

その前提として、日本社会が世帯単位であることがあります。社会福祉制度も世帯単位です。生活保護を受けている家庭でも、世帯主の話は聞きますが、その中で子どもがどのような育ちをしているかを直接聞くことは、義務ではありません。

『今の生活に不自由はないのか』『学校生活で困っていることはないか』などを質問できれば、「子どもの貧困」の実態ももう少し見えてくるはず。しかし、前の記事「母子家庭で「子どもの貧困」が進む日本ならではの事情」で述べたように、母親は生活保護を受けていること自体を子どもに話したがらない。こうした状態が、ますます子どもの声を届かなくしています。

これから必要とされるのは、子どもに共感し、子どもの声を聞き取る努力と方法の開発です」

福祉問題を抱える人は支援に「つながりにくい」

前の記事「母子家庭で「子どもの貧困」が進む日本ならではの事情」「親の孤立が「子どもの貧困」を生む負の連鎖」で解説したように、貧困状態にある母子家庭では、母親は貧困を隠そうとし、周囲に支援を求めない傾向にある。その理由は主に次の4つだと、森田先生は説明する。

貧困は自己責任だと思っているので、責任を問われたくない
親兄弟など連絡を取りたくない人に、今の自分の状態を知られたくない
支援のなかで、自分のこれまでの人生が否定されるのが怖い
制度がわかりにくく自分が対象かどうかわからない

「このように、支援の必要な人ほど、支援につながりにくいという現実が子どもの貧困の背後には横たわっています。そうした事情をよく理解し、共感する支援者が必要とされています」

貧困や家庭の問題は「見えにくい」

今日食べるものにも事欠くような〈絶対的貧困〉は現代日本にはほとんどない。あるのは、多くの人にとって当たり前のことが当たり前にはできない〈相対的貧困〉だ。

これは、どこに優先的にお金を使うのかという家計の問題でもあり、生きる上での価値観にも触れる問題であるため、非常に外からは見えにくいし理解されにくい。

また、貧困=自己責任と考える親たちは、周囲にはもちろんのこと、子どもにも貧困を隠そうとするので、ますます見えにくくなる。

「この見えにくさを解消するのが、意味ある大人との出会いなのです(「児童養護施設出身の男性が無借金で大学に行けた理由」)。第三者が入り、子どもの声を聞くことで、貧困は見える状態になってきます

福祉政策は「利用しにくい」

福祉制度というものが利用しにくくできていることは、私たち皆が何となく感じていることだ。これを森田先生は次のように解説する。

「福祉制度は、限られた予算を使って効果的な支援をするため、対象を限定して提供していくので、その人が対象であるかどうかを厳しく選別することになります。

また、支援の場が利用しやすい場所になかったり、土日や夜間は開いていなかったり、申請するための書類は煩雑だったりと、日中働いていて時間的余裕のないシングルマザー、シングルファーザーにはとくに利用しにくくなっています。

誰もが利用しやすい形態が求められています」

子ども施策の効果は「見えにくい」

子どもは小さければ小さいほど、可能性も大きいが、施策の効果が出るまでに長い時間がかかる。そのためしばしば起こるのが、貧困状態に置かれた当事者である子どもにとって、必要性に合わない支援が行われたり当事者の意思や発達段階とはずれた支援が行われたりすることがあるという。

また、この効果測定も自己肯定感などの測定は難しい。体格や学力など、ある程度数値化できるものであっても、それが支援の結果、伸びたものであるかどうかは、誰にも証明できないからだ。

「そのためにも、当事者である子どもが参加したうえで、評価の検証が行われる必要があります」と、森田先生は言う。

一人の市民としてできることは

最後に、一市民としてできることについて訊いた。森田先生は、その第一として、「話を聞いてあげること」を挙げた。

「もし、周囲にそうした子どもがいるなら、話をいつでも聞けるような存在になってください。隣のおばちゃん、隣のおじちゃんが必要なのです。なぜなら、施設や役所の職員は異動や定年が待っています。ずっと支援し続けることはできないのです。しかし、地域の人、市民は死ぬまで市民。何か困ったことがあれば相談に乗ってあげられるような関係を築いて、〈意味ある大人〉の一人になってほしいのです。

貧困状態にある子どもたちは、自己肯定感をあまり感じられない子どもが多いのです。『もう消えてしまいたい』『自分なんて生まれてこなければよかった』と思っている。しかし、親以外の〈意味ある大人〉に出会ったとき、子どもたちはそれを生きる意欲へと変えていけるのです。

自分が生きていく価値が認められ、そこにようやく生きる勇気が生まれる。これが貧困から回復し、自分らしい人生を選択しようとする時にとても重要なプロセスではないかと思っています」

(了)

 

森田明美
もりた・あけみ 東洋大学社会学部教授、東洋大学社会貢献センター長
子どもの権利を基盤にした児童福祉学を専門とする。数多くの自治体の子ども・子育て支援計画、次世代育成支援行動計画策定などにかかわり、東日本大震災をきっかけとした家庭環境や友人関係の変化が子どもたちの生活や心にどのような影響を与えているかについての現地での子ども参加型調査も行っている。

取材・文・写真(近影)/まなナビ編集室(土肥元子)

(初出 まななび  2017/12/13)

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