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まるで魔法!本の絵柄が動き出す「レンチキュラーシート」って?【ぺぱぷんたすの作り方】

こんにちは。『ぺぱぷんたす』という耳慣れない名前の本をつくっている、編集長の笠井です。『ぺぱぷんたす』は、紙をとことん体験する本です。

この連載では、この本を作るために集ってくれているたくさんの「プロ」たちの仕事、そして私たちがこの本に込めている思いなどを、ご紹介していきます。「紙ってすごい!」を一緒に感じてもらえたらうれしいです。

「レンチキュラーレンズ」の不思議な世界

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こんにちは。
今回は、たくさんの方から「すごい!」と驚きの声が届いている、ぺぱぷんたす006の「ふしぎなレンチキュラーレンズ」のページができるまでの裏話をお話ししたいと思います。

シートを動かすと色鉛筆が消える!?

「ふしぎなレンチキュラーレンズ」は、付録の「レンチキュラーレンズ」をのせると、絵柄の色が変わったり、動いたり、見えないものが見えたり、まるで魔法のようなことが起きる不思議なページ。はじめて見る方が、ほぼ100%!「うわ〜」っと声をあげるほど、その変化はドラマティックなんです。

「自由にきりはりシート」で自分だけの不思議な絵を作れます
絵柄の上にシートを乗せると!

そもそも「レンチキュラーレンズ」って?

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そもそも、レンチキュラーってご存じでしょうか。今回レンチキュラーレンズでお世話になった株式会社マル・ビさんによると……

「レンチキュラーとは、シート状のレンチキュラーレンズを用いて、見る角度によって絵柄が変化したり、アニメーションのように動いたり、立体的に見えたりする“印刷物”のこと」

ということで、通常はシートと絵柄がくっついて(もしくはシートに直接印刷して)1枚のカード(だったり看板)になっています。

以前編集に携わっていた月刊誌『幼稚園』でも、妖怪ウォッチのレンチキュラーカードを付録につけたりしていました。カードを動かすと、ジバニャンが手前に飛び出してくるカードです。ノベルティなどで配られたりもしているので、ああ、あれ!とピンとくる方も多いと思います。

水玉に隠れていたのは……!

動いたり、立体的に見えたりするのには、レンズに秘密があります。

レンチキュラーのレンズは、よーく見ると、片側に小さなかまぼこの形をした凸レンズがたくさん並んでいます。通常はこのピッチにあわせて、複数の画像を細〜くスライスして、交互、もしくは順序よく並び替えて、レンズの凸とマッチングさせています。

そうした複数の画像がレンチキュラーレンズを通してみると単独の絵柄で見え、そして、見る角度によって絵柄が変化して見える仕組み。

さて、このレンチキュラー。面白いアイテムではあるのだけど、結構高価。

「一つの絵柄しか楽しめないものをこの金額でつけるの、どうだろう?」「1枚だけだと遊びや広がりが足りないな、もっと自由にレンチキュラーを楽しむことってできないのかな」と考えて調べていたところ、面白い本を見つけました。

『レンチキュラーレンズで見る 3D組織病理図鑑:人体微細胞構造の立体的理解のために』(長谷川正規著・創元社)という本で、なんと、レンチキュラーレンズが付録についています。

全く畑違いだし、専門書なので、おそらく見ても何にもわからないだろうな、と思いつつ、細胞を立体で見られる??と興味津々で自腹で購入(高かった……笑)。

届いた本を、早速祖父江慎さんと一緒にチェックしました。

「わあ、なにこれ、おもしろい〜」。レンチキュラーレンズで見る微細胞は、美しくて神秘的で、また、本にレンズをのせて、動かしながら見る行為自体が、自発的であり能動的で、楽しいものだと思いました。

「これ、ぺぱぷんたすでやりたい!」「やれる! やろうよ!」と、この企画はスタートしました。

ネットで調べると、レンチキュラーは自作できることがわかりました。レンチキュラーの画像を制作できるソフトがあるんです。なので、最初はイラストや写真を用意して、そのソフトを使って加工すれば誌面は作れる!と安易に考えていました。

しかし……知識が乏しい上に、ただ画像をスライスして合成した簡易なものだと面白さがあまりない……と、すぐに壁にぶち当たりました。その上「絵柄とレンズを分けてというのは通常やっていないので、細かな調整が必要だと思うし、うまくいくのか、心配」と制作サイドからは懸念する声も。

私の中では『3D組織病理図鑑』ができているのに、できないわけがない!という妙な確信があったのですが、それでもレンチキュラーに詳しい方に参加してもらった方が、スムーズにいくし、質の良いものができるだろう、そして一緒に作ることで、遊びの要素が増やせるのではと思い、探しはじめました。

「レンチキュラー天野さん」との出会い

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そして、Twitterで発見したのが「レンチキュラー天野」さんです。

天野さんがアップしているレンチキュラーのグラフィックが、本当に美しくて、ピン!ときました。「レンチキュラー天野」という名前からも、ただならぬレンチキュラー愛が感じられます (実はこの天野さん、ショウエイという印刷会社の社員さんで、オペレーティングが本業。その合間に、レンチキュラー研究にいそしんでおられたそうです)。

最初の打ち合わせでは、レンチキュラー天野さんに、どういう仕組みでどんな効果があるのか、どんなことができるのかを詳しく伺いました。

画像が少なければ「チェンジング」(絵柄がパッと切り替わる)、数を増やせば「アニメーション」、その「アニメーション」がカメラを横方向に視点移動させたような絵柄で構成されていれば「3D」など、絵柄によって、見え方が変わるレンチキュラー。知らないことばかりで、私も、祖父江慎さんも、デザイナーの藤井瑤さんもまるで授業を受けている生徒のようでした。

その効果を知った上で、16ページの構成を考えて絵柄をオーダー。

その後は……何回打ち合わせを重ねたでしょう。

毎回、緊張の面持ちでテーブルに試作を広げる天野さん。実際にレンズをのせて動かして、1枚1枚確認してきます。反応が薄いものがあったり、 歓声があがったり。

16ページもあるので、レンチキュラーの楽しさをいろいろな角度から楽しめること、飽きさせないこと、何度も見たくなること、が大事です。

・隠れているものが出てくる
・動きの美しいもの
・おかしなもの
・激しく色が変わる
・グラデーションが美しいもの
・笑っちゃうもの

などなど。水の中の煌めきや、魚の色の変化、「しまうま」が「しまうま」でなくなる面白さや、ただただ美しい宝石やモルフォ蝶、コミカルなページ、そして、あ!という発見があるページと、1枚1枚こだわってつくっていただきました。

そして、このページ。祖父江さんが最後の最後で「あ!」と思いつかれた「自由にきりはりシート」がついているのがポイントです。

やっぱり祖父江さんは遊びの天才なんですね。このきりはりシートを自由に切ったりちぎったりして、台紙の上に貼って、そこにレンチキュラーレンズをのせてみてみると! 自分だけの、想像もしなかった世界(絵)が浮き上がったり、動き出したり。ただ見るだけでは終わらせない! 実にぺぱぷんたすらしいページになったと思っています。

最後に、このレンチキュラーレンズ、1枚持っているといろいろな遊びができるのでおすすめです。お友達の前で披露したら、いっぱしのマジシャン気分も味わえますよ。

こんなふうにして、レンチキュラーレンズを絵柄から自由にさせたら、楽しい世界が広がりました。いつもと違った角度から見ると思いもよらなかった世界が広がる。そんなレンチキュラーレンズのような視点を日常に持つと、私たちの世界もまた彩り豊かに広がりそうです。

レンチキュラー天野

1995年山梨県生まれ レンチキュラーアーティスト。株式会社ショウエイのスタッフ。紙や印刷の実験的な物作りをしているコトモノ製作所のメンバー。

「レンチキュラー印刷を始めて半年ほどたち、レンチキュラーを使ってなにか活動していきたいと思っていた頃、ぺぱぷんたすのお話しをいただきました。レンズと印刷を切り離すことは従来のレンチキュラー印刷では行われないことで、それはある意味挑戦でした。しかし自由になったレンズは色々な可能性を見せてくれて、発見の連続でした。試行錯誤を繰り返しながら徐々に形になっていくページに、レンズを当てることが楽しくて、私自身わくわくしながら作らせていただきました。この本で、そして、この本を抜け出して、身の回りのあらゆるものにこの魔法のシートをかざしてみてください」


 

「ぺぱぷんたす006号」(2,300円 税込)。

最新号の006号も、切ったり、折ったり、くしゃくしゃしたり、紙の楽しさを存分味わえる企画が盛り沢山。身の回りのもので遊びをぐんぐん広げられるページもあります。

おうち時間にぜひ!

 

※記事で紹介した商品を購入すると、売上の一部がkufuraに還元されることがあります。

笠井直子 
笠井直子 

息子ふたり、猫二匹、ウーパールーパーとのドタバタ暮らし。余裕のある生活に憧れるもゆっくりできない性分。20年ほど女性誌を編集した後、幼児誌の編集に携さわり、2017年『ぺぱぷんたす』を立ち上げ。帰宅後10分でつくる料理のマンネリ化が、今最大の悩み。

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