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トイレの時「え!あそこにピンポン玉?」それ骨盤臓器脱かも…

大笑いしたり、重い荷物を持ったりした時、尿漏れしてしまう。尿漏れを防ぐためにしょっちゅうトイレに行って絞り出していたら、ある時、トイレで拭いている時ピンポン玉みたいなものがあるのに気づいた……もしこうした経験があるなら「骨盤臓器脱」かもしれない。出産した女性の4割がかかるといわれる、この聞きなれない病気について、日本でも数少ない専門家の1人である東京医科大学産科婦人科学分野主任教授の西洋孝先生が、同病院市民公開講座「骨盤臓器脱の治療」で詳しく解説した。

腟から子宮、膀胱、直腸などが飛び出してくる

骨盤臓器脱(POP=pelvic organ prolapse)とは、骨盤を下から支える組織である骨盤底筋群と呼ばれる筋膜や靭帯が出産時などに損傷したりして、加齢にともなってゆるみ、腟壁などと一緒に膀胱・子宮・直腸などの臓器が下がってしまう病気だ。

こう聞くとギョッとするが、じつは珍しい病気ではない。スウェーデンでは、20才~59才の女性の30.8%、50才以上の女性の39.7%に、何らかの骨盤臓器脱症状があるという。またアメリカでは、経産婦の半分にこの症状がみられるという。

日本でも、出産した女性の4割がかかるといわれているが、あまり知られていないのが現状だ。

トイレが近い、尿漏れ、尿が出ない、便秘……

今まであまり大きく取り上げられてこなかった大きな理由は、命にかかわる病気ではないからだ。

骨盤臓器脱の主な症状は以下のようなものだ。

・トイレが近くなる
・尿漏れする
・尿が出にくい、残尿感がある
・便秘になる
・下垂感がある
・腟に何か挟まっているような感じがある

局部に違和感があったり、挟まっている感じがして歩きにくくなったりするが、それにより命に支障があるわけではない。しかし、この骨盤臓器脱に早い段階から取り組んできた西先生は、「骨盤臓器脱はQOL(quality of life=生活の質)に影響する病気です。自覚症状があり、生活に不自由があるようなら、ぜひ医療機関を受診してください」と言う。

こういう人が骨盤臓器脱になりやすい

骨盤臓器脱の原因はまだ完全には解明されていない。子宮を支えている骨盤底筋の基靭帯が緩んだり、骨盤底筋の各所が損傷したりといった、さまざまな要因が複合的に作用して起こるといわれている。

引き金となる要因は次のようなものだ。

・加齢(高齢になればなるほど増える)
・出産(経腟分娩)
・外傷などによる骨盤の損傷
・腹圧がかかりやすい行為(重いものを持つ、便秘でいきむ、喘息でよく咳こむなど)

なお太っていると腹圧がかかりやすいので、肥満している人もなりやすいという。また、遺伝的な要因もあるとのことなので、家族に骨盤臓器脱にかかった人がいる場合は気をつけたほうがよい。そのほか、腰痛持ちの人がコルセットでぎゅっと腹部や骨盤を締めると、押されて落ちてくることがあるという。

飛び出しているのに気づいたらどうする?

骨盤臓器脱に気づくのは、だいたい風呂場やトイレでだという。排尿後に拭くとき、また、身体を洗う時、違和感があって触れると、ピンポン玉のようなものがあるのに気づき、腫瘍ではないかと医療機関を受診する人が多いという。

骨盤臓器脱の場合、そのピンポン玉のようなものが、もしふにゃふにゃしていれば膀胱脱、硬ければ子宮脱の可能性が高いという。また、日中に活動しているうちに下がってくるので、朝は何ともなくても、夕方や夜に下がってきて気づくことが多い。

気づいたら、どうしたらよいのだろうか。

西先生は「指で押し戻してください」という。医療機関で骨盤臓器脱だと診断され、排尿時に何度も落ちてくるようなら、排尿前にきれいに洗った指で押しておくなどのことをしたほうがよいという。

骨盤臓器脱にならないために「3ない」運動を

毎回押して戻るならよいが、重い荷物を持つなど腹圧がかかることをした時などは、押しても戻らなくなることがあるという。そうすると歩行もしにくくなってしまう。

このため、骨盤臓器脱の恐れがある人は、腹圧をかけないために、3つのことをしない「3ない」運動を心がけてほしいという。

(1)重いものを持たない
(2)便秘でいきまない
(3)太らない

とくに出産した人はなりやすいので、日頃からこの「3ない」運動を心がけると予防になる。

所要時間1分の骨盤底筋体操は予防効果大

効果が高いのが骨盤底筋を鍛える骨盤底筋体操だ。腟を締めて骨盤底筋を鍛えるもので、以下の要領で行う。なお、腟を意識して締めるのは難しいので、肛門を締めるつもりでやるとよいという。

5秒間、肛門を絞める
  ↓
その後、パッと緩める

たったこれだけ。これを10回行う。所要時間はたった1分。これを一日に朝昼晩に分けて5セット。合計で50回やる。予防になるだけでなく、場合によっては出たものが引っ込んだ例もあるという。また、頻尿や尿漏れにも効果があるので、そうした症状がある人はぜひやってみるとよいだろう。

しかし、体操でもあまり効果が出ず、生活に支障があるという場合は手術をすすめるという。これについては次回「出産した女性の4割がなる骨盤臓器脱、その手術方法とは」で詳しく解説する。

西洋孝
にし・ひろたか 東京医科大学産科婦人科学分野主任教授
1994年東京医科大学卒業、アメリカ留学を経て、2017年より現職。専門は婦人科腫瘍学、ウロギネコロジー(Urogynecology)。ウロギネコロジーとはウロ(Urology=泌尿器科)+ギネ(Gynecology=婦人科)の造語で、泌尿器科と産婦人科の両科にわたる女性特有の病気を診療する科目。骨髄臓器脱の数少ない専門医の一人。

◆取材講座:「骨盤臓器脱(POP)の治療」(東京医科大学病院市民公開講座)

取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)

(初出 まななび 2018/06/09)

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