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水滴に目玉をつけて「ぷにょ」に!遊べる本「おはよう ぷにょ」ができるまで

こんにちは。『ぺぱぷんたす』という耳慣れない名前の本をつくっている、編集長の笠井です。『ぺぱぷんたす』は、紙をとことん体験する本です。

この連載では、この本を作るために集ってくれているたくさんの「プロ」たちの仕事、そして私たちがこの本に込めている思いなどを、ご紹介していきます。「紙ってすごい!」を一緒に感じてもらえたらうれしいです。

みずの生きもの「ぷにょ」が生まれた瞬間

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今回は、『ぺぱぷんたす』から飛び出した単行本『ぺぱぷんたすBOOK』シリーズの『おはよう ぷにょ』についてお話ししたいと思います。この本の企画が持ち上がってから本になるまで、実に2年以上の歳月がかかりました。生みの苦しみと楽しさを味わい尽くして生み落とされた(!)この本には、並々ならぬ思い入れがあります。

今回はそんな『おはよう ぷにょ』の誕生ストーリーです。話は2年前でなく、なんと3年半前まで遡ります。

2019年秋。当時私は、月刊誌『幼稚園』を編集しながら、『ぺぱぷんたす』というムック本も作っていました。その頃『幼稚園』には「ぺぱぷんたす」の連載ページがあり、『ぺぱぷんたす』に収録する紙のふろくを先行して『幼稚園』につけていました。特殊印刷や加工はとってもお金がかかるので、月刊誌と連動させることでコストを下げる、という苦肉の策ではあったのですが、かみのかみさまソビーやワッキーが活躍する場にもなり、連載もふろくも毎号大人気でした。

アートディレクターの祖父江慎さん

『ぺぱぷんたす』のアートディレクターの祖父江慎さん(ソビー)と、デザイナーの脇田あすかさん(ワッキー)と一緒に「こんな紙のふろくどう??」とアイディアを持ち寄ったり、おしゃべりをしているうちに「あっ! こんなのどう?」と思いついたり(打ち合わせの7割くらいはムダ話笑!)。お子さんたちに「紙ってすごい! 面白い!」と思ってもらえるようなふろくにしたいと、私たちも楽しみながら作っていました。

そんなある日、デザイナーの脇田さんが「これ、すごくないですか?」とTwitterで目にしたバズり動画を、見せてくれました。

その動画がこちら↓

投稿はかれっくす@水草さん。タイトルは「スライムがあらわれた!」

蓮の葉の上を動き回るみずの生きもの。その動きのダイナミックさと可愛らしさに祖父江慎さんも私も目が釘付け。「これ、紙でできないかな?」「やろうやろう!」

こちらは単行本『おはよう ぷにょ』の加工見本

そこから企画がスタートしました。名前は紙の上で水をころころ転がすから、「みずころがしがみ」。制作部の担当者に「こんなことやりたいんだけど……」と相談すると、「これ、厚紙にニスをかけたらいいんじゃない?」とアイディアを出してくれて、早速試作を作ってもらいました。

ところが、水がだれるし、動きが鈍い。ハスの葉の上をころころ転がっていたあの子とは、ほど遠い動き。そこで、次の試作で「剥離ニス」というニスをたっぷり厚塗りしてもらったところ、水がぷるんとまあるくなり、紙を動かすところころと実に気持ちよく動きまわりました!

(左)『ぺぱぷんたす 004』、(右)『幼稚園』2020年1月号

本の綴じられている「のど」側に、丸い目玉をたくさん並べて抜き取れるようにしました(岡安紙工さんお手のものでした!)。思っていたよりもすんなり、満足のいくものが出来上がり、これが『幼稚園』と『ぺぱぷんたす004』号に掲載されました。

そして単行本の企画がスタート

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このふろくはどちらの本でも大人気。目玉をふたつのせると、ただの水滴に命が宿り、かわいい水の生き物になる! 紙の上で自由自在に形や表情を変える水の生き物は、子どもだけでなく大人も夢中にさせたようで、Twitterにあげた動画の再生数もうなぎ登り、また、SNSにもたくさん動画や写真が投稿されていて、人気の高さが伺えました。

しばらく経ったある日、「やっぱりさー、これ面白いから本にしたらいいよ!」と上司が声をかけてきました。“たった1枚のふろくの紙を本に……?” まったく考えていなかったので、一瞬ポカンとしましたが、頭の中で想像したら「ん? 楽しいかもしれない!」。なんだかワクワクしてきました。「よし、つくろう!」

早速、祖父江さん、脇田さんと打ち合わせをしました。本のイメージは厚くてかたいボードブック。「背景に森のようなイラストを描く?」「カラフルにする?」「エンボスで凹凸をつけてゲーム性を高くする?」「穴を開けて、次のページに水の生き物が移動できるようにする?」

やりたいことはいっぱいでしたが、散々アイディアを出し合った後、クールダウン。まず最初の1冊は水の生き物との関わりをしっかり楽しむのがいいね、ということで、白の背景に黒の印刷でシンプルに作ることにしました。

水の生き物により親しんでもらうためには、名前とストーリーが必要です。3人で色々な名前を考えました。水の名前ってなかなかに難しい。ぷるる、うるる、ぽちょん、ぽとり……。どこかで聞いたことあるぞ、って名前もたくさんありましたが、最終的に、「ぷにょ」に決まりました。ぷるぷるしてて、うにょっと動く、そしてちょっと脱力系のやわらかい名前(今やぷにょ以外の名前は考えられないっていうほどしっくりきています)。

そんなこんなで名前も決まり、造本プランもできたのですが、いざ見本を作ってみると、本を開いた時の真ん中の筋や本の断面から水がしみこんでしまうという大きな問題が!

制作担当者とあれこれ案を練るも、結局ボードブックで水を扱うのは難しいということに。お風呂の中で読む絵本など、水に強い本もあるにはあるのですが、紙の厚さや製本、水を転がすための加工の問題などなかなか折り合いをつけるのが難しく、結局、本の形は諦めてシートの形にして、遊びの要素を増やし、ミニ絵本をつけることになりました。

これが『おはよう ぷにょ』
遊べる「みずころがしがみ」が4枚(リバーシブル)、「ぷにょの め」シート、「ぷにょのミニえほん」がセットになっています。

そこからも、シートの紙とニスの相性問題、コストの問題など、解決しなければいけない問題が次から次に……。構想から1年がすぎ、1年半がすぎ……途中で諦めようと思ったりもしましたが、制作担当者、印刷所、祖父江さん、脇田さんの粘りやがんばりで、ようやく形になった時は喜びもひとしおでした。

ブックデザインが、賞に入選!

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この『おはよう ぷにょ』。なんと、東京TDC賞2023の「エディトリアル・ブックデザイン」部門で入選しました! 子どもの本には、子どもの気をひくために色が強かったり、買ってもらうためのあおり文句がやけに目立っていることがありますが(確かに買ってもらわないと!なのですが)、この本は子どものことを思いながらも、子どもにおもねるデザインにはしていません。

「子どもってこうだよね」「子どもにはわからない」というような、既成概念をはずしたところからスタートすること。そして子どもの頃から良質なデザインに触れることを大事にし、年齢を問わず長く愛される本になって欲しいという『ぺぱぷんたす』のスピリットをここにも反映しています。

革新的なデザインの賞に入選したことで、ああ、間違ってはいなかったんだと再確認。皆で喜びを分かち合いました。デザインを担当して下さった脇田あすかさんに、デザインで大事にしたこと、そして読者に伝えたいことを聞いてみました。

デザイナーの脇田あすかさん

「“ぷにょ”の魅力が最大限伝わるようになるべくシンプルにプレーンに、デザインすることを心がけました。他の要素が目立ってくるのではなく、“ぷにょ”がちゃんと主役になるように、文字の位置や色などを調整しています。

とくに表紙は、まっしろな世界に“ぷにょ”が気持ちよく漂っている感じになりました。途中、“どこまでシンプルにするか?”“どのくらい遊びを入れるか?”などいろいろ悩んだのですが、ちょうど良い塩梅に落ち着けたかな……と思います。

“ぷにょ”は水滴に目を乗せたら急に現れるいきもの。大きくなったり小さくなったりもするし、乗せる目によって表情も変わる、自由自在な存在。遊び方も“こうしてね”というものは特にありません。自分の好きなように、楽しいなと思うがままに、遊んでもらえたら!

“みずころがしシート”がもちろん1番遊びやすいのですが、他のものに“ぷにょ”を出現させたり、絵本の外でもどんどん遊びが広がっていけば嬉しいなと思います」(脇田さん)

ワークショップも大盛況!

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この『おはよう ぷにょ』、何回かワークショップを行っているのですが、遊んだ子はみんな(お母さんも!)、ぷにょの魅力にとりつかれるようです。白いシートでただ動かすだけでも面白いのですが、シートの裏側にある迷路やぐるぐる道で遊んだり、ぷにょに果物を食べさせてあげたり、シートからシートへ移動させたり、いっぱいぷにょを誕生させたり。「おーいぷにょ〜、そっちいかないで!」「おいでおいで〜」「もぐもぐ〜!」と、とっても賑やか!

ぜひたくさんの方に、自分だけのお友達「ぷにょ」と遊んでいただきたいです。

最後に。著者の祖父江慎さんからお子さんへのメッセージです。


こんにちは そぶえ しんです。

さいしょは、なにも いんさつしてない まっしろな かみのうえで
ぷにょと なじんで みてください。

なかには カードを びみょうに かたむけて
ぷにょを うごかすのが
まだ にがてな ちいさなおこさまも いるとおもいます。

うまくうごかせない ひとは、
じぶんの もくひょうを つよく たてたり しすぎないで、
ときに きまぐれな ぷにょの うごきとの おつきあいを 
たのしんでくださいね。

カードの うらには めいろなど
むつかしいゲームも はいっています。
でも、クリアするひつようは ないんです。

それぞれの うまくいかなさを
たのしめるような ゆったりした きもちで つきあってくださいね。

どこで あきてしまっても
どこで やめても いいんです。

そして おもいだしたら
また いつでも あそんでくださいね。

P. S
まだ ひみつですが.
ぼくは、ぷにょで いろんなわざを あみだしちゅうです。
また こんど おしらせしますね。

みなさんも あたらしい あそびかたを
はっけんしたら ぜひ おしえてくださいね。


ワークショップの様子は、こちらの動画でも見られます↓


『おはよう ぷにょ』(小学館)

「みずころがしがみ」に水をたらして、
「ぷにょの め」をふたつ、そっとのせたら……
不思議な水の生き物「ぷにょ」が誕生!
さあ、「みずころがしがみ」を両手に持って、
右に左にゆっくり動かしてみましょう。
「ぷにょ」は、表情や形を変えながら、
かわいく、おかしく、動き回りますよ!
自分だけの「ぷにょ」といっぱいあそんでくださいね!

〇「みずころがしがみ」4枚→表はおはなし、裏はゲームになっています。

〇「ぷにょの め」シート→ベーシックな目から、ウインク、つぶらな瞳までいろいろな目を選べます。自分だけの目もつくれます。

〇「ぷにょのえほん」→かわいいぷにょのミニ絵本

祖父江慎 さく/1,430円(税込)/発売中

公式サイトはこちら

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笠井直子 
笠井直子 

息子ふたり、猫二匹、ウーパールーパーとのドタバタ暮らし。余裕のある生活に憧れるもゆっくりできない性分。20年ほど女性誌を編集した後、幼児誌の編集に携さわり、2017年『ぺぱぷんたす』を立ち上げ。帰宅後10分でつくる料理のマンネリ化が、今最大の悩み。

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