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「ムカつく!」の連呼…ほんとの気持ちは?子どもに教えたい「怒り」との付き合い方【子育てのアンガーマネジメント】

小さなことに対しても、すぐに「ムカつく」「うざい」などと言って怒り出す。一度腹を立てるとなかなかしずまらず、あとで本人も後悔している。そんな子ども自身の「イライラ、ムカムカ」の気持ちに対して、親子でできることは? 
講師歴29年、これまで22万人を指導してきた戸田久実先生に、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」を使った対処法を教えてもらいました。

友達と揉めて帰ってきた子ども。怒りがなかなかおさまらない

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これまではママ・パパの怒りにまつわるお悩みを取り上げてきましたが、今回は番外編。子ども自身のイライラがなかなかおさまらないときに、親子で一緒にアンガーマネジメントのトレーニングをする方法がないか戸田先生に聞いてみました。

たとえば、こんな状況はありませんか?

家に帰ってきた子どもが、なんだかイライラしている。聞くと、友達と揉めたのだといいます。

子どもは「〇〇くん、ムカつく!」「あいつマジで許さない!」などと大声で繰り返すばかり。時間が経っても、ムカムカがなかなかおさまりません。

日頃から、怒りすぎたあとに落ち込むことも多い様子。子ども自身も、自分が怒りっぽいのを何とかしたいと思っています。だけど、いざ腹の立つことがあると、自分の気持ちをおさえられない。

こんなとき、親子で一緒にアンガーマネジメントのトレーニングをするとしたら、どんなことから始めればいいでしょう?

まずは「自分で自分をトントン」で体を落ち着かせる

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戸田先生は、まず小さな子どもでも実践しやすい身体的なアプローチを教えてくれました。

自分で自分の体を、手でやさしくトントンしながら、心を落ち着かせる方法があります。“だいじょうぶ、だいじょうぶ”などと言いながら、体をさするのもいいですね。

それから深呼吸。4秒吸って8秒吐くなどカウントしてあげながら呼吸を整えると、自然と体がリラックスしてきます」(以下「」内 戸田先生)

もっと大きな子どもであれば、大人のアンガーマネジメントと同じく、まずは6秒間、少し違うことに意識を向けて怒りをやり過ごすという方法を試してみるのも良さそうです。

衝動的な怒りに関してはいったんなだめられたとして、子どもの“怒りっぽさ”を改善したい場合は、日頃からどのようなトレーニングをしておくといいでしょうか。

子どもの語彙不足が余計な怒りを生んでいる?

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戸田先生が指摘するのは、「子どもの語彙が足りないことで怒りの感情を増幅させている可能性がある」と指摘します。

「たとえば、すぐに“ムカつく・うざい・やばい”といった言葉を多用してしまうお子さん。ひょっとしたら怒っているのではなく、自分の中で生じた感情や気分のデリケートな違いを、言葉で表現できるほどの語彙を持っていないだけの可能性があります。ですが“ムカつく!”といった言葉を使っているうちに、いつの間にかムカムカと実際に腹が立ってきてしまうのです。

“ムカつく!”という発言の裏には、不安、恥ずかしい、さみしいなど、いろいろな感情が隠れています。特に小さなお子さんの場合は、早くから感情を表現する言葉のバリエーションを増やせるように、一緒に訓練してあげるといいですね」

「本当は無視されて悲しかった」を言葉にできるように

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語彙を増やすというと「新しい言葉を覚える」イメージがありますが、戸田先生が教えてくれたのは言葉を覚えるのではなく、自分の本当の気持ちに目を向ける方法でした。

「子どもが“ムカつく”と言ったとしたら、“何が嫌だった?”と問いかけてみてください。誰の、どんなところが嫌だったのか? 相手から言われた言葉や、されたことなど、不快に感じたところを具体的に言葉にしてみようと促すのです。

たとえば子どもが“無視されたのが嫌だった”と答えたら、本当は腹が立ったのではなく、悲しかったのかもしれませんよね。

“無視されて、どんな気分になったのかな。悲しかった? つらかったね”などと、気持ちを別の表現で言い換えてあげると、子ども自身も“本当はあのとき、無視されて悲しかったんだ”と、自分の気持ちに合う言葉が分かります

ただの「ムカつく」で終わらせず、「何が嫌だったのか?」と具体的に問いかけていくことで、自分の本当の気持ちに目を向けることができそうです。

小学校高学年~中学生くらいの子どもの場合は、自分の感情を文字にして書いてみるのも効果的だとか。文字だとうまく書けない場合は、絵やイメージで描いても良いそうです。

自分は本当はどうしたかったのかを知る

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「何がムカつくのか、うざいのか、具体的に聞いていくと、子ども自身も、そのとき本当はどんな気持ちだったのかを言葉にできるようになっていく。次のステップは“そのときどうしてほしかったのか?”を問いかけることです」

たとえば「〇〇くんが無視したのが悲しかった」と子どもが言葉にできたら、「じゃあ、〇〇くんにどうしてほしかったの?」と聞いてみる。

「子どもが“どうしてほしかったか”を表現するのは意外と難しいもの。いきなりできるようになると思わず、トレーニングだと思って繰り返してみてください」

次第に「あのとき〇〇くんに僕の話を聞いてほしかった」と、してほしかったこと、こうなればよかったと思うことが出てくるでしょう。

「その思いを突きとめることができれば“では、どうすれば〇〇くんに、僕の話を聞いてほしいという思いが伝わるかな?”と、相手への伝え方をじっくりと考えていくことができます。怒ってばかりのコミュニケーションを避けるためにも、自分の本当の気持ちを言葉にする訓練は大切なのです」

最後に「もっとも効果的なのは、親自身がさまざまな感情を伝える言葉の引き出しを持ち、そのときどきの自分の気持ちに合う表現を見せていくこと。子どもは親の言葉や感情表現をよく見ていて、まねしますからね」と戸田先生。

子どもだけではなく、大人も一緒に「自分の本当の気持ちと向き合い、言葉で表現していくトレーニング」をしていけるといいですね。

 

取材・文/塚田智恵美 イラスト/ayakono

戸田 久実
戸田 久実

アンガーマネジメントコンサルタント、アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。日本アンガーマネジメント協会理事。「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を行う。

豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブコミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、幅広い年齢層が受講している。「アサーティブ・コミュニケーション」(日経文庫)、「怒りの扱い方大全」(日本経済新聞出版)、「『つい怒ってしまう』がなくなる 子育てのアンガーマネジメント」(青春出版社)など著書多数。

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