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扉を開くかどうかは、彼にしか決められない【ママはキミと一緒にオトナになる vol.22】

コラムニスト・ライターとして活躍する佐藤友美(さとゆみ)さんが、10歳の息子との会話を通して見えてきた新しい景色、新たな気づきなどを伝えてくれる連載エッセイの第22回。今回は、子どもが本来持っている素質や個性をどう考えるか、について。

本人のもって生まれた素質

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答えの出ないことを考えている。

仕事がら、インタビュー相手の親御さんの話を聞く機会が多い。
どんな方だったのか。どんな教育方針だったのか。何を大切にしなさいと言われて育ち、どんなエピソードがあり、どんな影響を与えられたのか。

いろんな方に、そんな質問をしているうちに気づいたことがある。
私が、「こんな才能、どうやったら育てられるんだろう」とか「もう、大好きすぎる! 愛してしまう!」と心の底から尊敬する人に限って、親御さんがかなり変わっていることが多いのだ。

変わった人というと、むしろ聞こえがよすぎるかもしれない。

聞くのも苦しいくらいの毒親だったり、教育熱心がありあまって体罰に発展していたり、一度も褒められたことがなくて自己肯定感がゼロだと自己申告した人もいるし、親が食事を与えてくれないので物乞いして食いつないでいたという人もいる。父親や母親が何回も変わったという人もいたし、親戚をたらいまわしにされていたという人もいた。

こういう話を聞くと、教育っていったいなんだろうと考えてしまう。
親の教育や環境よりも、本人のもって生まれた素質のほうが強いのだろうか。

もちろん、体罰やネグレクトを肯定するわけではない。できれば、子どもが自己肯定感を育てられる環境を作ってあげられたら良いとも思う。
だけど、私が尊敬する人たちは、必ずしもありあまる愛情を親から受け取って育ってはいなかった。

本人たちにとっては辛いことも多かったと思う。
それでも。

それでも、と思ってしまうのだ。厳しい環境に置かれ、それでもこんなに大きく開花する、その折れない根っこはどのように生まれ育まれてきたものなのだろうか。
そんなことを考えだすと、答えが出なくてぐるぐるする。

私と彼は、別の人間だ

私は、よきにつけ、悪しきにつけ、子育てが大雑把だといわれる。
1ヶ月検診でも半年検診でも、「何人めのお子さんですか?」と聞かれたくらい、子ども扱いがアバウトだったらしいし、子育て本のようなものも(仕事関係の本以外は)読んでこなかった。

強い信念をもって放任主義を貫いているわけでは全然ないけれど、どこかにうっすら「子どもの個性は、親の思惑をかるがると超えていくんだろうな」という感覚がある。
私がいろいろ与えたり奪ったりしたところで、この子の個性にはかなわないんだろうなと思うのだ。

私が子どもと成績や進路について話をしてこなかったのも(連載18回「ぼくも、自分で中学校を選んでみたい!」)、多分「まあそのうち、本人がやりたいとか、やりたくないとか言い出すだろう」と思っていたところが大きい。扉の前まで連れて行ったとしても、扉を開くかどうかは、本人にしか決められない。そんなふうに考えているふしがある。

だから本人が何かに興味を持つまでは、なるべく大きな事故に遭わないように気を付けること、あったかいご飯を食べさせることと、好きだと思ったときはめいっぱい好きだと伝えること。そのあたりだけを意識してきた。

先日、あまり周囲の空気を読まない息子氏(10歳)の発言を聞いた先輩ママに、「もう少しやわらかい言葉の使い方を教えてあげないと、学校でいじめられたりしない?」と心配された。
こういう言いにくいことを伝えてくれた先輩には、本当に感謝している。そして彼の発言が、人を傷つけるような刃を持っていたら、それはちゃんと指導しなきゃいけないと思う。

その一方で。
自分が何を好きだと思い、何を変だと感じるのか。それをどれだけはっきり表現するのか、にごすのか。そのさじ加減は、自分で決めていけばいいんじゃないかなとも思う。
周囲に合わせるほうがいいと感じるか、浮く方が心地よいと感じるか。それはもう、私が決めることではないというか、彼にとってどちらが幸せでどちらが苦なのか、私には想像がつかない。
それくらい、私と彼は、別の人間だ。

親の助けがほしいときは、多分、そう伝えてくるだろう。その時はもちろん、できる限り応援したいと思う。
でも、転んで痛いと思わないと、学べないこともあるだろう。
そう考えるのは、10歳の子どもに対して酷なんだろうか。

そんな答えの出ないことをぐるぐる考えている夜なのです。

 

画・中田いくみ タイトルデザイン・安達茉莉

◼︎連載・第23回は7月11日(日)に公開予定です


佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てファッション誌でヘアスタイル専門ライターとして活動したのち、書籍ライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。 著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。理想の男性は冴羽獠。理想の母親はムーミンのママ。小学3年生の息子と暮らすシングルマザー。

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